俺たちの夏はまだ終わっていない
夏だ。高校野球の地方大会が行われている。
その決勝戦で俺たちは、宿命のライバルがいる学校と対戦した。
このあと全国大会に勝ち進むことができるのは、どちらか一校のみ。
五時間にも及ぶ激闘の末に、相手の学校が勝った。
俺たちは準優勝だ。全国大会へは進めない。
俺は試合後、ライバルに声をかける。
「全国大会でも暴れてこいよ」
「ああ。任せてくれ」
これも青春の一ページだ。敗れたけれども悔いはない。
そして、その翌日だ。
昨日の試合には負けてしまったが、俺たちにはもう一つの戦いがある。
日が昇る前から、その会場に向かっていた。
しばらくして、早朝の野球場に着く。
ここが決戦の舞台だ。『一塁ベース積み上げ選手権大会・地方予選』の会場である。
ルールは簡単だ。一チームは四人で、規定時間内に「一塁ベースをいくつ積み重ねられるのか」を競う。勝てばもちろん、この競技の全国大会に出場だ。
野球の練習をする合間に、こっちの練習もしてきたので、そこそこ自信がある。
目指せ優勝、目指せ全国大会だ。
俺たちの夏はまだ終わっていない。
とはいえ、他の学校も考えることは同じだ。高校野球の地方大会で敗れた学校が、ぞくぞくと集まってくる。
この中から全国大会に勝ち進むことができるのは、たった一チームのみだ。
野球の方では駄目だったけれど、『一塁ベース積み上げ』で全国へ。
この競技が始まったのは、およそ十年前のことになる。
少子化による野球部の減少、それへの対策の一つとして考案された。「少人数でできる、野球道具を使った新スポーツ」だ。
その人気は年を追うごとに高まっている。野球部以外の生徒たちが貸切バスで応援に駆けつける、そんな学校も今や珍しくない。インターネットによるライブ中継も行われている。
日本記録は一〇三枚。世界記録は一一〇枚。
で、俺たちの自己ベストは九〇枚だ。高校生としてはトップクラスの数字で、この地方予選の優勝候補らしい。
この競技ではバランスが重要だ。ベースを高く積むほど、難易度は跳ね上がっていく。
「おおーっと! ここでベースのタワーが崩壊だー!」
野球場にいるアナウンサーが叫ぶ。
他の学校が失敗した。記録はゼロ枚。バランスが狂うと、一瞬でああなるのだ。
少し緊張気味の俺たちに、審判が告げてくる。
「それでは、積み上げを開始してください」
さあ、本番だ。俺たちの夏はまだ終わっていない。
そして、一か月後だ。
俺たちはエジプトにいた。
地方予選で優勝し、全国大会でも優勝した。これから世界大会だ。高校生の世界一を決める戦い。
俺たちは日本代表として挑戦する。なお、今年はフランス代表が強いらしい。
「それでは、積み上げを開始してください」
金色に輝くピラミッドの前で、俺たちは一塁ベースを積み上げていく。
目指せ優勝、目指せ世界一だ。
俺たちの夏はまだ終わっていない。
次回は「バット置き場」のお話です。