03.決意のついでに、ドラゴンをワンパン
ここから新展開です!
森の中で出会ったのは、獣人国ネログーマの第一王女、ミーア・ネログーマ様だった。
私は……その場で膝をついて、頭を下げる。
「王女殿下とは知らず、無礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした」
「! そ、そんな! 頭を上げてくださいっ、アレクサンダー様!」
「いえ。王族相手に、失礼な口をきいてしまいました。謝罪で済まされる問題ではございません。不敬罪で投獄もやむなしかと……」
「しませんっ!」
ミーア姫が膝をついて、私に視線を合わせる。
「命の恩人相手に、不敬罪で引っ捕らえるようなことはしません。それこそ、無礼です」
「ミーア様……」
「助けてくださったこと、心から感謝いたしますわ。アレクサンダー様」
……ミーア姫。なんとも慈悲深い御方だ。
王族と知らず、無礼を働いていた私を許してくれるようだ。
「お心遣い、感謝いたします」
私がそう言って立ち上がると、ミーア姫はホッ……と安堵の息をつく。
「アレクサンダー様」
「姫。様なんて付けないでください。私はただの、しがない剣士でしかありませんので」
しかも婚約者と道場を、弟子に奪われた、情けないおっさんだ。
そんな男に様なんてわざわざ付ける必要は無いだろう。
「謙虚な御方なのですねっ! さすがです!」
……今のやりとりのどこに、さすがと褒めるべき要素があったのだろうか。
「では……アレクさん」
ミーア姫が真剣なまなざしで、私を見ながら言う。
「改めて、依頼します。どうか我がネログーマに来てください。王家に仕え、この国の未来のため、剣を教えてはいただけないでしょうか」
剣を教えてほしい……か。
「もちろん、報酬はきちんとお支払いいたします! 望む額、ご用意するつもりで来ました!」
「…………」
私はミーア姫を見て、すっ……と頭を下げる。
「大変ありがたいお話ですが、断らせていただきく存じます」
ミーア姫は黙ってしまった。
顔を上げると、ぽかんとしている。
断られるとは思っていなかったのだろう。本当に申し訳ない。
「わ、訳を……お聞かせ願いますか?」
「はい。それは……私が剣を教えるに、ふさわしい人物ではないからです」
再度、ぽかーんとしてしまう、ミーア姫。
「私は所詮、田舎道場でしか剣を教えてこなかった人間です。そんな人間が、王族の皆様に剣を教える資格なんてありません」
私なんて、王家に仕え、剣を教えられる……そんな器ではないのだ。
「な、何をおっしゃってるのですか! あなた様は偉大なる御方! 王家に仕えるのにふさわしい人物ですよ!」
ミーア姫は優しい御方だ。
私が落ち込まないようにそう言ってくれてるのだろう。
遠回しに言ってもミーア姫は引き下がらないようだった。
だから……私は本心を語ることにする。
「はっきり言って……私は、もう、人に剣を教えたくないのです」
村に居た頃、私には【師匠から受け継いだ道場を再建する】という野望があった。
恩人たる師匠の、大切な道場を、守っていくんだ。
そのために、私は人に剣を教えていた。
……だが、私は大事な道場を失ってしまった。
道場再建のために頑張っていたのに、それを失い……。
私には、人に剣を教えるモチベーションが、なくなっていた。
こんな状態で、国に招かれ剣を教えたところで、かえってミーア姫たちに迷惑をかけてしまう。
「お誘い、大変ありがたく思いますが。このたびの話は、断らせていただきたく存じます」
「……そんな。こんなに強いのに。こんなに、凄い剣の使い手なのに……」
と、そのときだった。
上空から魔物の気配を感じたのだ。
ちょうどミーア姫の居る場所に降りてくるのがわかった。
……いや違う、ミーアを狙っている!
「危ない!」
私はミーア姫を抱きかかえて横に飛ぶ。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「な、なんですかっ?」
「トカゲですね」
「と、とか……え、ええ!? あ、あれが……?」
「はい。この近辺で頻繁に見かける、緑色のトカゲです」
「ええ!?」
どうしてミーア姫は驚いているのだろう。
ああ、確かに珍しいトカゲかもしれない。
なにせ……。
体長は3メートル。
巨大な翼、金属よりも堅いうろこ、そして炎を吐く……。
そんなトカゲ、外では見たことがないのだろう。
「どう見てもドラゴンですよあれ!」
……ドラゴン?
