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ポチ大尉のマイノリティ  作者: キタボン
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01 窮地

 ここは陸地が19%しかない海洋惑星。タソック恒星系にあるOJONⅢだ。18歳のアシリレラ・セラドゥーラ少尉は150センチの小柄な体でビーム銃を撃ち続けた。金属製のベンチを遮蔽物にして部下たちを鼓舞する。


「もうすぐ第201西方連隊の本隊が降下してくる。持ちこたえろ!」


 流れる汗が太眉をつたって目に入る。ぬぐいたい衝動に駆られたが、ビームと銃弾が飛び交うなかで防弾バイザーを開けるわけにいかない。戦闘スーツの弾帯に刺したマキリ(小刀)に手を伸ばして堪える。


「2人やられた。姫。情報が漏れたとしか思えないですなぁ」


 165センチのラメトク曹長がのんびり告げた。


「ラメトク。部隊活動中だ。わたしのことは少尉と呼べ」

「あー。そういえば少尉殿でしたな。そうそう頭は切替わらんってもんだ。オムツをつけてた赤ん坊のころから知ってる族長の娘が功をあげて隊長なんてな」


 ラメトクは31歳。アシリレラが生まれたときから守役を勤めていた。身長165センチは小柄な民族のなかでは背の高い。大きな体が象徴するように頼りになる男だ。ビームの輝きと昇りかけた朝日が彼のヘルメットに反射。


「時間は?」

「320秒オーバー」


 視線を部下から部族紋様の刺繍された手甲に動かした。短く切りまとめた黒髪が、ヘルメットの中で揺れた。

(……みんなを帰せるだろうか)


「なんですって?」

「独り言だ」


 アシリレラ隊に下った任務は3つある。1つ、反乱兆候を探る偵察。2つ、本隊急襲の陽動。調査と陽動では、隊の規模も装備も段取りもまるで違う。少数部隊には十分に重すぎたが、3つめは、戦闘状況では考えられない任務――むしろそちらがメイン――だった。


 いけ好かない参謀がニヤつきながら言ったものだ。「カンタンなお仕事だよ」と。降下地点からひと森を抜けるまでひと月かかったが、たしかにカンタンだった。

 だがついさっき激烈な悪夢に変貌した。薄暗い早朝。首都と呼ぶには可愛らしい町外れの自然公園。作戦時刻ちょうどに、いないはずの反乱軍の攻撃を浴びたのだ。


「森まで退がる」

「陽動任務はいいんすか?」

「いい。部隊は影さえみえない」

「……ですなぁ」


 眩しそうに空を拝んだ。朝焼けが美しい。突入ポッドも支援ドローンも見当たらない。降下ポイントを間違えたのかもしれない。アシリレラ隊のポッドも大きく逸れた西に落とされた。あり得ないことではない。


「誰でもいい。怪我人をオンカミで治療してやれ」

「アロージュ! 姫の命だ。治療してやれ」

「少尉だ。姫じゃない」

「でしたな」


 アシリレラとラメトクが、部族あるあるの言い合いするその脇で、メアン・アロージュ一等兵がオンカミを唱える。


「『天におわす昼と夜の化身よ 癒しと再び立ち上がる力を与えたまえ』 チュプポッケ」


 オンカミはエンタメ物語りによくある、いわゆる魔法のようなものだが、広大な銀河において、アシリレラたちオラシオンにしか使えない特殊能力だ。彼女たちは、銀河帝国によって惑星を破壊された一族の末裔だった。帝国内に生かされ組み込まれているのは、唯一無二な能力のおかげだった。


 銃弾に貫かれた上腕の傷がみるみる回復していく。短時間ほどは神経が覚えた傷みに苦しむが、負傷の後は消えた。


「姫が先に下がってくれ。俺と2名で前方に威嚇射撃する」


 ラメトク曹長の進言を、アシリレラが片手でさえぎる。


「総員でだ。3人でなにができる」


 敵は少なく見積もって200人。対して、アシリレラ率いる銀河帝国軍第201西方連隊551大隊辺境中隊第2情報偵察隊は15人。怪我をしたばかりの2人はしばらく銃が持てない。すぐさま応戦できる人数は13。減るのは時間の問題だ。多勢に無勢である。突撃されたらゲームセット。持ちこたえているのは敵が慎重なせいだ。


「200メートル退がれば深い森だ。逃げる算段がつく」

「了解。援護しながら交互に退く。総員を半分に分ける」


 樹々がまばらな自然公園の林を引き返すことが決まる。

 アシリレラは膝をつくと、足元で寝そべる大型犬に頭を撫でた。


「――ということになりましたポチ大尉。ここはいったん退きます」


 それは一匹の軍用犬。獰猛で知られるプルートキングドッグだった。

 見た目は地球型の犬に似ているが、別星系に棲む毛の長い生物だ。以心伝心で5~30頭を手足のように動かし、すさまじい戦闘力を発揮する。単騎でも強い。プライドが高く服従するのは長と認めた相手だけ。見くだすねじ伏せた事例にはことかかない。


「ふぉおん……」


 ポチは大きくあくびする。



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