05 決断は無意味か
「……決断しないといけないか」
無線の残骸に腰をおろした。太い眉を寄せてしばらく押し黙った。仲間たちが見守るなか重い口調でつぶやいた。
「最期まで戦うことがいいのか。森に潜んで一族の再興を図るか。陸地は10%しかないがそれなりに広大。運のいいことに私を含め5人が女だ」
こんなことしか言えない自分が情けなかった。あまり表情を出さないラメトクが渋面をつくる。妻と子供が心配なのだ。他の仲間も気になる。
勇ましいアリの列が、戦利品のトンボを担いで、枯葉の上を歩んでいた。
(昔いたという巨大動物は象と言ったか。軍が仲間を殺すのは、象がアリを踏みつぶすよりカンタンだろう)
勝てない反乱軍が大勢。もっと勝てない帝国艦隊が、戦術級戦艦イラプションをいれて8隻いる。現状がすでに大軍なのに、551大隊は81隻を所有する。各地で散らばり戦ってる第201西方連隊はにいたっては511個の大隊で、44020隻もの艦が所属だ。
(ほっといても死に絶えてしまう可能性がたかいな)
森で生きるなんて言ってみても実現は不可能に近い。潔く散るか見苦しくあがく。どっちに転んでもロクでもない未来図。膝の上で手を組んで止まらない指の震えを隠した。決断などしてないも同然だ。
「意見を聞こう。テパ?」
「究極の2拓っすね。特攻は論外っしょ。俺らが死んだら、帝国が喜ぶだけっす。腹ワタ煮えくりかえると思うだけで成仏なんか無理っス」
成仏という言葉に失笑が漏れた。本星から何光年も離れた星に仏がいるとは思えない。
「では、原始の生活を始めるか。私たちが始祖だ」
「いやあ……5人の中には妹がいるし、他にも結婚してたり俺の年齢的に圏外の人もいて。俺としちゃ姫しかいないっす。でもそうなれば……」
テパはわざとらしくぐるりと仲間を見回す。その目をリーダーに戻した。アシリレラが真顔で答える。
「2人までだな。伴侶を務められるのは」
ここにいる男5人は20代の独身で、皆アシリレラに恋焦がれてる。文明から外れてしまえば、姫をめぐって殺し合いが始まり兼ねない。冗談めかしてるがかなり深刻な事態に陥る。
「ヤバいっすね。俺らは姫のこと好きすぎる」
「そうか……じゃ、公平を期すためこの場の全員をふることにする」
「ひ、ひめ?」
男たちがうなダレると、ひとりがメアンに迫った。
「じゃあ、おれメアンでもかまわないぜ」
年上女性が瞳に侮蔑の色が浮かべ、メアンの足が脛を蹴った。
「あんたたち10回死ねばいい」
「最ッ低ー!」
いてててと、男は足を抱えてのたうちまわる。そんな身内の醜態に、アシリレラが手をたたいて笑った。
「あっはははっ 男ってばかだな!」
仲間たちも腹を抱えて笑いだす。第2情報偵察隊第1班。いや、アシリレラたちオラシオンの緊張は、妙な具合にほぐれていった。手の震えがとまった。若きリーダーが震えの止った。
「特攻はナシにしよう。伴侶の件は……まぁ次の機会だな」