精霊さまとホームセンター
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
休日は基本昼までは活動をしない俺が珍しく土曜日の朝9時にマンションのロビーに来ている。
今日は涼風と調理器具や必要な調味料を買いに行く約束をしていたからだ。
マンションのロビーには既に涼風が扉の近くに立って待っていた。
涼風の着ている綺麗な白のワンピースは涼風の鮮やかな青藤色の長い髪と合わせてますます精霊感が増している印象だ。
「…女性と私服で待ち合わせをしたらなにか言うことがあるんじゃないんですか」
「え、…なるほどね。似合ってるよ」
「よろしい」
どことなく涼風は機嫌が良くなった。
× × ×
「それでまずはどこに行くんだ?」
「そうですね、調理器具を買いに行くのならホームセンターですかね。あそこなら料理始めたばかりの人なら十分な位の物はそろうと思いますので」
「それじゃあ近くのホームセンターに行くか。ここからだいたい五分くらい歩いた所に大きめの所があったはずだ」
「じゃあそこに行きましょうか」
俺と涼風は第1の目標を達成するべく、家の1番近くにあるホームセンターに向かった。
ホームセンターまでの道を歩いていてもホームセンターの中に入っても必ず通り過ぎる人達は涼風の方に目が動く。
それほどまでに涼風の美人さと存在感が凄いという事だ。
「え〜っと、月城さんはお料理初心者なので、一旦はこちらのセットを買いましょう。これならヘラやお玉も全て揃いますし。月城さんもなにかご要望があれば是非言ってくださいね」
涼風はホームセンターの調理器具コーナーに着くと、壁にかかっているヘラやまな板などを手に取って確認し、どんどんカゴに入れていった。
「俺にはさっぱり分からないから涼風が決めてくれ。全て涼風の好みの物でも構わないし、お金に関しては気にしなくてもいい。よっぽどのものでなければな」
「そんなに無茶な物を買わせる気はさらさらありません」
「まぁ俺がそんないい物を持ってても今は宝の持ち腐れだしな」
「そういう事です」
真正面から肯定された事は少し複雑な心境だが、事実料理に関しては昨日教えてもらっただけでまだまだ超初心者の為この肯定も頷ける。
俺たちはホームセンターで調理器具を買い揃え、次の目的地のいつものスーパーマーケットに向かう為にホームセンターから出た。
「本当に買って頂いて良かったのでしょうか」
俺は涼風が欲しそうに眺めていた可愛い猫のマグカップを買ってあげた。
昨日の夕飯と休日にまで付き合わせているのだからこれくらいの礼儀はしなければいけないというものだろう。
「昨日の夕飯のお礼って事で受け取ってくれ」
「それでは遠慮なく。ありがとうございます」
涼風は猫のマグカップを両手で持ち、笑みを浮かべている。
よっぽどあのマグカップが気に入ったのだろう。
よくよく思い返してみると涼風の家には至る所に猫の物が置いてあったので相当猫好きなんだなと思った。
「え〜、それでは次はスーパーマーケットに向かいましょう。そちらの荷物が重いようでしたら、スーパーはマンションから近いですので1度置いてきてもいいですよ」
「ああ、助かる。じゃあ直ぐに置いて戻ってくるから下の所で待っていてくれ」
「了解しました」
俺はマンションの入口ドアの前で涼風と別れ、ホームセンターで買ったものを持って急いで自宅へと急いだ。
俺が自宅に買った物を置いてロビーに帰ってくると目の前で涼風と男達3人ほどが揉めているように見えた。
俺は急いで涼風の元に向かった。
「ねぇねぇ〜い〜じゃん俺たちと遊ぼうよ〜」
「だから先程からお断りしているはずです。他を当たって下さい」
「そんなつれないこと言わないでさ〜ほら、行こ」
言い詰めている1人の男が涼風の腕を掴んで無理やり連れていこうとした瞬間、俺は男の腕を叩き落として涼風の体を自分のところに引き寄せた。
「おい、断られているのが分からないのか?しつこい男は嫌われるぞ」
「なんだぁお前?俺達はそこの女の子と話してんだ。邪魔すんじゃねぇ!!」
男は握った拳を俺の方向に向けて突き出してきた。
俺はその拳を受け止めて、ある程度の力を込めた
「痛てぇ!!!」
「直ぐに手を上げる男も嫌われるぞ。いいからさっさとどっかに行け」
「ひぃ!」
俺が男達を睨むと、男達は一目散に逃げて行った。
「あ、あの、ありがとうございます。また助けられましたね」
「何度だって助けてやる。お前が助けを呼んだらな」
「頼りにしてますよ」
涼風は終始真顔で冷静に男達と言い合いをし、今も笑顔だがずっと手は震えていた。
やはり自分よりずっと体格が上な大人の男3人に囲まれたら恐怖を感じるようだ。
俺はそんな涼風の頭に手を置いた。
すると涼風は顔を赤く染めながらこちらを見てきた。
「ちょ、ちょっと!急に何を!!」
「涼風、怖かったんだったら怖かったって言え。自分を押し殺す事はいつでもいいことじゃない。その感情、言動、行動、全てが涼風なんだからな」
「…もしかして慰めているんですか」
「それは涼風の判断次第だな。ほら、早くスーパー行くぞ」
俺は涼風の頭から手を離しスーパーマーケットに向かって歩き始めた。
後ろにいる涼風は作りでは無い本物の笑顔で「はい」と答えて俺に追いつくように歩き始めた。
ちなみにこの作品を書き始める少し前に振られました。