精霊さまとカレンダー
「もう気が付いたらクリスマスの時期ですね」
いつも通り俺の家のソファに座ってクッションを抱きしめている涼風は、壁にかかっているカレンダーを横目にそう言った。
今日は12月20日、聖夜のクリスマスまでは残すところ5日となった。
聖夜と言っても俺は恋人と過ごす訳でもなく涼風と過ごす予定なのだが来年こそは恋人と過ごしたいものだ。と心のどこかでは思っている。
「そうだな。と言っても特に変わるようなものも無いけどな、強いて言えば食事くらいだろ」
実際どこかへ出かける訳でもなくてずっと一日中家の中で過ごす訳なのだからそこまで代わり映えの無い日なのだ。
何しろ外は寒いので極力出たくは無いと言うのが本音なのだが。
「そんなに卑下しなくてもいいじゃないですか。普段と違う食事を取るだけでもその行事の意味があるのですから」
「そういうものなのかな」
「そういうものなのです」
俺は涼風の説明に何となく否定してはいけないような気がした。
涼風はクリスマスの行事を楽しむ感じでは無く、普段とは少し違う料理を楽しみたいだけなのかもしれない。
そこで俺はとある事を思い出した。
「そうだ、涼風何か欲しいものはあるか?」
「欲しいものですか?」
「ああ、アクセサリーでも調理器具でもなんでもいいぞ。流石に高いものは無理だが」
「そうですね…正直な所を言うと特に欲しいと思うものが無いですね」
普段の言動から見て分かるのだが、涼風は全くと言ってもいいほど物欲が無いのだ。
そんな物欲の無い涼風に欲しいものを聞いても帰ってくる答えは決まっている。
普通ならここで涼風の好みの物をプレゼントすればいいのだが、俺は涼風の好みの物をあまり知らない為ここで好みの物をプレゼントすることも出来ないのである。
「もし私にプレゼントをあげようとしてそれを迷っているのだとしたら、私は月城さんから頂いたものが欲しいです」
「それはどういう事だ?」
俺は涼風の発言があまり理解出来ず、すぐさま聞き返した。
「私は『どんな物が欲しいのか』では無く『誰から貰ったか』を重要視しますので月城さんからのプレゼントならなんでも嬉しいのだと思います。流石に得体の知れない物などは話が変わってきますが」
「なるほどな、分かった。そして得体の知れない物は渡すわけが無いだろ」
「それはそうですね」
涼風は俺の返答にクスッと笑みをこぼした。
しかしそうなってくると話は早い。
クリスマスにプレゼントとして渡すものを涼風の要望に沿うような物を渡す必要が無くなった為、自分が良いと思った物を渡せばいい話だ。
そうして俺は何を渡そうかと頭の中で再度考え直すのであった。
× × ×
「そういえばクリスマス当日の夕食は何にしましょうか」
涼風が座っていたソファの横に俺が腰掛け、共に目の前に置いてある大きいとも小さいとも言えないテレビを見ていた。
普段は涼風が作りたいものや俺が食べたいものをあらかじめ言っておいてその材料を買っておき、日程を決めて一緒に作るのだ。
「とりあえず月城さんの食べたい物を聞きましょうか。私としても普段から調理場をお借りしてますしご要望にはお答えしたいです」
「そんなに気にしなくてもいいのに。それじゃあホワイトシチューが食べたいな、涼風が作ったホワイトシチュー好きなんだよ」
「…そうですか、それならホワイトシチューは決定にしましょう」
涼風は携帯のメモに次々とクリスマス当日の献立を書き込んでいった。
ホワイトシチューにチキン、そしてクリスマスと言えばのケーキも涼風の気になっていたケーキ屋で注文をしておいた。
聖夜の当日に向けての準備は着々と進んでいるのであった。
「そういえば月城さん、親御さんはどうなさったのですか?クリスマスとなると流石にこちらに来るのではないですか?」
「ああ、父さんと母さんについては心配いらないよ」
「どうしてです?」
涼風は俺の言葉に対して不思議そうな顔をしてそう答えた。
もちろん涼風の疑問は実に正解だと思う。
学生の身でありながら親とは離れて一人暮らしをし、クリスマスなどの行事ごとにも一切会わないというのは普通疑問に感じるところだろう。
「父さんと母さんは父さんの仕事の都合で色んな所を飛び回ってるから滅多に帰ってこないんだ」
俺の父さんは出張などの都合で国内に留まらず海外にまで行くことがあるのだが、母さんはそれについて行くような形なのだ。
そして俺は学校がある為こうやって一人暮らしをしていると言うのが現状だ。
どうせクリスマス当日も夫婦揃ってヨーロッパやどこかの豪華なディナーを堪能しているのだろう。
「そういう事ですか。それなら納得です」
涼風も俺の説明を聞いて腑に落ちたのか納得した顔をしている。
しかしそこで俺の中にもとある疑問が浮かんだ。
「涼風の親御さんはどうなんだ?」
俺がその質問をした途端涼風の微笑みはピクッと反応した。




