51.世界的大発見をする
《アレクSide》
ネログーマへと帰還したその日の夜。
後宮にて。
私が夜のお勤めをし、庭に涼みに出たところで、治癒神エルザと出会った。
彼女は縁側に座り、物憂げな表情を浮かべている。
「エルザ」
「……アル」
彼女の闘気は揺らいでいる。
闘気の乱れは心の乱れ。何かに思い悩んでいることは明白だった。
彼女は私の妻であると同時に、幼なじみだ。
そんな彼女が悩んでいるのに、ほっとくことはできなかった。
「何か、あったのかい?」
「……ええまあ。ちょっと、自信なくしちゃってね」
「自信? エルザは凄い魔法使いじゃないか」
自信を無くす必要がどこにあるんだろう。
するとエルザが深々とため息をつく。
「……ありがとう。でも今のアルが言うと、嫌みに聞こえるわ。私が自信を無くしたのは、アル、あなたという存在が居るからよ」
「私が? 何かしたかい?」
「……ええ。あなた、転移魔法を使ったんだって?」
「? いや、魔法は使っていないが」
「でも、空間を一瞬で移動したんでしょう?」
「そうだね。それが?」
ただ空間を斬って移動しただけなのだが。
エルザは深くため息をつく。
「……アルは自覚ないでしょうけど、その空間を移動する技術というのは、とても高度なものなのよ。特に、空間を移動する魔法……転移魔法は、失われた魔法【古代魔法】と呼ばれてるの」
「ふむ……古代魔法……」
失われた魔法、ということは、今この世界で使えるものがいないということ。
……なるほど。エルザの悩みがなんとなく理解できた。
「君は魔法が得意だった。けど、魔法使いでもない人間が、自分でも使えない転移魔法を使ったことで、自信を無くしてしまったんだね」
「……端的に言えば、まあ、そうね」
なんということだ。私のせいで彼女を落ち込ませてしまったようだ。
これは、どうにかしてあげないと。
けれど、私に何ができるだろうか。
私は魔法のことなんてさっぱりわからない。
「エルフでも、古代魔法は使えないのかい?」
「無理ね。私達エルフのトップ、エルフの里長であっても、転移は使えないわ」
前に聞いたことがある。
エルフ族の長は世界最高の魔法使いがなると。
世界最高の魔法使いでも、転移魔法が使えない。それほどまでに、転移は高等テクだったわけか。
「そもそも転移魔法って、何が難しいんだい?」
「そうね……空間を転移する理論はわかるのよ。でも、理論を頭に入れた状態であっても、そもそも魔法が発動しないのよね」
「それはどうしてだろうか?」
「さぁ……? だから、使えないのよ」
理論がわかっていても、実践できないのはどうしてだろうか。
剣で例えて考えてみよう。
型を覚えてても実際に使えない。それはどうしてか?
頭で思い描いたとおりに、剣が振るえないのはどうしてか?
……体が動きについていけないから。
体……。
「エルザ。もしかしたら、私がどうにかできるかもしれないよ」
「!? ほ、ほんと……?」
「ああ。私を信じてくれるかい?」
「もちろん」
即答だった。
私への深い信頼がうかがえた。その思いに応えてあげたい。
「エルザ。目を閉じて」
「え? ……ん♡」
私は、エルザを抱き寄せて、そして唇を重ねる。
そして、直接闘気を彼女に流し込んだ。
外部から闘気を流すより、こうして口移しでのほうが、より多く効率的に闘気が流せる。
闘気使いでないエルザに、闘気を流して、何の意味があるのかと言われるかもしれない。
だが……。
ゴオォオオオオオオオオオオオオオオオ!
「体が……熱いわ。内側からエネルギーがあふれる感じがする。これが……闘気……」
「エルザ。その状態で、転移魔法を使ってみてくれないかい?」
エルザはいぶかしげな表情を私に向けてきた。
それでもうなずいて、懐から杖を取り出す。
「【転移】」
瞬間……。
ブンッ……!
エルザの姿目の前から消えた。
庭の少し離れた場所に、エルザが呆然とした表情で立っている。
「で、できた! できたわっ!」
エルザがぴょんぴょんと子供のように飛び跳ねている。
良かった。彼女を笑顔にすることができて。
「で、でもどういうこと? 今まで転移は発動しなかったのに」
「おそらくだけど、転移魔法ってかなり反動がでかいんじゃないかな」
「? どういうこと?」
「ほら、作用反作用の法則ってあるだろう」
壁を手で押すと、壁から同じだけの力を受けるというあれだ。
「私が思うに、強力な魔法って、打つだけで、反動を受けるんだとおもうんだ」
たとえば、火球。
あれは至近距離から、巨大な火の玉を前方に向けて射出する。
その際、運動エネルギーは発生してるはずだ。
ということは、逆方向にかなりの反作用エネルギーが発生してる……はず。
「思うに、魔法使いは、魔法を使う際、反作用ダメージを受けないように、無意識に手加減してるんじゃないかな?」
あまりに強力な魔法を使うと、そのダメージで自分が傷ついてしまう。
そうならないように、手を抜いてる……みたいな。
転移魔法を含めた古代魔法は、凄い魔法だと聞いた。ということは、反動も相当なもののはず。
それを使ったらからだがバラバラになってしまうかもしれない。だから、使わない。
「なるほど……使えないんじゃなくて、使わない……か。でも、じゃあどうして闘気を纏うだけで、使えるようになったのかしら?」
「闘気は肉体を強化できるからね。体が頑丈になったから、反作用によるダメージを受けない。だから、使えるようになった……というのはどうかな?」
エルザはしばし黙りこくっていた。
やがて、口を開く。
「……アル。今の理論……筋が通っている。おそらく、正しい」
「そうですか。それはよかった」
ふるふるふる……とエルザが体を震わせている。
「すごいわ、アル。この理論は、革命的な発見よ!」
エルザが興奮気味に言う。
「これを発表すれば、世界中の魔法使い達の度肝を抜くわ!」
「そうなのかい?」
「ええ! 魔法使いでもない一般人が、こんな凄い理論を見つけてしまうなんて! やっぱり、アルは凄いわね!」
「いや、私はたいしたことしてないよ。さっきのだって、ただの素人の思いつきさ」
「だとしても……ほんとに凄いことよ、アル。ああ、凄い……」
エルザは顔を赤らめながら、私に抱きつく。
「……闘気を使えるようになったから、これで、すぐにノックダウンしてしまうこともなくなったわ。いつも獣人達がうらやましかったのよね。何度も何度も、あなたから寵愛をいただけるから」
確かにエルザは、ベッドでは1度やってすぐにダウンしてしまう。
一方体が頑丈な獣人達は、1度じゃ倒れず、満足せず、2度3度と私を求めてくる。
「ねえ……アル? 欲しいな……今、ここで」
潤んだ目でエルザが私を見上げてきた。
私は彼女をひょいっとお姫様抱っこして、屋敷の中へと向かう。
「ベッドの上じゃないと、体を痛めますよ。いくら闘気をまとっているとはいえ」
「……そうね♡ アル、優しい……♡ 好き……♡」
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