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学園の精霊さまは恋を知る。  作者: 上舘 湊
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精霊さまと完成品

「…出来た」


俺は鍋の中でグツグツ煮詰まっている茶色いカレーを眺めていた。


人生で初めて材料から料理をするという事をして無事完成したため、達成感と同時にある程度の喜びがある。


「きちんと出来ましたね。それでは味見をさせてもらいます」


「ああ、よろしく頼む」


俺の隣に立っている涼風は1口大の小皿を取り出し、鍋の中のカレーを少しだけすくって口元に運んだ。


「…うん、しっかり出来ていますね。きちんと味もカレーになっています」


「よし」


料理を普段からして慣れている涼風からのこの高評価ならかなりの信憑性がある。


「それではお皿によそって食べましょうか。もう夜の19時ですし丁度お夕飯頃なので一緒に食べましょう」


「ああ、久しぶりに集中してひとつの事をしたからかなり疲れたしお腹も減った」


「白米はもう炊いてあるのでそちらをこのお皿によそってください…あ!」


「危な!」


涼風が食器棚の上の方に置いてあるカレー皿を取ろうとした時に横にあったお皿に当たって涼風に向かって落ちてきた。


俺は落ちてきた皿をキャッチし、もし取るのに失敗して涼風の方に飛んでいってはダメなので、小さな体を俺の方向に引き寄せた。


「ふぅ…大丈夫だったか?怪我してないか?」


「え、ええ、大丈夫…です」


見る限り涼風の指に皿による切り傷などは無い。


真っ白で綺麗な指は傷物には出来ないので良かったと安心した。


「そっか、高いところのものを取る時は俺に言ってくれ。ギリギリの人が取るより余裕がある人が取った方が安全だろ?」


「そ、そうですね。…あ、あの月城さん」


「どうかしたか?」


涼風は少し頬を赤く染めながら俯いて話し始めた。


「危険だったので抱き寄せて頂いたのは嬉しいのですが、その…もう大丈夫なのでは無いかなと」


「え、あっ!すまない!気づかなかった」


涼風の指摘を受けて俺はものすごい速さで涼風の体から自分の腕を離した。


咄嗟の事とは言え女性の、しかも涼風の体に触れてしまったのは生涯独り身の俺にとってはかなり動揺の元となる。


「こんな信用も出来ないような男に抱き寄せられて嫌だったよな。考えが浅かった…」


「いえ、先程も言ったように、私の身を守るためにしてくださった事なのでそんな不快に感じるような事はありませんよ」


涼風はニコッと微笑んで俺のフォローをしてくれた。

この気遣いが『精霊さま』と呼ばれる理由なんだろうな、と俺は何となく心の中で理解した。


「それならいいんだが…何となく罪悪感が残っているからなにか罪滅ぼしさせてくれないか?」


「そんな気にしなくてもいいのですが…でしたら上のカレー皿を2枚取っていただけますか?」


「ああ、わかった」


俺は涼風のお願いを聞き入れ、食器棚の上の方にあるカレー皿を2枚ほど取った。


× × ×


「案外上手くいくものなんだな」


俺と涼風は夕飯のカレーを食べ終えてダイニングテーブルでゆっくりしていた。


「そうですね、月城さんの場合「料理が難しいものだ」といい先入観があったからだと思いますよ。何事もまずは先入観を無くし、初めて見ることが大切ですから」


「確かに今までの俺はめんどくさいものという考えを持っていたからかもな」


「やってみると案外楽しいものですよ。では月城さん、明日は一緒に調理器具を買いに行きましょう。私が色々見繕いますので」


「ああ、よろしく頼む」


正直調理器具やその他もろもろについて、俺には全くの知識もないので経験者の涼風が一緒に着いてきて選んでくれるのはとても助かる。


というか涼風が居てくれないと涼風の言う通り「値段」や「デザイン」で選んで、性能や使いやすさに関しては二の次になるので来て貰えないと困る点もある。


「ひとまず明日買う物は包丁、まな板、お鍋、トングやヘラはあった方がいいでしょう。というか何故フライパンがあった包丁やまな板が無いんですか?」


「言ったろ。親からの一人暮らしの為にフライパンや食器は貰ったけど、料理もしないからそれ以外は増えないって」


「なるほど、それであのフライパンだけがお家にあったのですね」


それから俺と涼風は色々と購入する物を決めたり雑談したりして時間を過ごした。


× × ×


「もう20時ですね。そろそろお開きにしましょうか」


「もうそんな時間か」


俺は涼風が見つめている方向にある時計を見た。

短い針は8の数字を指している。


俺が玄関の方に向かうと涼風も出迎えをする為に着いてきた。


「月城さん明日の予定お忘れなく」


「ああ、明日の朝9時にロビー集合だよな」


「ええ、お金自体は少し多めに持ってきてもいいかもしれません。帰りにスーパーマーケットで必要な物なども揃えたいので」


「了解。じゃあおやすみ」


「はい、おやすみなさい」


俺は涼風の綺麗な動作の礼を見ながら扉を閉めた。

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