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123.残された命



 ミブロの剣は現代日本人ばなれしていた。

 おそらく、本当に新撰組が活躍してきた時代から、こちらの世界に転移してきたのだろう。


「……ぼくは、皆に置いてかれたんだ」


 ミブロがぎゅっ、と自分の体を抱きしめ、三角座りしながら言う。


「……ぼくが女だから。弱いから。みんなは……ぼくを置いてったんだ」


 ミブロは悔しそうに唇をかみしめる。


「女になんて生まれなきゃよかった。そしたら……ぼくは、皆と一緒に死ねたのに。ぼくが女なんかに生まれたから……」


 落ち込むミブロに、どう言葉を書けて良いのかわからない。

 その時代の人間ではない私には、新撰組の人たちを見たことない私には、何も言えない。

 だから。

 言えることだけを、言おう。


「君は、弱くない」

「………………え?」


「君は強かった。私がこちらの世界に来て、剣を交えた中で……五本の指に入るほど、強かった」


 彼女は強い。それだけは事実なのだ。


「五本の指って……あと数人、おっさんよりつよいやつがいるってこと……?」


 古竜は額に汗を書きながら言う。


「ええ」

「まじかよ……こわ……絶対会いたくない。絶対関わりたくないわ」


 おやおや。


「話を戻しますが、今の君はとても強い。こちらの世界に来る前も、強かったのでしょう」

「なら……! どうして!? 皆はぼくをおいてったんだよ!?」


「そうですね……おそらく君が、子供だったからでしょう?」


 おそらくミブロが置いてかれたのは、女だから、弱いから、ではない。

 この子が単純に幼かったからだろう。


「新撰組の人たちは、君の剣は認めていたと思います。でも……君は子供だ。皆さんは、君の、子供の未来を守りたかった。だから……君を戦場に行かせなかったのです」


 ミブロは私の言葉に耳を傾けていた。

 言葉が、届いてくれてると信じて、私は言う。


「皆さんは君をおいてったんじゃない。君を、守ったんですよ」


 戦場に行けば死ぬ可能性は高かった。

 彼女がいかに強い剣士だろうと、である。


「…………」


 ボロボロ……とミブロが涙を流す。

 私は彼女に近づいて、ハンカチで涙を拭ってあげた。


「君の知る、新撰組の人たちは、弱者を虐げるような、人間のくずだったんですか?」

「…………ううん。みんな、優しい人たちだった」


「そんな優しい人たちが、君を仲間はずれにするわけないじゃないですか」


 ミブロが大粒の涙を流すと、私に抱きついて、大声で泣く。

 私はただ、そんな彼女の頭をなでてあげた。


 新撰組の人たちの気持ちがよくわかった。

 この子は比類無き天才剣士だ。


 でも……心がまだ未熟な、幼子なんだ。

 だから……守りたかったんだ。


 いずれこの子は強靱な心身をそなえた、立派な剣士となるだろうと。

 新撰組の浅黄色の羽織を羽織って、彼らの思想を引き継ぎ、剣を振るうだろうと。


 ミブロは、取り残されたのではなく、残されたのだ。

 

「んだよぉ……おっさん。まーた女作ってんのかよぉ。そのうちに刺されるぜ?」


 ……古竜はそんな風に、私を茶化すのだった。

 全くこの子は、まったくもう……。

 

 

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