10 安否
待ち構えていた反乱軍、あらため現地部隊は3方向に分かれた、100人あまり。焦ったモーストは「銃を降ろせ」を連発するのだが、誰もしたがわず、銃を下げない。
恰幅の良い人物に、モーストは話しかけた。
「隊長! あんたからも言ってくれ、こいつらは降伏したんだ」
「モースト軍曹。キミの言の正否は我が隊がおこなう。おい」
隊長は3人を呼びつけて指示をだす。3人は銃を下向きに構えると、モースト・オラシオンの一団に警戒しながらにじり寄った。
「ほぉん」
「ぷ、プルートキングドッグ! 隊長ぉっ」
「情けない声をあげるな。どうなのだ」
ポチの存在に尻込みしながら、一団のまわりをぐるりと一周した。
「味方は吊れ銃、敵は丸腰。明確に別隊にわかれおり、味方のなかに敵が紛れてません。――モースト軍曹の言葉は事実であると確信します」
モースト班たちはストラップを肩にかけた『吊れ銃』、オラシオンは銃を取りあげられて持ってない。丸腰はアシリレラの提案だ。実弾は切れ、エネルギーパックのバッテリーの空なのだが、相手はそれをしらない。捕虜が銃をもっていては、いらない警戒をよぶ。武器がなければ行動できない。常識としては。
森の道のりは、両軍入り乱れ世間話をしながらの「みち足」行軍だったが、街に入る前に分けた。これもアシリレラの意見だ。
隊長は、オラシオンたちをその場に座らせる。
アシリレラと約束を守れたモーストも肩の荷が下りた安堵から、座り込んだ。隊長がねぎらいの言葉をかける。
「ごくろうだった。軍曹のほうも降伏したのだな」
「ええ。というよりこちらが助けられたんですが。え? 『も』?」
「北東で展開していたミャーサ隊が、投降した敵部隊を連れてきたのだ。こちらが劣勢だというのに、武器を捨てたのだと。ミャーサは苦笑いしていたよ」
それを聞いたモーストは苦笑いするしかない。
「実は、うちも同じでして」
「そうだったか……まったく、なにを考えているやら」
ラメトクが「姫」とめくばせした。テパやメアンが息をのみ、仲間たちは喜色を浮かべた。
アシリレラが参謀に聞かされた計画は、都市を3方面から囲むというものだ。アシリレラ・セラドゥーラ班を罠にかけるものだと今は分かってる。
参謀のバトローネ・グスルは、残りのオラシオンも降下させたようなことを言っていた。別の惑星かと思っていたが、この星に他部隊が降下しており、優位なのに降伏したとすればそれは……。
「部隊名は? どこにいるのですかっ?」
アシリレラは立ち食いぎみに訊ねた。座れの命に反する行為。警戒する兵が銃をつきつけたが、かまわずそれどころか、掴みかかる勢いだ。
「貴様っ!」
レーザー銃の引鉄に指をかける兵。5センチの鋼鉄板を孔を開ける光熱レーザーが、いまにも発射されるというそのとき、モーストが間に入って壁になった
「までまて、撃つな! こいつらは大丈夫だから」
「あ、ぶねーじゃないっすか、軍曹」
「すまん。すまんでも撃つなよ。俺は、お前の身を案じてるんだ」
「バカにしないでください。こんな至近距離で、外すわけないじゃないすか、増して反撃なんか」
「それができるんだよ、こいつらは」
「で隊長、その部隊というのは」
「モーストがそう言うのなら。部隊名だが、551大隊の第1強襲偵察隊と名乗ってた。体育館に収容してる。子供もまじってて部隊というが難民のような有様だった。そんなのに手も足もでなかったというんだから」
「わーっ!!」
オラシオンたちが歓声をあげ、もろ手を挙げてとびはねた。現地兵たちは、大人しくしろと脅しつけてもムダ。バク転したり、オンカミの火で花火を打ちあげたり、喜びがおさまらない。体いっぱいで評右舷してる。メアンなどは、味方も敵もかまわず抱きつく始末だ。
「まちがいないぜ姫。そりゃ長老たちだ」
「……よかった」
アシリレラの目から涙が零れ落ちた。
狂喜に騒ぐオラシオン、いきり立って撃とうする現地兵を、モースト隊はやんわり停める。
「軍曹、どういうことだ?」
「許してやりましょう。死んだと思った親兄弟たちが生きてたんです」
温度差の狂喜乱舞が騒がしい。
そんな人間たちの騒音をみつめていたのポチ大尉が、のっそり歩いて、アシリレラの後ろについて、その尻を鼻でつついた。
「ひゃっ。誰だ!」
ふいの感触に少女は、かわいらしい悲鳴をあげて、びくっと飛び跳ねた。オラシオンの誰かがいたずらしたと睨んでふり返ったが。みんなは騒ぎに夢中でアシリレラをみていない。
「うぉん」
「……大尉でしたか」
触った主がポチだとわかり、過剰に反応した自分が恥ずかしくなる。
少し離れた場所から、モーストが手をたたいて笑っていた。
「なんでしょうか!」
「はっはは。歳相応に、かわいいところがあると思ってな」
「その発言、セクハラですよ」
「まぁ許してくれ」
「許すもなにも、自分たちは捕虜ですから。多少の横暴は飲みこまないといけません」
「そうツンケンするなって。それより気になっていたんだが。そのプルートキングドッグなぁ、異常に強くないか。うちにもいるが、あそこまで圧倒的なのはみたことがない」
「強いのは当然です。ポチ大尉ですから」
「それは知ってるが珍しい名前じゃない。本物ににあやかってつけたんだろ」
「だそうですよ大尉。有名になるのも困りものですね」
「ぶふぉんー」
「まさかホントにポチ大尉?」
「ホントにポチ大尉です」
「帝国殊勲章を、3度受勲したポチ大尉?」
「ええ。エプル協和連邦の支配惑星をたった一匹で、降伏させたあのポチ大尉です」
撃たれたような衝撃でモーストが固まること10秒。フリーズから自力回復すると、ぴょこんと正座の姿勢でポチの前にひざをつく。神妙な顔尽きて両手を伸ばした。
「子供のころからファンなんです! 握手してください!」
有名「犬」に握手をねだる現役軍人。知能の高いプルートキングドッグはいわゆる犬ではないと知ってるが、マヌケな図式である。ポチはフンと頭を背ける。
「がびーん」
モーストが再び固まった。こんどは別のショックからだ。
「ところで、ポチ大尉はなにか御用ですか」
「ぅおん。おん。ふぉっぐぐぉん」
前足でアスファルトをてちてち、叩いて、何事かを訴える大尉。その様子は怒っているようにしかみえない。「あっ」と言って太い眉をあげるアシリレラ。ポチは避難するようにうめいた。
「……おぉん」
「ごめんさい、すっかり忘れてました。パピーウォーカーですよね」




