134.指摘者の力(かませ)
恩恵、指摘者を発現した古竜。
どうやら彼女は、私と意識を共有できるようになったらしい。
『つーかよ、おっさん! さっきのはなんだったんだよ!?』
「さっきのとは?」
『つららで攻撃された瞬間、つららが消えたじゃあねえか!』
ああ、あれか。
確かに説明していなかった。
「簡単です。衝気円ですよ」
『しょーきえん……。なんだっけそれ?』
そのときだ。
『……闘気を体外に放出し、それを周囲に張り巡らせることで、気配を察知する技術のことだ』
『ミブロ!? なんでこの会話に参加してんだよ!?』
『急にぼくの脳内に、古竜とあれくさんだぁさんの会話が聞こえてきたんだ』
ふむ……なるほど。そういうことか。
「これもまた、指摘者の力のようですね」
『指摘者の力……?』
「ええ。このように、主従以外にも、念話をひろげ、疑問に対する答えを聞くことができるようですよ」
『な、なるほど……。おれは仲介役ってことか』
指摘者は思ったより有用な恩恵かもしれない。
古竜を介することで、遠く離れた人とリアルタイムで会話できるのだから。
『それで、あれくさんだぁさんのやったすご技についてだな。バカな物差しに説明してやる』
『せめて古竜って言えや!?』
『闘気を体の外に放出することは、そこまで難しくない。ただ、それをとどめておくためには、そうとうな修練が必要となる』
体の内側にためた闘気を、ただ出すのは、彼女が言うとおり簡単だ。
練習すればすぐに誰でもできるようになる。
『とどめておくのってどうムズいんだよ?』
『ボールをなげて、その場にとどめておくくらい難しい』
『曲芸ってレベルじゃねえぞ!? 不可能じゃないか!』
『それくらい難しいという比喩だ。バカめ』
そして、とミブロが続ける。
『広げた衝気円を、狭くするのは、ただ広げることより技術力がいる』
『ミブロはできねーの?』
『できない。あれくさんだぁさんは、広げた衝気円を体にぴったり、まるで鎧のように纏っていた。これは、無理。不可能。神業としかえいえない。さすがだ……かっこいい……♡』
ミブロがとてもわかりやすく説明してくれる。
だが古竜はいまいちピンときてないようだ。
『おっさんは体に闘気を張り巡らせて、なにしてたわけ?』
「敵が攻撃をしかけてきた瞬間、天王剣で切りつけたのですよ」
敵のつららは自動追尾してきた。
攻撃が当たるその刹那でないと、迎撃できない(こちらの攻撃が回避されてしまうから)。
『攻撃が当たる瞬間にカウンターで攻撃したってことか……』
「そういうことです」
さて、説明終了。
敵はこちらの剣劇にびびって、次の手をどうするか考えてるようだ。
このまま敵の本拠地へと向かうとしよう。
闘気で体を強化し、城の前までやってきた。
大きな城門の前までやってきて、ふと、立ち止まる。
『む! おっさん、ストップ!』
おお、古竜もどうやら気づいたようだ。
「どうしました?」
『なんか脳内に、【ちょっと待ってぇ!】っていう変な声が聞こえた……』
なんだそれは……?
ふむ。
「古竜はそれを聞いて、どう考えましたか?」
『多分、指摘者の第3の能力が発現したんじゃ無いかって思ってる』
指摘者にはいくつかの能力がある。
その一つに、【怪しいものに反応する】というもの。
『わかった! その扉……罠がしかけられてるんだ!』
「はい、正解ですね」
キンッ……!
バララララッ……!
『いつの間にか扉がバラバラに!? なにしたんだよ!?』
『あれくさんだぁさんが、貴様が答える前に扉を斬っていたのだ』
『おれが答える前……? って、まさか……わかってたの、おっさん!? トラップだって!?』
「ええ、そうですよ」
『んだよぉおおおお! おれのスキル……役立たずじゃねえか……』
「いえいえ、凄いです。私が気づいてすぐに、罠に気づけたじゃないですか。凄いスキルですよ」
『いやおれ、結局あんたのすごさを際立たせるための、かませでしかねえじゃねえかぁ……!』




