97.麻痺を治す
カイ・パゴスの港町、ニサラキへとやってきた私達。
街を包んでいた氷を、私は闘気の熱で消し飛ばした。
ややあって。
「助かりました……なんとお礼を言ってよいやら……」
街長のドワーフが私達に頭を下げてくる。
「お気になさらないでください。それより、けが人はいますか? 治療いたします」
事情を聞くのは治療を終えてからだ。
すると街長ドワーフが首を振る。
「怪我はしておりません。ですが……」
ぶるぶる、と街長の体が震えている。
いや……体ではない。腕だ。
「もしや、凍傷かっ!」
ガンコジーさんが叫ぶと、街長さんがうなずく。
「はい……。手がしびれてしまっております。ワタシでこれなら……他のドワーフたちも……」
「そんな……わしらドワーフに取って、手にマヒなんて残ったら……死んだも同然じゃ……」
青い顔をしてうつむくドワーフたち。
一方、人間姿になった古竜が腕を組みながら言う。
「なんで死んだも同然なんだよ? 生きてるじゃんおまえら」
「ドワーフは職人です。手先の器用さを誰よりも必要とする人たちなのです」
「あ、そっか。マヒが残っちゃ、上手く物が作れなくなるっつーことか」
ガンコジーさんは物作りに命をかけていると言っていた。
彼だけじゃない、ドワーフたちにとって、物を作るということは、私達が思う以上に大事なことなのだ。
物づくりに必要な手先の器用さを失ったら、半身をもがれるのに等しい。
だから……死んだも同然と。
「カイ・パゴスは、おしまいです……」
落ち込むドワーフの顔を、私は見てられなかった。
力を持つものとして、私はか弱きものの笑顔を守りたい。
「大丈……」
「大丈夫だろ。どーせ、おっさんが闘気でなんとかするんだろ?」
私の言葉を古竜が遮る。
古竜……。
「あなたも正義の心にようやく目覚めたのですねっ?」
古竜はドワーフたちをどうにか助けてあげたいと思っているのだろう。
でも自分にその力がないので、私に頼っていると。
「え、いや。別に正義の心なんてみじんも……ただ、どうせまたおんなじ展開だろって……あきれてるっつーか、飽きてるっつーか……」
「古竜。任せなさい。私が治療します」
「……闘気で?」
「はい、闘気で」
私は街長の下へ向かう。
「街長さん。腕を拝借しても?」
「え、ええ……まさか治癒術ですか? 無理です。最上級の治癒のポーションで、治療を試みました。ですが……マヒはポーションでは治りませんでした……」
「大丈夫です」
私は街長さんの腕をつかみ、白色闘気を一気に流す。
「な!? なんてまばゆい光! 体に力が……みなぎるぅ!」
バチュンッ……!
「ドワーフの腕が消し飛んだぁ!?」
シュンッ……!
「って思ったら腕が生えてきたぁ!?!?」
よし、これでOKですね。
「どうですか、街長さん。腕の調子は」
街長は手を開いたり閉じたりする。
「す、すごい! 手の感覚が戻っている! ああ、これでまた物が作れる! ありがとうございます!」
うん、良かった良かった。
一方、古竜が私の肩をつかんで揺する。
「おいおっさん! 今のなんだよ!? 腕がぱーんってなったあとにょきって生えてきたけど!?」
「ええ。一度腕を破壊しました」
「腕を破壊!?」
「ええ。神経のマヒを修復するのには、かなり集中力と闘気がいります。ただそれを一人一人やっていたら時間がかかります。そこで……一度腕を壊し、新しい腕を生やしました」
破壊再生のほうが速く治療できると思ったのだ。
「正のエネルギーを一気に流し込むことで、腕や骨の細胞を破壊しました。そして、細胞を活性化させ腕をまた治しました」
「…………おかしいよ」
古竜が震えながら言う。
おかしい?
「どこがですか?」
「全部! 全部だよ!!!! 闘気って身体強化術なんだろ!? なのに、腕ぶっこわすとか、腕生やすとか、もう何もかも全部おかしいだろうがよぉおおお!」
おかしいと言われても。
「鍛えたら、できますよ。これ。誰でも」
「できてたまるかぁあああああああああああああ!」
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