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マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
1. アサナシアとリョー
2/29

2. はじまり 前


 目覚めると、黒い毛むくじゃらがあった。口のなかに何かが入っている。俺が吸っているのは、なんとも薄い味の飲み物だ。

(うわ!!!)

 驚いて口からそれを離す。

 咥えていたのは、獣の乳首だった。

(え!?!?)

 宇都宮餃子を食べていたはずなのに、なぜ、狼の乳首? 俺の宇都宮餃子は!?



 美しい黒い狼が、子どもたちに乳をやっている。そのなかに人間の子どもの姿をした俺が混ざっている。全裸で。


『目が覚めたのね、陛下』


 美しい母狼が念話で語りかけてくる。


『今の陛下は、力を失って子どもになっています。だから、私たちが保護させていただきました』


『陛下、どうか敵を退き、マヴロスに繁栄をもたらしてください』



――俺がマヴロスで目覚めた初日の話を、アサナシアは紫の瞳をキラキラさせて聴いている。


 父狼と共に、全裸でアサナシアを捜索するという恥ずかしいミッションを終えて、その翌日の夕飯どきのことだ。


 宵闇のなか、俺とアサナシアは焚き火を囲んでいる。子狼たちに囲まれて目が覚めてから、ふた月くらいが経っている。


 アサナシアに縫ってもらい、俺はようやく薄茶色の粗末な麻の服を着ている。

 アサナシアも着ているのは、粗末な麻布の服だ。


 文明のレベルがそのくらいなのだ。


「というわけでアサナシア、俺の当面の目標は、宇都宮餃子を食べることだから」

「うちゅみや……ぎょ?」

 アサナシアは首を傾げる。


「敵を退けることではないのですか?」

「敵はまだ来ないよ」

 たぶん。マヴロスの魔王ルートどおりなら。


 肉の入手は、まあ、何肉でも良ければ手に入るだろう。元のマヴロスは生き物は豊富なゲームだったからだ。制作チームが生き物が好きだったのだろう。

 


 元のマヴロス。

 俺が大好きな、バグの多い。膨大なデータ量にバグがバグを呼ぶ。でもバグすらも愛しいドット絵のサンドボックスゲーム。


 でも、ドット絵、どこに行ったんだ? と思うほどにこの世界はリアルだ。

 目覚めたときの洞窟の湿っぽいにおいも。黒い狼たちの毛並みも。そして乳の味も。リアルだった。


『マヴロスをモチーフとした異世界をつくってみました!』

『そこに宇都宮餃子を食べていた大学生を転移させてみました!』

……YouTubu(よーつぶ)のテロップが頭に浮かぶ。



 サンドボックスゲームとは、自由度が高く明確な目的を持たないゲームだが、マヴロスはおよそ20くらいのルートが用意されていて選択することができる。うちひとつが1番人気の『自由ルート』なので、サンドボックスゲームと呼ばれているわけだが――これは、自由ではないルートのひとつを選択したあとの展開だ。


 魔王ルート。

 魔王となり、メインマップの『マヴロス』を最初からつくる。

 魔物だらけで人間の少ない土地を、開拓していく。どんなふうに開拓していくかは、俺次第だ。



 目が覚めてしばらく、グレモースの洞窟というスタート地点で黒い狼たちと過ごしたあと、アサナシアを探しに行こうと考えた。

 

 そう伝えると、俺と焚き火を囲むアサナシアは不思議そうに首を傾げた。


「どうしてマスターは、私のことをご存知だったのですか?」


 俺はアサナシアに、マヴロス大陸はマヴロスというゲームの舞台だと説明をする。しかしアサナシアには理解できないようだ。


「げえむ?」


 道具が木と石と植物のツルでできていて、太陽が昇ったら起きて沈んだら寝る時代に、ゲームなんて言われてもピンとこないだろうな。

 

「とにかく、アサナシアは魔王ルート唯一の人の形をしたお助けキャラクターなんだ」


 ヒロイン候補のひとりでもあることは、伏せた。なんだか気恥ずかしかったから。



 アサナシアは、好感度が低いと敵にまわることもある。アサナシアに不遇な扱いをしすぎると、アサナシアに殺されるルートまである。


 なので俺は、なんとかアサナシアの信頼を勝ち得て、アサナシアに好かれたかった。


 このわけのわからない世界を生き延びるために。



「私は、マスターを助けるために、今ここにいますか?」

「うん? うん」

「そしたらマスターは、私に会えたとき、嬉しかったですね」

「ああ、嬉しかった」


 俺はうつむき、アサナシアから目を逸らす。


「あと、恥ずかしかった。裸だったからな」

「ふふ、はだかんぼの子どもの姿でしたけど、アサナシアにはすぐにわかりましたよ!」


 アサナシアはドヤ顔をする。


「あなたが私のマスターだって」


(このアサナシア、アホの子っぽいんだよなあ……)



 元のマヴロスはドット絵だが、キャラメイクがある。主人公とヒロイン格のキャラメイクが可能だ――ルート選択の前に。

 ヒロイン格に関しては性格もメイク可能だった。


 だから俺は俺の容姿が、デフォルト1の魔王の姿だったときに少しホッとした。黒い瞳が隠れるほどの、黒い癖毛の前髪。パーマかかっているマッシュって言えばわかりやすいか? 重たい髪型だ。


 顔立ちは、悪くはないと思った。子どもの姿だからよくわからんが。成長したらそこそこ美形なのではないか? 


 そういうわけで、俺はデフォルト1の魔王だった。だが、アサナシアは? 


 

 金色の長くてまっすぐな髪は、肩の下で揺れている。紫色の瞳は、まんまるで愛嬌がある。薄い唇。肌の色は白いが、健康そうな赤いほっぺだ。


 俺は黒髪ストレートが好きで、ルートに関わらず攻略に有利なヒロインは、いつも黒髪ストレートのややつり目……で、ツンデレな性格のキャラメイクをしていた。


 なので、アサナシアのデフォルト設定を覚えていなかった。

 まあ俺がデフォルトなのだから、デフォルトなのだろうけれども……。


 俺が遊んだ魔王ルートのアサナシアと異なりすぎて、ちょっと驚いている。


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