133.指摘者《ツッコムモノ》
新技、破邪葛籠がドワーフたちを守ってくれている。
ミブロもいる。
これで、私は安心して氷鬼を倒しに行ける。
「ミブロ、後は頼みましたよ」
「はい、あれくさんだぁさん! お気を付けて!」
よし。
「いってらー。気ぃつけてなー、おっさん」
古竜がひらひらと手を振る。
「おやおや、ついてこないのですか? 古竜」
「ったりめえだろ! 結界の中のほーが安全に決まってるじゃん!」
おやおや……。
ミブロがあきれたように言う。
「……貴様。さっきはあれくさんだぁさんのそばが安全とか言ってただろうが。手のひら返しも甚だしいぞ」
「へん! 確かにさっきまではそうだったけど。結界のほーが安全だぜ」
まあたしかに、破邪葛籠は外部からの攻撃をすべて防ぐ。
中にいるほうが安全ではある。
「それにおっさんのそばにいたら、喉が壊れちまうしよ。突っ込みすぎて」
「? 壊れたら治せば良いのでは?」
「あんた人の心とかないんか!?」
「いえ、闘気をマスターすれば怪我くらいなら自分で治せるようになりますよ」
「だーかーらー! 闘気をマスターする気ないの!」
おや、残念……。
「おい貴様。せっかくあれくさんだぁさんが修行を付けてくれてたのに、むげにするつもりか」
「やる気のねーやつに修行したって意味ねーんじゃねーの?」
「それは……」
私も同意見だ。
「わかりました。すみません、嫌がるあなたを無理矢理連れてきてしまって」
「あ、いや……まあ……なんだよ。素直に謝るなよぉ。おれが悪いみたいになってんじゃんかよぉ」
「これからは、無理に危ないところに連れて行きませんし、修行と称して無理に連れ回すこともしません」
「う、うん……。いやそれは……」
それは?
「いや、そーするとおれの、ツッコミ役というアイデンティティが喪失しちゃうような……もにょもにょ」
「なんなのだ貴様……? そばに居たいのか、居たくないのか、はっきりしろ。もしかしてやっぱりアレクさんだぁさんのこと好きなのか?」
「それはない! 断じてない!」
へんっ、と古竜がそっぽ向く。
「あー、これでツッコミ役から解放されたぜ! あー、せいせいすらぁ!」
まあ、さっきも言ったとおり、やる気のないものに剣を教えるつもりはない。
身を守る術として、身につけさせたかったが……。
危ない場所へ行かなければ、そもそも護身剣術は身につける必要もないか。
「では、一人で行って参ります」
「ご武運を」「いってらー」
ということで、私は一人で破邪葛籠の外に出る。
常に古竜がそばにいたからか、少し、寂しさを感じますね。
とはいえ、今は戦のさなか。
気を緩ませてはいけない。速く倒さねば。
私が走り出すと同時に、頭上からはつららが降り注いでくる。
氷鬼は私が葛籠からでるのを待っていたな。
私が速度を上げると、つららが追尾してきた。
天王剣を発動させる。
だが空間の裂け目をうかいして、つららが襲いかかってきた。
つららが私の体に突き刺さった瞬間……。
ガォン!
つららが消滅する。
よし。
『よしじゃねええええええええええええええええええええええええええええ!』
そのとき、突如として私の脳内に、古竜の声が聞こえてきたのだ。
『なんだよ!? え、どうなってるの!? 体につららが当たった瞬間消えるとか、何したのおっさん!?』
「いや、あの、古竜?」
『なんだよ? って、あれぇええええ!? なんで!? なんでおれ、おっさんの見てる景色が見えてるわけ!?』
「ふむ……しかも私と会話してますよ、あなたは」
『あー! ほんとだ!? どうなってんだよぉこりゃぁ!?』
そのときだった。
【従魔、古竜に恩恵が発現しました】
私の脳内に、聞き慣れぬ女の声が響いたのだ。
【古竜は恩恵、指摘者を獲得しました】
恩恵……?
指摘者……?
『なんか今変な声聞こえたんですけど!? なに恩恵って!? なに指摘者って!?』
私にも……わからない……。
あとでエルザにでも聞いておかないと。
『え!? だれ!? え、エルザ……? ああ、あのエルフ……?』
古竜が誰かと会話してるようだ。
おや?
「古竜、どうしたのですか?」
『えっと……なんかおれの頭の中に、エルザの声が聞こえてきた』
エルザの……声?
「どうなってるのですか?」
『わ、わからねえ……。え、急におれの声が聞こえてきた? どうしてって言われても……わかんねえよ……』
私も状況が理解できない……。
なぜ急に古竜が、エルザと会話できてるのだ?
そもそもエルザはここから遠く離れた、ネログーマにいるのに。
『あー……おっさん。どうやら、恩恵っていうのは、従魔に発現する特別なスキルらしいぜ』
「特別なスキル……」
『そう。強い主人と従魔契約を結ぶと、ごくたまに、スキルが発現するんだって。それを恩恵って言うらしいんだ』
なるほど……。
『んで、おれの場合、指摘者って恩恵が発現したんだ。これの効果は、
1.主人と五感を共有する、
2.主人、あるいは従魔が疑問を感じたとき、その答えを知るものと念話できる。
3.怪しいと思ったものの正体をカンパするだってよ』
なるほど……。
つまり、だ。
「古竜はこれからずっと一緒ってことですね」
古竜のツッコミが恋しいと思っていたので、ちょうどいい。
『まじいらねえええええええええ! 呪いじゃねえかこんなギフトぉおおおおおおおおおおおおおおおお!』




