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ポチ大尉のマイノリティ  作者: キタボン
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07 第3の選択肢



 敵と仲間。一同が見守る。アシリレラは抱えていた弾切れの銃を山になった武器の上に載せた。


「反乱軍のみなさん。長い戦いお疲れさまでした。ここにいるかたがたで、一番偉い方はどなたですかお話したいのですが」

「反乱軍の、みなさん……だと!?」


「姫。発表会のねぎらいじゃあるまいし」


 殺し合いを演じた両軍に『お疲れさま』はない。敵は憤慨し仲間たちは飽きれた。

 代表してラメトクが小言をいった。


「なにか可笑しいか?」


 肩で息をする一人が片手をあげる。座ったままだ。足を負傷している。


「反乱のつもりはないんだが。いちおう俺だ。モースト軍曹。モーストでいい。第201西方連隊551大隊 OJONⅢ地方第3治安中隊 01小隊……だった」

「モーストさん。第2情報偵察隊の第1班班長。アシリレラ・セラドゥーラ少尉です」

「あんたがアシリレラ・セラドゥーラか。知ってるぜ。死地に赴く強硬偵察のバカ共の長。後には草木一本残らんってな。俺たちも抹殺して、反乱を鎮めた勲章をいただくのか」


 白い肌のアシリレラの顔から表情を落ち、白面をかぶったような蒼白になる。与えらえた命令には、期待以上の成果をあげることを心掛けた。部族の地位を高めるために歯を食いしばって成し遂げたのだが。死神のように見られていたとは知らなかった。


 少女は肩を落として縮んだ。代わって答えたのは、メアンとテパのアロージュ兄妹。軽い口調でキリ返した。


「ずいぶんな悪評だわね。まるで殺人部隊のあつかいじゃない」

「知らないヤツのヒガミ投降っしょ。ヘイト管理は姫だったよな。さては怠たったな」


 SNSのツブヤキは、時にシャレにならないことがある。大きな部隊には専門とする人材が必ずいた。帝国政府さえ炎上の芽を潰すため巨額の予算を計上するくらいだ。

 兄妹の言い草が場の空気をかるくした。引きずられたアシリレラが反論する。


「してたぞ。がっつり。『オンカミ最高』とか『救世主オンカミ』とか宣伝もしてたくらいだ。全部削除されて不思議だったが、誰の仕業かがさっきわかった」

「最高に救世主って……恥ずかしすぎる」

「参謀じゃなくたって、消したくなるセンテンスっしょ」

「失礼じゃないかそれは」


 モーストが飽きれた様子で首をコキコキ鳴らした。手を叩いて3人の話を中断させた。


「貴様らな。話をしたいんじゃなかったのか」

「……すみません。情報交換がしたかったんです。そちらが知り得た情報を聞かせてくれませんか。こちらも包み隠さずおしえます」

「その前に俺たちのあつかいはどうなる。殺すつもりはなさそうだが。捕虜になるのか」

「それは、いいえ」


 アシリレラはモーストに両手を差し出した。


「まさか姫?」

「策略か!」


 意味するところは明白だ。仲間には衝撃が、敵には動揺が走る。


「モーストさん。あなたしに投降します」


 どよどよどよ……。

 オラシオンと反乱の兵。双方にどよめきが走った。


「それは悪手っしょ」

「バカにするな。帝国の先兵が、ふ、ふざけんじゃねぇ!」


 アシリレラが絞りだした結論だった。仲間を生かす道はこれしかないと。ポチに言いくるめたことを実践するだけのこと。反乱のつもりがない反乱軍も、元をただせば帝国軍。同じ規律、同じ価値観のもとで、生まれ育ってる。無抵抗を示せば無気な仕打ちはされないはずだ。


 ただし少しの工夫はする。


「わたしたちは全滅した。頭上の艦にそう伝えてください――」


 二度と武器はとらない。戦争と関わらないことを条件に、大陸の隅で暮らすことを認めてもらう。


「――そのうえで帝国共通SNSに反乱の意思がないと宣言すれば、辺境中隊は停戦に応じるしかなくなります。ん? ポチ大尉なんですか?」


 犬型でも手枕というのかわからないが、前足の上に頭をのせて目を閉じてたポチが、のっそり起き上がった。反乱軍が怯えた。伏せっていた者たちが傷む体で、後ずさりしていく。


「のぉわっ! プルートキングドッグが」

「そいつを近づけるな。たのむ」


 よほどの恐怖を植え付けられたのだろう。気丈そうなモーストもがたがた震えた。

 ポチがアシリレラの腕をぺしぺし叩く。戦闘スーツに巻いた腕時計の針は午後5時ちょうどを示していた。


「ごはんでしたか大尉。すぐにエサを」


 ポシェットを開いて、大きな飴玉サイズの固形物をつまみとる。1個で1食分の栄養が摂取できるポチ用に調合された携行食だ。朝と夕に食べる。


「はい。どうぞ」


 ポチはぷいっと顔をそむけた。前足でぺしぺし、アシリレラの頭を叩いてから、森の奥をゆび(?)指した。


「まさか……、生肉をご所望ですか」


 コクコクうなずいた犬はこの場で最も高い階級にある。獣を狩ってその肉を食べようというのだ。ついてこいと一瞥すると獣の気配のする森の奥へと歩きだした。アシリレラは気乗りしないふうに肩をすくめる。正直いって面倒だった。


「ラメトク来ない?」

「俺は、こいつらを見張っておく」

「メアンは?」

「あたしは、、そう、怪我した人をチュプポッケ(回復)させる」

「しかたない。テパ着いてきて」


 道連れを作ったアシリレラが老犬に続く。テパが、彼女よりもっと深く肩を落として後ろをついていく。


「……俺、みそっかす扱いっしょ」


「道案内がいるな。同行してやろう」


 モーストはそう言って立とうとしたが、立つどころか足を動かすことさえままならない。傷みに口をゆがませた。


「膝が砕けてるじゃない。じっとしてて直すから」

「なにをする」


 有言実行のメアンが回復のオンカミを唱えた。たちまち傷がふさがり、モーストの怪我は回復した。


「これで歩けるわ。しばらくはシビレて痛いけど」

「……こいつがオカルトか。危険な森を脱落者無しで抜けたはずだ」




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