「何を言ってるのですか。ドラゴンと言えば、もっと大きく、強く、世界を滅ぼすほどの凶悪な存在だと聞いております」
「いや……え、え……いや……え、ええ!?」
姫はトカゲを見て困惑してるようだ。
「あわわ……」「なんだありゃ……」「やべえ……」「こんなの勝てねえよ……」
ミーア姫の護衛の剣士たちが、全員おびえていた。
どういうことだ……?
あんなトカゲに、何を怖がっているのだろう?
「GYASHAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
トカゲがミーア姫を狙って突進してきた。
私は何も恐怖を感じない。こんなの一撃で倒せる相手だしな。
しかし私は……気づく。
「!」
ミーア姫は震えている。
剣士たち、そして姫。みんな……。
そうか。そうだったな。
パシィイン!
「か、片腕で! ドラゴンの巨体から繰り出される突進を受けとめた!?」
驚くミーア姫。
「ど、どうやってるのですか!?」
「闘気で体を強化しているのです」
「お、闘気を使えば、ドラゴンの一撃を片手で防げるようになるのですか?」
「はい。誰でも、鍛えればこれくらいはできます」
「で、できます……?」
ミーア姫が護衛の剣士たちを見やる。
彼らはクビをブルブルと横に振るっていた。
「できますよ。鍛えれば……ね!」
私はトカゲの顎めがけてけりを放つ。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
トカゲが上空へと吹き飛んでいく。
「す、すごい! あの巨大ドラゴンが、まるで木の葉のように吹っ飛んでいます!」
トカゲがくるくると回転しながら落ちてくる。
私は腰を落とし、構えを取る。
「【橙の型】。【斬鉄】」
闘気が木刀の刃を強化する。
トカゲはうろこが結構堅い。
私は落ちてくるトカゲめがけて木刀を振る。
スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
ばら……とトカゲがブロック肉となって落ちてきた。
「す、すごい! 緑竜のうろこは、鋼鉄よりも堅いとされているのに! それをぬれた紙のごとく、たやすく切り裂いてしまうなんて!」
まあ、普通に斬れば確かに堅いだろう。
だが、橙の型の闘気で刃の強度をあげれば、あれくらい簡単に斬れる。
……だが。
「君たちは、今のできないんですね?」
護衛剣士たちに尋ねると、彼らはうんうん! と強くうなずく。
……そうか。
そうだよな。
あのトカゲは確かに弱い。が。そうはいっても、魔物。
誰だって最初は、魔物を怖いと思ってしまう。
……この世界に転生してきた当初の、私もそうだった。
「私も、同じです。幼い頃は、魔物が怖くてしかたなかった……」
だから、村から出れなかった。
でも、師匠が剣を教えてくれたことで、その恐怖に打ち勝つことができた。
「…………」
おびえていた、ミーア姫、そして剣士たち。
彼らはかつての私と同じだ。魔物におびえ、何もできないでいた、私。
そんな私に、師匠は、対抗策として、剣を教えてくれた。
大義(道場再建)とか、金とか、そういう【何かのため】じゃない。
ただ純粋に、弱い人が身を守る手段として。
……そうだった。
剣術とは、そういうものだったな。
私はすっかり、初心を……大切なことを忘れてしまっていたようだ。
「ミーア姫」
「は、はい!」
「一度断っておいて申し訳ないのですが、どうか……私を雇ってはいただけないでしょうか」
「! も、もちろん! もちろんですとも!」
ミーア姫は私の手をつかんで、何度も頭を下げる。
「ありがとうございます、アレクさん!」
「お礼を言うのはこちらのほうです。ミーア姫。初心を思い出せました」
か弱き人々が、自分や、大切な人を守れるように。
私は再び、剣を教えよう。
師匠に、教えてもらったように。
こうして、私はネログーマ行きを決意したのだった。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「おっさんツエエエエエ!!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!