涼しい環境で
夏の高校野球、その全国大会が間近に迫っていた。
今年は低反発バットが導入された影響からか、地方予選での戦い方に変化があった。ボールの飛距離が短くなったので、ホームランをほとんど狙わない。
それよりも盗塁だ。走って走って走りまくる。日本各地の地方予選で、機動力の高いチームが躍進した。
そのため、ピッチャーの負担が例年以上だ。盗塁しまくるチームは、いくらでも走りまくる。
それに加えて、この暑さだ。
野球のヘルメットの上に生卵をのっけていたら、目玉焼きになった、しかも焦げていた。そんな状況である。
最近ではさまざまな暑さ対策をしているとはいえ、それでも厳しい。
ある夜、一人のピッチャーが天に祈った。
(全国大会では、少しでも涼しい環境で試合をさせてください。お願いします)
この願いをたまたま、野球が大好きな女神さまが聞いていた。
そのピッチャーがそこそこ美形だったこともあり、願いごとを叶えてあげることにする。
「ベっスボーマ、ベっスボーマ、ベースボーるピープルルルるー♪」
神さまパワーを使うと、あら不思議。
全国大会を行う野球場、その下の地面が勢いよく盛り上がっていく。
女神さまはこう考えたのだ。
平地よりも、山の上の方が涼しい。高いところに行くほど気温が下がる。だったら、野球場のある場所を高くしてしまえば・・・・・・。
「このくらいで、いいかな」
土地の隆起が止まる。野球場の海抜高度は、三〇〇〇メートルに達していた。
でも、これで終わりにはしない。これだけだと、選手たちやお客さんたちが野球場に行くのが大変だ。
なので、もう少しサービスしておく。
「ベースボーるピープルルルるー♪」
山の下と野球場とをつなぐ、高速エレベーターをつくってあげた。神さまパワーはすごいのだ。
こうして始まった全国大会。
すぐに各チームは気づく。
涼しいけれども、酸素が薄い!
こんな場所で全力疾走なんてしようものなら・・・・・・。
今年の大会、誰も盗塁しようとしなかった。
次回は「ある野球マンガ」のお話です。