ベスト(?)の打順
ある野球マンガで、監督が悩んでいた。
もうすぐ夏の地方予選が始まる。
その打順をどうしようか。
監督は悩んでいた。
というか、そのマンガの作者が悩んでいた。
今や野球理論は日進月歩だ。昨日までの最強理論が、あっさり覆ることもある。
たとえば、「チーム内最強の打者は一番に置くのが良い」という説があるが、他にも「二番に置くのが良い」説、「三番に置くのが良い」説、「四番に置くのが良い」説・・・・・・。
どれが本当に正しいのか。
ただのマンガ家には難問すぎる。
それでも必死に考えた結果、
「人気投票をします」
打順を読者の判断に委ねることにした。「人気投票で上位のキャラクターから順に、一番から九番まで並べる」のだ。
これなら、人気のある者ほど打席が多く回ってくるので、読者も喜ぶに違いない。理想の打順だ。
こうして悩みは解決した。
それからしばらくして、読者からの人気投票により、このチームの打順が決まった。
マンガ家はさっそく続きを描き始める。
マンガの中で監督が、何人かの選手たちに向かって、
「お前たちにはすべての打席で、凡退してもらうことになるだろう」
これは作者の意向だ。
人気のキャラクターを活躍させながらも、試合の方は接戦にしたい。
なので、人気のそこまで高くない者たちには、引き立て役に徹してもらう。
「悔しかったら、読者に媚びろ」
人気投票は毎月開催。それによって、たとえ試合中でも打順が変わる。
監督からの説明に、一人の選手が質問する。
「あの、今回の人気投票の結果だと、マネージャーの一人が四番になりませんか?」
「そういうことになるな。もちろん四番を打ってもらう。秘密兵器登場だ」
「監督も六番ですけど」
「たくさんの読者がそれを望んでいるのなら、その期待を裏切っては失礼。そういうわけで、お前は補欠だ。レギュラーになりたければ、このチーム内で少なくともあと二つ順位を上げろ」
このチームでは読者からの人気で打順が決まる。野球理論など完全無視だ。
とはいえ、マンガなので「ご都合展開」が可能。色々な幸運が重なり、主人公チームは地方予選を順調に勝ち進んでいく。
準決勝では、監督、マネージャー三人、寮で飼っているペットが打順に名を連ねた。補欠選手たちは頭を抱える。
主人公の打順も今や九番だ。次の人気投票の結果次第では、ライバル校との決勝戦なのに、補欠になるかも。
しかも、夜中にこっそりバットの素振りをするなど、地味な努力をしても無駄だ。一発ギャグでも考えた方が、順位は上がる気がする。レギュラーになりたければ、とにかく読者に媚びて媚びて媚びなければ・・・・・・。
そして次の人気投票、その結果が出た。
主人公の順位は・・・・・・。
人気投票の結果を見て、作者は頭を抱えていた。
しかし、この方法でここまでやってきたのだ。人気投票の結果が最優先。このマンガにおいての絶対ルールだ。
主人公チームはライバル校との決勝戦に敗れ去った。相手チームの方に、人気の高いキャラクターが多かったのだ。
このマンガにおいては、読者からの人気が最優先。試合の勝敗にも影響する。主人公は代打で三振、エラーも記録した。
ところが、次の人気投票では、上位の顔ぶれががらりと変わる。主人公たちなど、地方予選で敗退した学校の選手たちがずらりと並んだ。
この結果に、マンガ家は本気で頭を抱える。
しかし、仕方がない。読者がそれを望んでいるのなら・・・・・・。
ヤケクソになって叫ぶ。
「ご都合展開、全解放!」
主人公に勝ったライバル校、その全国大会一回戦の相手は、「大宇宙クローン帝国学園・高等部」に決まった。
クローン技術を使う難敵である。
次回は「ラジオの実況」のお話です。