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マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
3. 最悪の選択
24/37

24. 開拓記の山


 俺でダメなら、と。外大陸から来た存在であるルーキスたちに外大陸への転移魔術を試してもらったり、色々な種族に海へ赴いてもらい、システムの壁を超えることができないか試してもらったが、魔王陣営の者が外大陸へ行こうとする試みはすべて失敗に終わった。


 遠隔での攻撃も試みるがすべて弾かれた。

 こちらが攻撃できるのは、システムの壁の向こうからこちらに来た者と物のみだ。


 残された手がかりは、アサナシアが攫われた場所に残されていた転移魔術の魔法陣くらいだった。あのあと降った雨で、少しかき消えてしまっていた。


 魔法陣はマヴロス大陸にはない魔法のようで、解読できる者がまわりにいない。広いマヴロス大陸内に解読できる漂流者でもいないかと魔物に捜索を命じる。



 紙に書き写した魔法陣を眺めながら、俺は城の廊下を歩く。先ほど、ルーキスに「寝てください」と言われたばかりだ。


「カタマヴロス様は私によく『寝ろ』と仰られますが、今はその言葉、そっくりお返し致します。

 アサナシア様が心配なのはわかりますが、ずっと動いていては体に障ります」

「そうだよ、魔王様 ボクが包んであげようか?」

「ありがとな、ふたりとも。今はひとりで考えさせてくれ」

「考えるのではなく……」

「わかったよ、寝るよ」


 ふたりにひらひらと手を振って、俺が向かった先はベッドの上ではなく。寝室の奥に作らせた、俺の秘密の部屋だ。



 石造りの窓のない部屋に、灯りをともす。

 部屋の中に高く積まれるのは、石の板や木の板。木の皮。そして紙、紙、紙の比率が一番多い。近ごろでは、本。

 様々な材質のものに書かれた俺の字。

 書くための木の机と椅子。開拓記録を残しておくための部屋だ。


 俺は机の上に魔法陣を書き写した紙を置く。以前、ゲームのマヴロスについて覚えておくために書き記した紙の束を引っ張り出してきて、紐をほどく。椅子に座り、読む。

 もう何度も読んだので、状況の打破につながる目新しい情報はないが、読み漁る。


 机の上に置いた灯りが、チラチラと影を落としている。

 読みながら、考える。



 俺はNPCで、ラスボスか。


 プレイヤーとラスボス。

 この世界がゲームを元とする以上、ラスボスはプレイヤーに倒される。

 こちらの陣営は、負ける。


 初めてルーキスに会った際の、幼い顔が思い起こされる。俺の言葉に輝いた、灰色の瞳のこと。


 どれだけ足掻いたとしても、俺たちは負ける。

 ごめんな、ルキ。約束は守れそうにない。


 だけど。



 俺は、開拓記の山を見る。

 アサナシアとの開拓の日々を思う。

 今、となりにいないアサナシアのこと。

 ちゃんとごはん、食べられているだろうか。



 握りしめる手に力が籠り、手のひらに爪が食い込む。


 ただで負けてたまるか。

 無かったことにされてたまるか。


 抗って抗う。前世の知識を駆使して、向こうのプレイヤーがされたら嫌なことをすべてして。


 最強のラスボスとして、マヴロス大陸に君臨してやる。


 宗教ルートは、マヴロス侵攻後、最速なら1年。通常のプレイでも3年ほどでマヴロス大陸の制圧が可能だ。


 でも、そうはさせない。

 そんな短期間で、攻略はさせない。

 させてやらない。




 半年後、アサナシアは帰ってきた。

 敵船に乗り込み、敵船の戦闘員を全員のすようなかたちで。「これは罠だ」と、まわりの誰もが俺に忠告するなか。

 敵船へ乗り、アサナシアに一歩、近づく。


 俺が考えていたのは別のことだった。

 アサナシアは本来のプログラム――プレイヤーに対するヒロインとしてのプログラムを取り戻したのだろうか、ということだ。


 俺への恋心というバグではなくて。



 しかし、予想や予測に反して。

 アサナシアはあのアサナシアのままだった。


 敵船の上で、俺を見つけたアサナシアの満面の笑みが、俺は嬉しかった。


「アサナシア、おかえり」

「ただいま、リョー!」


 アサナシアは俺に抱きついた。

 俺はアサナシアを強く抱きしめ返した。

 元気でよかった、ちゃんとごはんが食べられていたみたいでよかった、病気をしていなくてよかった。


 知らない異国の匂いなんてしなかった。

 ただ、海と長い航海と、アサナシアのにおいがした。



 それからアサナシアはすごく元気だった。

 別大陸でのことなんてまるっと忘れてしまったかのように、テンション高く振る舞い。


 まわりから『敵になっているのではないか』と疑いを向けられ、白い目で見られながら。

 いつもどおりのアサナシアで過ごしていた。


 元気だったんだ。

 アサナシアのお腹に、子どもがいると判るまでは。


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