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ポチ大尉のマイノリティ  作者: キタボン
18/23

18 パピーウォーカー


 イエティ・マッスルアーム少佐が、休暇の地に選んだのは生まれ故郷、タソック恒星系の第3惑星OJOHNⅢだった。


「疲れて休暇なんて、銀河のエース、スタージャッカルも、人の子だったというわけですね。先輩」


 たいした私物のない個室で荷造りするイエティをからかうのは、12歳下の女性パイロット。部隊の後輩だった。なにが気に入らないのか、休暇が決まってから、やたらとつっかかってくる。


「お前、オレをなんだと思ってやがる」

「誰もがモテるのがパイロットなのに、まったく女にモテないダサ男?」

「いってろ」


 イエティは、生きる伝説だった。戦艦、巡洋艦、駆逐艦。種類を問わず落とした数は98隻。艦載機の撃墜数は認定されたものだけで3120とされるが、カメラが捉えてない戦果が多い。実際はその3倍は落としてる。軍内外の評価だ。


 32歳は、現役パイロットとしては老齢。同世代はすでに引退か、または戦場で没していた。上司も部下もみな彼を恐れる。軽口をたたける相手はどこにもいない。この女が例外なのだ。


「OJOHNⅢは、ほぼ未開の惑星。どうせヒマでしょうから、頼まれてくれませんか」

「文明を忘れて狩りを楽しむんだ。ヒマしてるヒマねーよ」

「あらら狩りですか。ちょうど良い話し相手がいるんですよ」

「おめーのことじゃねーだろうな? 誰が連れていくか。男の生きざまに女はいらねぇ」


 部下は、つれていけっていったか? と眉間に青筋をたてた。


「そんなこと言うから非モテまっしぐら街道なんです。セクハラとパワハラで訴えますよ」

「お前でないなら、誰なんだ」

「狩りといえば犬。頼もしいお供に、ハンター犬を連れていってください」

「犬? 犬か」


 犬種は、プルートキングドッグだという。戦闘の現場では斥候や探索に使われる勇猛な軍用犬だ。パイロットのイエティには無縁だったが、活躍を聞かない日はない。今朝だって、東方星域の戦果がニュース動画に配信されていた。犬がいれば、癒されることもあるだろう。


 こいつにしては悪くない提案だと、イエティは了解。準備してあった電子書類にサインする。


「では、いまからお願いします」

「きてるのか? 狭い個室になんか入れんだろう」


 プルートキングドッグは大きい。最大で2メートルまで育つ。

 だが、部屋に連れてこられた犬はイエティの膝くらい。犬にしては大きいが、プルートキングドッグにしては小さかった。


「くぅーん」


 犬はかわいらしく鼻を鳴らした。


「子犬じゃねーか!」


「ご明察。生まれて3月のプルートキングドッグ。本格的な訓練のまえに、家庭に預けて人間というものを理解させるんです」


 子犬は好奇心満載だった。ベッドの下に下に潜り込んだり、クローゼットに頭を突っ込んだり、個室の中の駆けまわってニオイを嗅ぎまわった。


 ひととおり走り回ると、それで満足したのが、イエティの足元で座り、「はっはっはっ」と荒い息でしっぽをぶんぶんふりまわす。


「もう、ご主人がわかったようね。先輩、頭をなでてあげると喜びますよ」


「誰が世話するか」


「ほほう。契約を破棄するおつもりで? かまいませんが違約金は護衛艦一隻相当ですよ」


 電子書類を突き出した。隅のほうに小文字で書いてある。2500億ベイヤ。イージス艦が買えてしまう。高給取りのパイロットといえど小国の国家予算に匹敵する貯金は持ち合わせない。


「ぐぬぬ……ハメやがったな」

「期限は3年。休暇もご希望が叶って3年。しっかり育ててくださいね」

「思い出したぞ。広報CMでみたことある。募集しても成り手が少なくて困ってるとかなんとか。たしかパピーウォーカー制度!」

「優秀なハンターになのは間違いないですよ。素養は」


 ぷぷぷ。部下は小悪魔的に笑うと、手をふって個室を辞した。


「いってらっしゃい先輩。よい休暇にしましょうね」

「けっきょく、ついてくる気じゃねーか」

「いいじゃないですか。愛犬と若き美女。どちらも休暇には欠かせません」

「勝手にしろ。だがオレにはかまうなよ。孤高の男に女は邪魔だ」

「ええ、かまいませんよ。ふふ」



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