23. ダイアログ
アサナシアが攫われた。
マヴロス大陸の海にはじめて敵船が現れ、それをルーキスたちと殲滅した日に。敵船の殲滅ののち、遠方にもう一隻。偵察船のようなものが見えた。
俺とルーキスは、わざと偵察船を逃す。
意気揚々と村に戻り、勝利を分かち合う場に。村の子どもとその親が駆け込んできた。
村から海へと向かう道で、見知らぬ不審な者がアサナシアの手を掴んだまま転移魔術を使い、消えるのを見た、と子どもは言う。
アサナシアは共に戦いたがったが、俺は「初戦では絶対に負けないから、城に居ろ」と言い聞かせて、さらにアサナシアを魔術で眠らせてから城を出た。眠ったのを確認してから、戦いの場に赴いた。
急いで城へ転移し、寝室に行くもアサナシアの姿はなく。アサナシアは俺が眠らせるのをわかっていて、なんらかの対抗打を用意していたのかもしれなかった。
子どもの話が本当だとして。
直観で、転移先は見逃した偵察船ではないかと思った。
俺は走り、アサナシアを追う。
崖から海に飛び降りて。
海の上、上空で、目視できる限界まで転移を繰り返す。転移先に飛んでは重力で落ちる。落ちながら飛び上がる。ぐわんぐわんと揺れる景色に酔い、吐き気を堪えながら転移を繰り返す。
アサナシアを追って。
海の向こうへ――
豆粒サイズの偵察船が、見えた。
転移する、そのとき。
ピコン、と。
聞き慣れた、ずいぶん懐かしい音を聞いた。
目前に、真っ黒な長方形のダイアログが立ちはだかった。ドット絵風の黒いシステムダイアログが、白のドットで書かれた文字で告げる。
『これより先には行けません』
俺は、システムダイアログに、その先に、魔法をぶちかます。しかし、壊れない。
どんな大魔法でも、システムの壁は壊れない。
豆粒ほどの大きさに見えていた船は、もう、見えなくなってしまった。
代わりに、また違う敵船が向こうからやって来るのが見えた。
船は、システムの壁を破ってこちらにやってくる。
俺は、システムの壁の先には行けない。
(は、)
俺は、理解する。
魔王ルートなんて、最初からなかったことを。
このマヴロスで進行しているのは、ずっと、宗教ルートであることを。
デフォルメ姿の、マヴロス大陸に転生した魔王は。チート能力も持たず、ステータスを見ることもできない。自分の手足を使ってすべてを築かなければならなかった魔王は、アサナシアと、村のみんなと、同じ存在だ。つまり。
プレイヤーは、俺ではない。




