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ポチ大尉のマイノリティ  作者: キタボン
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03 退却



 目的ときめた森は目前。道と言えばけもの道しかない鬱蒼としたエリアは絶好の退路になり、着けば撃たれる不安はかなり減る。そこからは、自分たちにしかわかならない目印を頼りに、往路のときに用意した安全域まで駆け抜けられる。

 あと少し。心に安堵の悦びがじわりと湧いたとき。まさかの方角から銃撃がおこった。


「敵の攻撃! 前方からですな」


 ラメトクが低く怒鳴る。またしても、30人ほどの敵が待ち構えて攻撃を仕掛けてきた。行く手は、いつのまにか構築された土塁で塞がれており、安全な遮蔽物に防護された敵が、容赦なく実弾を撃ってくる。次々に倒れる味方が最寄りの者にがひきづられていく。


「散れ。確個に逃げろ。逃げながら直せ。死ぬな。絶対に生き延びろ」


 アシリレラは悲鳴のように命じた。実弾をバラまくと、ポチ大尉をしたがえつつ自らも、左へと転進する。バイザーを開け、汗で雲った高質ガラスを指の腹でぬぐった。幼さを残した可愛らしい口元が歯ぎしりする。


 偵察任務は、軽量を信条とせざるを得ない。使い捨ての降下カプセルに積載できた物資も担いで動ける最低限。水や食料は3日分。あとは現地で調達でしのいできた。嵩張って重い銃弾もあまり運べないから主力は光充電のビーム。


 4つあった弾倉がすべて空になった。アシリレラ銃は威嚇力が高い実弾銃を好んだ。熱く焼けついたアサルトライフルをそれでも放さずに駆ける。


「ラメトクじゃないが、筒抜けにもほどがある」


 敵は正面に布陣していた。退路も読まれて待ち待ち伏せされた。こちらの潜入を読んで、息をひそめ、通り過ぎてから土塁を築いたのだ。せん滅への2段構えは、15人しかいない偵察部隊相手にしては入念すぎる。あっちにも事情があるのかもしれないが、反乱軍はアシリレラ隊の動向を把握していた。


「姫を守るっしょ 『火の神よ 我に燃火の力を授けよ』 アペレラ(炎呪文)」


 テパだ。リーダーの命にも関わらす誰ひとり、逃げようとしない。残弾を五月雨式に撃ちながら、口々にオンカミ(呪文)を唱える。我らが姫を逃がすための血路をひらこうとしていた。


 火炎放射器をはるかに上回る火の玉が、前方の敵を森ごと焼き払う。敵は「うぁぁ、ナパームを隠しもってやがった!」と驚き、服に着いた炎を消そうと逃げまどう。


「『岩の神よ 敵の頭上に重い塊を落とし給え』 カマレラ(岩呪文)」


 ひるんで攻撃が弱まった敵頭上に、岩の雨が降り注いだ。


「うぁ岩だと! 森なんだぞ!」

「魔法だ。奴らウワサ以上の奇術を使いやがった」


 想定の斜め上からの反撃。反乱軍に恐怖の悲鳴があがった。


「いいねOJONⅢ。地魔素(トイレラ)が無限にあるし、オンカミの威力も数倍に跳ね上がってる。体魔素(サンベレラ)もいらないなんて、こんなこと初めよね」


 メアンがバイザーを上げて笑顔をみせる。アシリレラのひとつ上の彼女は、戦闘スーツの至るところが破け肌を露出させていた。事態は、言うほど笑っていられない。


「逃げろっていってうのに……」

「死ぬときは一緒。いくよ。『気まぐれな狐よ 我が行く道を教えたまえ』 チロンヌフ」


 2体の、黄色いキツネの幻影が現われた。頭がよく嗅覚がキツネは食べ物や逃げ道を探すのが得意。


「わかった。半数はラメトクに任せる。気をつけろ」

「ではご武運を。姫」

「姫と呼ぶ……もういい。後でな」


 幻影たちはピョンと跳ねて左と右に一匹ずつ別れて、アシリレラたちをふり返る。付いてこいとばかりに駆けだした。15人と一匹は、二手に別れてキツネを追う。




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