10. こよみ 塩
◯ 1年目 夏 暦
本格的に開拓をはじめるにあたり、日記を書こうと思う。暦がないと不便だからゲーム同様「マヴロス暦」とでもするかな。
アサナシアと俺が出会ったのは初夏のことだった。村に着いてすぐに日差しが強くなってきた。
ゲームのマヴロスには四季があった。これは、日本人が開発したゲームだからだと思う。
マヴロスの手つかずの自然は本当に美しくて、桜があるかは知らないが、春が本当に楽しみだなと思う。
◯ 1年目 夏 塩
アサナシアは本当によく食べる。なんでも美味しそうに頬張っている。昔飼っていたハムスターみたいでかわいい。口からはみ出ているのがカエルの脚だったりもするが、まあ、かわいい。……かわいいか?
アサナシアの食欲に、俺もつられて食べるのだけど、この世界にはまだ調味料や香辛料がほとんどない。果物とか木の実、そのまま食べても美味いものは美味いんだけど……肉とか魚がやや味気ない。
なぜか、ニョクマム? だけあるようだ。俺がグルーニに献上されて、舐めてみてベトナム料理屋のニョクマムだなあと思っただけだが。
アサナシアに海への案内を頼む。最初「海に案内してくれ」と頼んだら東尋坊のような断崖絶壁の崖に案内を受けた。波が崖に当たり砕け散り、とてつもないサスペンスドラマ感。
「これじゃ海水が汲めない」と話すとアサナシアはきょとんと不思議がっていた。
ちょうどよい浜辺に案内を受ける。波の色が澄んで美しく、驚いた。
持参した土器で海水を汲み、魔術で薪に火をつけて熱する。アサナシアとじっくり待つうちに吹きこぼれ、慌てて火を消した。
だいぶ吹きこぼれてしまったが、塩の完成だ。
海に入りアサナシアと魚をとる。
アサナシアは躊躇なく服を脱ぎ捨て、全裸で魚をとっている。美しい透明度の高い海で、魚を全裸で乱獲する美少女。目のやり場に困る……。
俺は恥ずかしさが勝って、服を着たまま海に入る。
「マスター、せっかくの服が濡れてしまいますよ!」
アサナシアは(脱げば良いのに)と思ったようだが、俺は現代っ子だ。
心までは古代人になれない。
一匹も魚のとれない俺の横で、アサナシアはぽんぽんと魚をとっていく。
目視したら魔術で動きを縛れば良いのだとアドバイスをもらい、そのとおりにしたら一匹だけ捕ることができた。すげー嬉しい。
魚を不器用に捌き、塩をパラパラと撒き、火に当てて焼く。俺が魚の内臓をとるのを、服を着たアサナシアは不思議そうに見ていた。
焼いた魚をアサナシアに渡すと、目を輝かせて食べる。
「マスター 塩ってすごいですね! とーっても美味しいです!」
「ああ、美味いな」
アサナシアは塩のかたまりが口に入ったようで、しぶい顔をした。
「しょっぱかったな」
「しょっぱい?」
「ああ、しょっぱい」
アサナシアは舌を出してみせ、俺は笑う。
「村のみんなにも塩の作り方を教えて、広めていこうな」
俺ももうひとかじり、焼き魚を口にした。
うん、この味だ。美味しい。




