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2話

 いやまあ、俺がヒロインの弟だからって何も変わらないけどな。

俺は学校に進学する気はないから、ストーリーには関わらないし。

そもそもまだこの乙女ゲームやってないから、シオリから聞いただいたいのあらまししか知らないし。

ゲームは好きだが、自分が冒険して無双したい訳じゃないし。

ただ、実家で暮らすだけで、スローライフできるなんて、最高じゃねえか。

前世現世面倒くさがりなところは変わらないと自負している。

まあ、まだ中世ヨーロッパな世界だからか、それぞれ悪気はないと思うけど、男尊女卑よりなところがあるから、前世家事分担していたように、これから俺もやっていけば、みんな負担にならないほのぼのした生活が送れるって訳だ。

「…そろそろオルテンシアも帰ってくるな」

これからの予定を頭の中で組み立てていたところに、父さんが話してきた。

「確か来週あたりって、お姉ちゃん手紙くれたね」

「アズラたちの学校は終わったのに。王都の学校は大変だな」

「もう春休みには入るけど、友達と遊んでから帰るらしいわ。もしかしたら、友達を連れてくるって、書いてたもの」

オルテンシアは王都の学校に行って、夏休み冬休みには帰ってきてくれた。

手紙のやり取りはしているが、直接会うのは冬休み以来だ。

「もしかしたら、いい感じの男の子連れてくるかもしれないわね」

「え?」

義姉さんがきゃぴきゃぴ笑いながら言った言葉に、俺・父・兄の男性一同は固まった。

俺より下の弟たちはまだ、この言葉の深刻さには気づいていない。

「男の子で仲良くできた子たちもいるみたいでしょ。なら、好きな子とか恋人とかいてもおかしくないでしょう」

「そうだよなあ。俺がオルテンシアの年にはもう、エミルと出会っていた訳だしな」

楽観的なスカイはもう受け入れ始めている。

いや俺も、前世と同じく姉を幸せにしてくれるような人なら、認めるのはやぶさかではない。

でも、ここは乙女ゲームの世界で、オルテンシアは乙女ゲームのヒロイン。

まず、オルテンシアが行った学校が、オルテンシアが唯一の平民で、貴族しか通っていない学校だということが、この家族の頭の中からすっぽり抜け落ちている。

そして、俺の記憶通りだと、メインヒーローはここレイアニ王国の第一王子、ハルト・レイアニ。

そんな大物が庶民の我が家にやってきたら、みんな腰を抜かすに決まっている。

他の攻略対象も宰相や将軍の息子など、雲の上の存在だ。

そして、よくよく思い出すと、この乙女ゲームはだいたい1年かけて攻略対象を落としていき、春休み前の終業式の後のパーティーで、恋人として結ばれるといった内容だと聞いた。

もう今この時点ではルートは確定しているということだ。

もちろん、オルテンシアが幸せで、オルテンシアに対してしっかり責任を取ってくれるなら、第一王子だろうが、ヴィオラの恋人として、受け入れる。

しかし、オルテンシアの弟という立場の俺にとって、最悪な展開、逆ハーレムルートというものがある。

もちろん、責任感の高いオルテンシアが無責任に何人もの男と付き合うなんてことは考えづらいし、考えたくもない。

でも、もしこの世界の強制力によって、オルテンシアが攻略対象全て落としてしまったら。

それでも、ヴィオラが幸せなら、受け入れ、受け入れ…。

「受け入れられるかぁ!」

テーブルをバンと叩き、思わず立ち上がる。

俺の大声で、みんな体をびくりと揺らす。

「どうした、アズラ。そんな大声出して」

「どうせ、お姉ちゃんが恋人連れてきたらどうしようか、悩んでいたんでしょ。アズラお兄ちゃん、シスコンだから」

「うっせえ。そんな単純な問題じゃねえよ」

俺は今まで考えていたことを、乙女ゲームで知った情報を取り除いて、話していった。

オルテンシアの学校には、第一王子が通っているという情報を知り、ことの深刻さを理解してくれたようだった。

「そういえば、オルテンシアが王都の学校のスカウト受けたとき、第一王子を見かけたという噂が流れていたような」

「そのときから、フラグ立っていたのかよ!」

テーブルに拳をガンと打ちつける。

「お姉ちゃん、王子様と結婚するの?」

「玉の輿ってことじゃん!」

弟妹たちはお金持ちになれるかもしれないと、無邪気に喜んでいる。

うちはすごい貧しいってほどじゃなくて、でもすごい裕福ってことでもない。

贅沢する余裕はなかなかないからな。

「オルテンシアが幸せなら、いいのかなとも思うけど…」

「でも、王子様相手だと苦労するんじゃないか?」

「俺たち庶民と住む世界が違うもんな」

「でも、しっかり者のシアちゃんなら、王女様になってもいいんじゃないかとも思うのよね」

大人たちはそういう視点もあるのか。

確かに、ゲームが終わったあとも、この世界では生活は続いていくからな。

「じゃあ、俺見てくる」

「「え?」」

顔を見合わせて話し合っていたみんなの視線がこちらに向く。

「今日か明日に出れば、終業式の日にまでには王都にはつくと思う。シアが連れてくる前に、相手が誰だか確認してくる」

「そんなお金一体どこから…」

「夏休みに友達と旅行行こうって計画立てて。今貯まっているくらいなら、往復の運賃と一泊するくらいの余裕はあるんじゃねえかな」

すまない、マイフレンズ。

今から夏休みまでに多く稼いでおく。

「まあ足りなくても、王都なら稼ぎ口たくさんありそうだし」

「そんな、アズラばかり負担になるような…」

「俺が一番気になっているんだって。シアの相手が誰なのか」

家族相手には、逆ハーレムルートのことは言ってないからな。

乙女ゲームという前提がなきなゃ、自分の身内がそんなことするなんて、考えないだろ。

「まあ、アズライトも家のことするくらいしか、やることないものね」

「いっそ王都で就職先でも探してきたらどうだ?」

「しないっての。シアのこと分かったら、すぐ帰るし」

「まあ、こんな機会でもなければ、アズライトは外に出ることもないだろう。冒険でもしてきなさい」

家業をするって言っているのに、ニートを追い出そうとする態度みたいで複雑だが、俺はこうして、王都へと旅立つことになった。

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