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ポチ大尉のマイノリティ  作者: キタボン
10/23

10 安否




 待ち構えていた反乱軍、あらため現地部隊は3方向に分かれた、100人あまり。焦ったモーストは「銃を降ろせ」を連発するのだが、誰もしたがわず、銃を下げない。

 恰幅の良い人物に、モーストは話しかけた。


「隊長! あんたからも言ってくれ、こいつらは降伏したんだ」

「モースト軍曹。キミの言の正否は我が隊がおこなう。おい」


 隊長は3人を呼びつけて指示をだす。3人は銃を下向きに構えると、モースト・オラシオンの一団に警戒しながらにじり寄った。


「ほぉん」

「ぷ、プルートキングドッグ! 隊長ぉっ」

「情けない声をあげるな。どうなのだ」


 ポチの存在に尻込みしながら、一団のまわりをぐるりと一周した。


「味方は吊れ(つつ)、敵は丸腰。明確に別隊にわかれおり、味方のなかに敵が紛れてません。――モースト軍曹の言葉は事実であると確信します」


 モースト班たちはストラップを肩にかけた『吊れ銃』、オラシオンは銃を取りあげられて持ってない。丸腰はアシリレラの提案だ。実弾は切れ、エネルギーパックのバッテリーの空なのだが、相手はそれをしらない。捕虜が銃をもっていては、いらない警戒をよぶ。武器がなければ行動できない。常識としては。


 森の道のりは、両軍入り乱れ世間話をしながらの「みち足」行軍だったが、街に入る前に分けた。これもアシリレラの意見だ。


 隊長は、オラシオンたちをその場に座らせる。


 アシリレラと約束を守れたモーストも肩の荷が下りた安堵から、座り込んだ。隊長がねぎらいの言葉をかける。


「ごくろうだった。軍曹のほうも降伏したのだな」

「ええ。というよりこちらが助けられたんですが。え? 『も』?」

「北東で展開していたミャーサ隊が、投降した敵部隊を連れてきたのだ。こちらが劣勢だというのに、武器を捨てたのだと。ミャーサは苦笑いしていたよ」


 それを聞いたモーストは苦笑いするしかない。


「実は、うちも同じでして」

「そうだったか……まったく、なにを考えているやら」


 ラメトクが「姫」とめくばせした。テパやメアンが息をのみ、仲間たちは喜色を浮かべた。


 アシリレラが参謀に聞かされた計画は、都市を3方面から囲むというものだ。アシリレラ・セラドゥーラ班を罠にかけるものだと今は分かってる。

 参謀のバトローネ・グスルは、残りのオラシオンも降下させたようなことを言っていた。別の惑星かと思っていたが、この星に他部隊が降下しており、優位なのに降伏したとすればそれは……。


「部隊名は? どこにいるのですかっ?」


 アシリレラは立ち食いぎみに訊ねた。座れの命に反する行為。警戒する兵が銃をつきつけたが、かまわずそれどころか、掴みかかる勢いだ。


「貴様っ!」


 レーザー銃の引鉄に指をかける兵。5センチの鋼鉄板を孔を開ける光熱レーザーが、いまにも発射されるというそのとき、モーストが間に入って壁になった


「までまて、撃つな! こいつらは大丈夫だから」

「あ、ぶねーじゃないっすか、軍曹」

「すまん。すまんでも撃つなよ。俺は、お前の身を案じてるんだ」

「バカにしないでください。こんな至近距離で、外すわけないじゃないすか、増して反撃なんか」

「それができるんだよ、こいつらは」




「で隊長、その部隊というのは」



「モーストがそう言うのなら。部隊名だが、551大隊の第1強襲偵察隊と名乗ってた。体育館に収容してる。子供もまじってて部隊というが難民のような有様だった。そんなのに手も足もでなかったというんだから」


「わーっ!!」


 オラシオンたちが歓声をあげ、もろ手を挙げてとびはねた。現地兵たちは、大人しくしろと脅しつけてもムダ。バク転したり、オンカミの火で花火を打ちあげたり、喜びがおさまらない。体いっぱいで評右舷してる。メアンなどは、味方も敵もかまわず抱きつく始末だ。


「まちがいないぜ姫。そりゃ長老たちだ」

「……よかった」


 アシリレラの目から涙が零れ落ちた。

 狂喜に騒ぐオラシオン、いきり立って撃とうする現地兵を、モースト隊はやんわり停める。


「軍曹、どういうことだ?」

「許してやりましょう。死んだと思った親兄弟たちが生きてたんです」


 温度差の狂喜乱舞が騒がしい。


 そんな人間たちの騒音をみつめていたのポチ大尉が、のっそり歩いて、アシリレラの後ろについて、その尻を鼻でつついた。


「ひゃっ。誰だ!」


 ふいの感触に少女は、かわいらしい悲鳴をあげて、びくっと飛び跳ねた。オラシオンの誰かがいたずらしたと睨んでふり返ったが。みんなは騒ぎに夢中でアシリレラをみていない。


「うぉん」

「……大尉でしたか」


 触った主がポチだとわかり、過剰に反応した自分が恥ずかしくなる。

 少し離れた場所から、モーストが手をたたいて笑っていた。


「なんでしょうか!」

「はっはは。歳相応に、かわいいところがあると思ってな」

「その発言、セクハラですよ」

「まぁ許してくれ」

「許すもなにも、自分たちは捕虜ですから。多少の横暴は飲みこまないといけません」


「そうツンケンするなって。それより気になっていたんだが。そのプルートキングドッグなぁ、異常に強くないか。うちにもいるが、あそこまで圧倒的なのはみたことがない」

「強いのは当然です。ポチ大尉ですから」

「それは知ってるが珍しい名前じゃない。本物ににあやかってつけたんだろ」

「だそうですよ大尉。有名になるのも困りものですね」

「ぶふぉんー」

「まさかホントにポチ大尉?」

「ホントにポチ大尉です」

「帝国殊勲章を、3度受勲したポチ大尉?」

「ええ。エプル協和連邦の支配惑星をたった一匹で、降伏させたあのポチ大尉です」


 撃たれたような衝撃でモーストが固まること10秒。フリーズから自力回復すると、ぴょこんと正座の姿勢でポチの前にひざをつく。神妙な顔尽きて両手を伸ばした。


「子供のころからファンなんです! 握手してください!」


 有名「犬」に握手をねだる現役軍人。知能の高いプルートキングドッグはいわゆる犬ではないと知ってるが、マヌケな図式である。ポチはフンと頭を背ける。


「がびーん」


 モーストが再び固まった。こんどは別のショックからだ。


「ところで、ポチ大尉はなにか御用ですか」

「ぅおん。おん。ふぉっぐぐぉん」


 前足でアスファルトをてちてち、叩いて、何事かを訴える大尉。その様子は怒っているようにしかみえない。「あっ」と言って太い眉をあげるアシリレラ。ポチは避難するようにうめいた。


「……おぉん」

「ごめんさい、すっかり忘れてました。パピーウォーカーですよね」



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