118.ミブロの剣
ミブロが剣を構えている。
依然として、刀身は見えない。
刀身が見えないと間合いを計れない。やっかいだ。
手の形から、彼女が平正眼の構えを取っていることがわかった。
「もしかして、あなたは……私と同郷ではありませんか?」
ふと気になったことを口にしてみる。
その構え、そして羽織。ミブロという名前。
どうしても、私の元いた世界と、彼女にゆかりがあるように思えた。
だが……。
ミブロは答えない。
構えを取ったまま、じりじり、と私に距離を詰めてくる。
足運びだけで、相当な猛者であることがわかった。
移動しているのに体の軸がぶれない。
「っ……!」
攻撃が来る。
彼女は突きを放ってきた。
私は半身をよじってそれを躱そうとする。
グサッ……!
「なっ!? お、おっさんが初めて被弾したぁ!?」
私の左肩から血が垂れていた。
ミブロの突きを避けたはずだったのに、だ。
「…………なるほど」
「な、何かわかったのかよ!?」
「ええ。やはり彼女は、この世界の人間ではないです」
「はぁ!? どういうことだよ!?」
「おしゃべりは後で」
私は白色闘気で傷を治す。
ミブロがまた平正眼から突きを放ってきた。
私は避けず、引かず、前に出る。
間合いをつめ、そして彼女に小手を放つ。
木刀が彼女の左手を強打する。
……敵とは言え女性をたたくのは気が引ける。
だが彼女は右手1本で剣を振り上げ、鋭く上段斬りを放ってきた。
鋭い一撃だ。
私は木刀の腹でそれを受け流す。
ガッ……!
「な!? あの剣士の女、おっさんの襟首を掴みやがった!?」
小手で手を潰したはずだったのだが、まだ手は動くようだ。
左手一本で私を放り投げる。
「なんだあの剣術!? 人を投げる剣術とか、見たことねえぞ!」
異世界の剣だ。この世界の人間が見たことないだろう。
地面にたたきつけられる前に、私は受け身をとる。
ミブロはすぐさま私の首めがけて突きをはなつ。
転がってその攻撃を避け、立ち上がる。
「お、おっさんが押されてる……。あんなバケもん見たことねえ……」
すっ……と古竜は懐から白い布を取り出す。
「なんですかその白い布は?」
「え!? いやぁ!? なんでもないよぉ!」
……と言いつつ、白いハンカチを持ちながら、枝を探していた。
やれやれ。
私が負けると思ってるのだろう。
「仲間が戦ってる最中に、負けたときにあげる白旗の準備をするなんて、剣士失格ですよ」
「ちちちち、ちげーし! 万が一に備えただけだし! おっさんがんばえー!」
やれやれ。
「…………」
ミブロが立ち止まる。
彼女の体からは、苛立ち、怒りが感じられた。
「あの女とまっちまったよ? どうしたのかな。こっちの降参を認めてくれたのかな?」
古竜は雪の上で土下座し、手には白旗が握られていた。
完全に降参してるじゃないですか……まったくもう。
「……なぜ」
しゃがれた声だ。
完全に喉が潰れている。
「……本気、出さぬ」
「バレてましたか」
やれやれ。優秀な剣士ですね。困ったモノだ。
「え、おっさん本気じゃなかったの!?」
「ええまあ。相手はお嬢さんですから」
女性を本気でぶったたくようなまねはしない。
「…………おまえも、ぼくを女扱いするのか」
「女扱いもなにも、あなたは女の子でしょう?」
すると殺気が一層高まる。
「……もういい、殺す。この技で」




