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マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
2. ふたりの開拓記
13/35

13. 春から秋にかけて

◯ 2年目 春 布と紙


 人間たちに『機織り』と『紙漉き』の概念だけ伝えておいたところ、機織り機のほうは、冬のうちに魔物たちに魔術で木を加工してもらって上手いこと作ってくれた。こんなんだっけ? と思うような部分もあるが実用には耐える。

 羊毛をつむいで、冬のあいだに絨毯のようなものを試作してくれていた。出来が良くて、ちょっと感動的だ。


 紙漉きは枠は作れたが、ちょうど良さそうな網が作れずで、春になったのでいろいろな素材を試してみると話していた。


 魔物たちは、人間たちの手先の器用さと探究心に感心しているようで、人間たちもまんざらではないようだ。人間たちの目に光が宿っているのを感じる。よかった。



◯ 2年目 春 畑づくり


 魔物たちとアサナシアと一緒に畑づくりを開始する。魔術で村の近くの木々を薙ぎ倒して更地にし、耕す。


 更地にするとき、使えそうな種子がないかをアサナシアと探す。すると結構な数の野菜の原種のようなものが手に入った。

 丸いかたちではないが、キャベツっぽい味のする葉っぱとか。ネギもあった。ほくほく。


 死なないのでひとつずつ俺の舌で試していくが、毒にあたって倒れることもしばしばあった。主人公なんだから毒無効チートが欲しい……とぼやきながら、毎回、アサナシアに回復魔術をかけてもらっている。


 畑に野菜を植えたり、とった種子をまいたり、実験する。木のふだに日本語で『キャベツっぽいやつ』とか『菜の花』とか書きながら。


 やや小ぶりなじゃがいもも見つけたので種芋として植える。芋類を増やしていけば、今年の冬はもうあんな思いはしないで済むはずだ。畑はどんどん大きくなり、充実してきた。断食冬眠しなくて済むと思えば、やりがいもあるというものだ。



◯2年目 春 家づくり


 畑づくりの副産物として木材がたくさん手に入ったので、床がやや高い家の建築にとりかかる。とりあえず倉庫として用いる予定だ。


 俺に建築の知識がないばっかりに、東南アジアの貧しい地域の家みたいな感じになった。雪が降る地域なのに木と木の間に隙間が多い。魔術で木と木の隙間を土をかためて埋める。あんまり見てくれがよくない。

 

 アサナシアは独創的だと褒めてくれたが、これがマヴロスの家の原型になるのかと思うと、うーん……。


 ゲームの中ならボタンを押せばなんでも上手くできるのに、この異世界マヴロスはリアルすぎて、どうにもうまくいかないことのほうが多い。



◯ 2年目 春から夏 小麦


 アサナシアの案内でマヴロス中をめぐる。

 これを俺たちは「散歩」と呼んでいる。


 散歩中に綺麗な野原があるなあと思ったら、小麦を発見した。青々として群生している。


 今年は、村に持っていくよりここで育てたほうが確実だと感じた俺は、アサナシアに場所を覚えていてもらい、夏までちょくちょく様子を見にきて収穫しにくることとした。アサナシアとふたりで小麦以外の植物を取り除いたり、まめに世話をした。


 夏になり、収穫しようとすると風で散る散る。小麦ってこんなに散るものなのか? マヴロスだからか?


 アサナシアとふたり、魔術でひたすら小麦を集め、麻のふくろに詰めて持ち帰る。



◯ 2年目 渋い実


 夏から秋にかけて、村の畑では様々な作物がとれた。じゃがいもの栽培に成功したことで、今年の冬は起きていても越せそうだと感じている。


 羊だけではなく、牛と鶏と山羊の飼育もはじめたから、食生活が豊かになった。


 アサナシアは大喜びで、ゆでたまごとか、たまごやきとか、俺が教えたとおりに作って食べている。砂糖がほしいがまだないのでハチミツで代用している。

 チーズっぽいものもできたので、焼いたじゃがいもにかけて食べたり。

 食が豊かだと元気になる。


 俺以上に、アサナシアが新しいレシピのたびに興奮して目を輝かせて、嬉しそうにつくって元気に食べるから、俺も嬉しい。

 


 油が、動物性由来のものしかないのが気になっている。牛や羊の脂で焼いているので、どうしても牛や羊の味もうつるのだ。

 春に菜種がとれたときに、何も考えずに全部、植えてしまったのがよくなかった。菜種からも油がとれたはずなのに。



 ある日、アサナシアと散歩していて、木に成る美味しそうな赤紫色の果実を見つけた。もいで食べようとする俺をアサナシアが止めた。


「マスター、まだ、おいしくないですよ」


 たしかに果物は鳥や獣に食べられがちなのに、この実は残っている。

 俺は実をもぐ。試しに食べる。強烈に渋い。


「もー! マスターったら」


 うめく俺にアサナシアが回復魔法をかける。


「冬になって黒くなったら食べられますから、それまでがまんです」


 俺は木を見上げ、気づく。

 緑から赤紫に色づく、食べられない美しい実。黒くなれば、食べられる。

 これ、オリーブかもしれないな。


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