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ポチ大尉のマイノリティ  作者: キタボン
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09 OJONⅢの内情




 空腹に食べた肉が功を奏したのだろう。モーストらOJONⅢ反乱兵は、オラシオンの降伏を受け入れてくれた。翌朝になり、その反乱兵たちと肩を並べて、森を行軍する。


 アシリレラは、昨夜のモーストたちとの会話を思い返した。陽気に打ち解けた彼らに、聞いてみたのだ。


『反乱を起こしたのはなぜです』

『だから起こしてないって。OJONⅢは住民を研究すること。それ自体が目的だった。だが、3世代かけても結果が出なくて、帝国は見切りをつけたのさ』


 そうモーストはぼやいた。

 3世代。人間の研究。結果が出ないから捨てる。どこかで聞いた話だった。


『食糧は農業プラントからで、建造物は建築ロボットがやる。そんなんで食うために働く必要がない。税金なんてものもなかった』


 テラフォームで、人が住めるようになった惑星にはまず、数基のライフユニットが運び込まれる。人が人を産むように、ロボットがロボットを産み出ていく。


 ライフユニットが製造するのは基礎ロボット。基礎ロボットは環境に応じた多種のロボット作る。入植がはじまるのはこのタイミング。


 多種のロボットは本当に多種だ。遺伝子から人の体ができあがるように、惑星その地域に合わせた生産体制を作りあげていく。調査、土木、建造、防衛、農産、医療、娯楽……。数年から数十年かけ、入植者の意見も取り入れ、生活基盤を築き上げる。


 住民は勉学に励み仕事に就く。労働と税金が義務。収入と消費、惑星自体の経済などに応じて、あらゆる段階に税が課される仕組みになってる。生きている限り搾取は終わらない。帝国は、銀河の覇権とという果てのない大事業に、惜しみなく金を捨てる。


 なのに。


『税金がないのですか』

『ああ。自治権、自決権ともいうか。それもなかったが働かなくていいから気にしなかった。ライフユニットはいまも稼働してる。俺たちは形ばかりの訓練と防衛をしていた』


 ライフユニットは自己修復機能をもつが、万能ではない。2~3世紀でその寿命まっとうする。修復には人と物の莫大な資材が必要だが、帝国は面倒をみるよくほど甘くない。やがて基礎ロボットも多種ロボットも朽ち果てる。

 それまでに、暮らしを軌道にのせ、文明を定着させなければいかない。


 ところが、OJONⅢのライフユニットが生きているという。万事任せておけば暮らしに困ることはない。とてもたいくつな人生だ。アシリレラは思う。羨ましい。そんな移民ならぜひのりたい。


『星は? 移民の前は、どの星系にいたんです?』

『どこにもいない。祖先はどこかの研究室で製造された胚だった』


 アシリレラが驚く。


『……DNAテラフォームですか? それはまた、古典的な移民ですね』


 はるかかつて、人類がまだ、光速移動を手にしてなかったころ。数光年、または数百光年かなたの星に、宇宙船を向かわせた歴史があった。観測された居住可能な太陽系型の惑星に、人類に都合のいいあらゆる遺伝子を送り込んだのだ。それをDNAテラフォームという。


 芽吹く順番を時限的に決め、菌類やウィルス、植物、昆虫、魚介類、爬虫類や鳥類、最後に哺乳類、人類が目覚める。タイムスパンは1万年。人の遺伝子には、当時の先端知識が盛り込まれた。生まれる同時に文明活動を始めるはずだったが、最初の赤ん坊が生まれるずっと前に、宇宙船は朽ち果てていた。


 後に光速移動を手にして到達した未来人は、遠大で杜撰な計画の失敗を知った。


『OJONⅢはライフユニット付きの、現代版DNAテラフォームですね』

『そういうことだ』


 研究者がつきっきりなら生命は正しく誕生するだろう。しかし、人類集団実験は、倫理的検地から禁止されてる。議会の承認を得られたとは思えない。


『反乱は、帝国軍のでっちあげなんですね』

『そうだ反乱軍じゃなく現地部隊とでも呼んでくれ。まったく政治ってやつは……』


 モーストは悔し気に肉をほうばった。


 研究を断念したなら無かったことにするしかない。公になるまえに早急に滅ぼすことにしたのだろう。オラシオンも捨てコマにして。

 SNSに投降というアシリレラの提案は、実行したが、帝国軍の謀略なら効果のはどは期待できない。やらないよりはマシかもしれないが。


『ポチ大尉には、重ね重ね。迷惑をかけてますね』


 老犬は満腹で寝てる。背中を撫でるとぐぅと喉を慣らした。

 なぜそんな研究をしたのだろうかと不思議に思う。


 人のDNAなど、20世紀以上も昔に解明すみの枯れた技術だ。AアデニンTチミンGグアニンCシトシン。個人個人、2重螺旋のひと欠片も余さず記録され、カップルは、おたがいの遺伝相性を確認してから付き合う。胎児に、遺伝子の欠落があると分かれば、誕生直後に治療はされる。


 いまさら、大規模な研究なんて、意味があると思えないが、アシリレラは興味が湧いた。


『あなたがたの遺伝子を、おしえてもらえませんか。機密や情報保護には、このさい、目を瞑っていただいたとして』

『髪の毛でいいならかまわないぜ。いや直接、研究室でみたほうがいいか。全員のがそろってるだろうから手っ取り早い』

『お願いします』





 ポチを先頭に進んで、太陽が真上になったころ森を抜ける。昨日、激戦を繰り広げた自然公園に到着してみれば、今日も、OJONⅢの反乱軍が待ち構えていた。


 ラメトクが、ひきつった顔でうめき、アシリレラがモーストをじとっと見上げる。


「姫ぇ。敵だぜ」

「モーストさん、これって」


 モーストは、仲間に片手を揚げてみせた。


「ちがうちがう。おーい。銃を降ろせ! こいつらは降伏した」





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