1. アサナシアとリョー
「なあ、アサナシア、俺って――死んでいると思うか?」
柔らかな太ももの感触を後頭部に感じながら目を開くと、俺の顔の上に金色の髪先が揺れている。手をアサナシアの長い髪に伸ばし、梳く。
美しい紫色の瞳を細めて、アサナシアは微笑む。
「マスターは死にませんよ、不老不死の魔王ですから!」
「いや、そうじゃなくて……何回も話しただろう? 元の世界の俺、カタマ リョウは生きていると思うか?」
「んー」
アサナシアは眠る俺をずっと膝枕してくれていたようだ。重いだろうに、と俺は起き上がる。
一緒に過ごして1年くらい経つが、『アサナシアはNPCである』という気持ちがいまだに拭えず。どこまでがプログラムされたもので、どこからがそうではないのか。元の世界の『人間そのもの』に感じるのに、ふとした瞬間にアサナシアの言動にプログラムを感じることがあって、俺はずっと(アサナシアが頼りだが、アサナシアは俺の味方でいてくれるのだろうか)というかすかな恐怖を感じている。
でも俺は、アサナシアが好きだから。
信じたい俺もいる。
「それは私にはわかりません。私はマヴロスの住人ですから」
「そうだよなあ」
アサナシアの目の中に、俺の姿が映っている。
目が隠れるほどの黒いもじゃもじゃの髪の、少年の魔王の姿が。
「でも私は、リョーに会えて嬉しいですよ」
アサナシアは内緒話をするように、口を白い手で囲い。まっすぐだが柔らかそうな金色の髪を揺らして俺の耳元で話す。
「……俺をその名前で呼んでくれるのなんて、もう、アサナシアだけだ」
「マスターがそう呼べと命じたからですよ」
「アサナシアにだけ呼んで欲しいからな」
「ふふ」
アサナシアは得意げに笑う。
「だって私は、マスターの優秀なアシスタントですものね!」
「そうだな、お前がいないと困る。
マヴロスの広大な大地を、俺ひとりでどう開拓して良いかわからなくなるからな」
「マスターは方向音痴ですものね」
「アサナシアが地図に強いからちょうど良いだろ」
「私がいなくなったらどうするんですか?」
「だから、そばにいろ、そばに」
俺の言葉に、アサナシアはきょとんとして。
それから頬を赤らめて、満面の笑みで笑いかけた。
「はい、マスター!」