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マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
2. ふたりの開拓記
11/37

11. 文字 羊

◯ 1年目 夏 文字


「マスター、ハムスターってなんですか?」


 アサナシア、日本語が読めている。

 洞窟の壁に書いた俺の日記を読んでいる。


「や、やめろ! アサナシア!

 読まないでくれ! 頼む! 個人的な書き物なんだ」

「わかりました。でも、ハムスターについて教えてください」

「ええっと、大きさはこんくらいで……」


 俺は両手をまるめて、ハムスターの説明をする。


「かわいい」

 最後に付け加えると、途端にアサナシアの機嫌が良くなった。

「ハムスターはかわいい動物なのですね」


 日記に『アサナシアがハムスターに似ている』と書いてあったのが気になったようだ。

 かわいいと言ったらご機嫌になった……ほお袋のことは伏せておこう。



 日記を書くにあたり、書くものがなかったので、魔術で炭をあつめて砕き、水で練って尖った石につけて壁に書こうと思ったのだがうまくいかず。半ばやけになり、魔術で焼きつけるようにして書いた。まさか読まれるだなんて思ってもいなかった。


 異世界なんだから、異世界言語だろ!? 

 でも、そういえば俺はマヴロスに来てから言葉について困ったことがない。このマヴロスってもしかしなくても日本語版がベースで……だから、この世界の使用言語は日本語なんだろうか……?


 不思議な力で翻訳されているとか、そういうことではないらしい。


 文字は村で見たことがなく、だから油断していた。俺にしか読めないと思い込んでいた。



 開拓記をつけたいが、アサナシアに読まれるのは困る。アサナシアを連れて、紙の代わりになりそうなものを森に探しに行った。

 木の皮や木の板を集めてきた。魔術で限りなく薄く、木を削ってみた。

 とりあえずしばらくは、この薄い木に開拓記を書こうと思う。食料のことや冬支度が落ち着いたら、いずれは紙漉きにも手を出したい。


 繊維が豊富な草なら紙ができるのか? 小学校でやった和紙づくり程度の知識しかないが、時間があるときに大勢で試せばそれなりのものが作れそうな気がする。



◯ 1年目 夏 羊


 村の冬はすごく寒くて、毎年、人間たちの越冬が大変だそうだ。毎年何人か、寒さから病になり亡くなっていると。


「魔物はなんとかなりますが人間には毛皮がないので」

 グルーニが話す。毎年、洞窟の奥でみんなで集まり越冬しているとのこと。

 そういえば牛や狼の毛皮は見かけるが、羊毛を見かけていない。


 アサナシアに羊の絵を描いてみせると、知っているというので転移魔術で案内してもらう。

 たくさんの野生の羊が居た。ゲームのマヴロスにも動物ごとにこういう場所があった気がする。

 ふたりで魔術を使いながら、人間の放牧場に羊を追い立てる。人間たちはびっくりして作業中断となった。めえめえめえめえ。


「眠いときに、数えられるくらい居るな」

 冗談を言い笑うが、アサナシアに1ミリも通じなかった。


 アサナシアは楽しそうに、無邪気に羊を追い立てている。

「まてー!!!」

 まるで牧羊犬みたいな美少女だ。


 バリカンがないので羊の毛を刈るのが大変だった。最初にグルーニが試した一頭目は、間違って殺めてしまい。みなで試しに食べることとなった。

 ゴブリンたちが生き物の皮を剥ぐのが得意だというので任せると、器用にコツを掴んで毛をナイフで刈っていた。


 焼いた羊の肉に塩を振ったものは美味しかったが、現代人としてはジンギスカンのタレが恋しい。野菜と一緒に食べたい。野菜らしい野菜もまだほとんど無い。この村は、果物と木の実と肉と魚と野草を食べている。



 寝る前になってアサナシアが聞いてきた。寝床はふたつになっていて、すこしあいだをあけて隣同士で寝ている。


「マスターは眠いとき、羊を数えるのですか?」

「羊は、眠れないときに数えるんだ。そうすると眠れるって信じられている。

 体が痛いときとか、よく数えていた」


 アサナシアは心配そうにした。

「マスター、体が痛いのですか?」

「もう痛くないよ」

「よかった」

 アサナシアは微笑むと、洞窟の天井を見上げた。


「私も数えてみます! ひつじが一匹、ひつじが二匹……」


 アサナシアの声が止まったので不思議に思ってとなりを見ると、もう寝ていた。

 うそだろ? 二匹で寝た。


 アサナシアには羊を数えることは必要ないんじゃなかろうか。寝つきが良すぎる。

 アサナシアのパートナーになる人は大変そうだな。


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