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1話

 「姉さん、逃げて!」

そう叫ぶ自分の声で目が覚めた。

はあはあと、息を切らしている。

目の前には、知っているような知らないような天井。

木製で隙間なく、並べられている。

むき出しではなく、壁紙が貼られていたような気がするが。

「夢見が悪かったような」

頭を抱えながら、起き上がる。

寝床も床に布団が敷かれているのでなく、木製のベッドが置かれ、その傍らには靴が置かれている。

玄関に置かれているものではないのか。

頭の中で二つの生活が入り混じって、混乱している。

整理するのにしばらくかかり、ベッドから体を出すことがなかなかできなかった。

「俺、死んだんだな」

その結果分かったのは、花宮陽人としての人生が終わったということだった。

刺されたあと、玄関で倒れた俺にパソコンのコメントなど見る余裕はなかったが、神様視点とでもいうのか、姉からストーカー被害に遭っていたというコメントが上げられた。

音声を切り忘れていたので、ストーカーの発言や俺が倒れる音が生で流れてしまったようだった。

何でシオリは言ってくれなかったのかな。

心配をかけたくないとは言っていたが、それでも姉が悩んでいたのなら、助けたかった。

「あの後どうなったんだろ」

あのストーカーは弟の俺をシオリの恋人と勘違いしていた。

本当の婚約者の義兄さんに被害いかないかな。

それより、シオリに直接手を下すようなことしないか。

警察に相談しているし、俺を殺すという直接な犯罪をしたから、すぐに捕まるとは思うけど。

俺が死んで、シオリは泣いたのだろうか。

両親が亡くなってから、ずっと一緒の家族だったもんな。

このせいで、義兄さんとの結婚が取りやめにならないといいが。

しかし、今は心配しても、花宮陽人の人生を取り戻せる訳ではない。

今の俺は、アズライト・イーリス、15歳。

農業を営む大家族の次男である。

自分の前世をようやく受け入れることができた。

あんまりゆっくりしていると、朝食を急かされるので、俺はベッドを抜け、靴をトントン履き鳴らし、部屋から出た。

「おはよう、アズくん」

「おはよう、義姉さん」

今世の俺は次男なので、上に長兄がいて、彼には奥さんがいる。

俺と10以上離れている長兄のスカイには数年前に結婚した奥さんがいて、彼女も一緒に住んでいる。

エミル・イーリス。

現在身ごもっていて、ゆっくり休んでほしいのだが、母とともに毎日かかさず、朝食に限らず毎回の食事を作ってくれている。

「あんたさっさと食べなよ」

「分かってるって、母さん」

しかし、父、母、長兄、義姉、弟二人、妹二人が既にいるテーブルは広めに作られてはいるが、二人暮らしの頃を思い出したあとは圧倒的だ。

「お兄ちゃん、遅いよ」

「叫び声聞こえたけど、何かあった?」

俺のすぐ下の妹リーファと弟コーラル。

「ああ、怖い夢見ただけ」

「ふーん。まあ、でも今日から春休みとはいえ、あんまり遅くまで寝てないでよ。義姉さん、片付けるの遅くなるし」

「それは悪かった。まあ、春休み関係なく俺家で過ごすだけだから、これからはできること増えるし」

「お前、本当に学校行かないのか」

寡黙な父が口を開く。

「家は俺が継ぐし、アズラは何でもやっていいんだぞ」

「まあ、家業は何人いても困らないだろ。学校に行くにしたって、もう受験期間終わったから、今から通えないし」

「そうかもしれないが…」

「オルテンシアみたいに特待生で行けるほど頭が良い訳でもないから、家業で慣れた仕事をやっていた方がいいって」

俺は中学にあたるところまで通っており、高校という選択肢もあった。

しかし、特別勉強が好きな訳でもなく、そのまま家業の農業をすることを選んだ。

ん、オルテンシア?

どこかで聞いたことあるような。

ついでに俺の苗字のイーリスも聞き覚えがある。

「オルテンシアはまあ特別だろ。学校でも主席の特待生で、平民のうちから生まれたのに、魔法が使えるんだし」

「王都の貴族の通う魔法学園に無償で行けるんだもの。シアちゃんすごいわよね」

「お姉ちゃん、すごい!」

「お姉ちゃん、かっこいい!」

末っ子双子のレモンとオレンジは無邪気にはしゃいでいる。

この設定もどこかで聞いたことある。

「オルテンシア・イーリス?」

「どうした、自分の姉をいきなりフルネームで呼んで」

オルテンシア・イーリスって、確か俺がやろうとしていた乙女ゲームの主人公の名前だったような。

今までの生活を振り返ると、ゲームの舞台になりがちな中世ヨーロッパ風な異世界って感じだ。

魔法も存在するが、中学まで周りが平民だけだったこともあり、魔法を使えるのは先ほども言った通り、一つ年上の姉、オルテンシアのみ。

オルテンシアだって使えるのが分かったのは、去年だし。

俺も通っていた中学で生徒会長をやっていて、責任感が高かったオルテンシアは、友人が大怪我をしたことで覚醒して、治癒魔法を使えるようになった。

そこを王族関係者に見つかり、高校からは上京することになったという。

本当にゲームの通りの設定だ。

俺が転生したのは、乙女ゲームのヒロインの弟のようだった。

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