精霊さまとお約束
「あ、あの、月城さん。今度の週末に一緒に遊園地に行きませんか?」
「遊園地…?」
机の上に並べられた夕飯を眺めていた俺は、涼風からの急な誘いに驚いて顔を上げた。
俺の目線の先には遊園地のチケットを2枚、右手にもって俺の方向をじっと見ている涼風の姿があった。
なんだか涼風は少し緊張しているように見えるのだが、何をそんなに緊張する事があるのかというのが謎ではある。
「はい、実は如月さんに遊園地のペアチケットを頂いたのですが、数少ない友人が全員行けないらしく。しかし使わないのも勿体ないので月城さんさえ良ければどうでしょうか?」
「なるほど…」
涼風からの遊びのお誘いというのはとてもありがたいことだし嬉しいことではあるのだが、出来れば「友人が行けないから」ではなく普通に行こうと誘って欲しいなとは思った。
しかし涼風からの誘いという事実に変わりは無いので、俺に特に断る理由も無かった。
「わかった、じゃあ行こうか。日にちは今週末で良いんだよな?」
「はい、今週末の日曜日ですね」
「じゃあ集合場所はいつも通りに俺の家で集まってそこから遊園地の方向へ行くって感じでいいか?」
「月城さん、そのことなんですが…」
俺が当日の集合方法を聞くと、涼風は何やら言いづらそうな表情をしながら提案してきたのだが。
「現地で待ち合わせをする…というのをしてみたいのですがよろしいですか?」
その提案は俺が想像していたものより斜めに外れたものだった。
× × ×
「集合時間は10時で場所は遊園地前のショッピングモール入口…で合ってるよな」
俺は涼風とのメッセージのやり取りを見て、集合場所と時間を確認し、ついでに今の時間も確認しておいた。
現在の時間は集合15分前の9時45分。
待ち合わせは早めに来て待っておくのが常識と親に教えられてきたので、基本的に集合の15分前には場所に居るのが俺の中での当たり前になっているのだ。
にしても何故涼風が急に「待ち合わせをしたい」と言い出したかは今になっても分からない。
何か意図があるのは当然なのだがこういうのは恋人同士などでするという認識だったのでますます疑問だ。
そんなことを考えていると駅の方向からこっちの方に走ってくる涼風の姿を見つけた。
俺はその姿を見て衝撃を受けた。
普段は「こんなものがあっても邪魔になるだけです」と言って着ないような可愛らしいフリルのついた服を着ているからだ。
「月城さん、お待たせしました。…どうかしましたか?」
「あ、いや…なんでもない」
俺は見慣れない涼風の姿に見惚れて、少しの間固まっていたようだった。
涼風は自分を見つめながら固まっている俺の様子が不思議だったからか、少し心配した様子で話しかけてきた。
「そうですか。月城さん、この服どうでしょうか…あまり普段着ない服なので少し違和感がありますが似合っているでしょうか?」
「ああ、凄く似合ってるよ。可愛いと思う」
実際凄く似合っているのだが、普段の涼風の美しさを目立たせている様なシンプルで綺麗な服とは違い、今の服装は涼風の年相応な可愛さを引き立たせる様な印象を持たせる。
よく着ている寒色系の服ではなく暖色系を取り入れているのも関係しているのだろうか、俺自身服にはそこまで詳しくない為あまり分からないがそういう効果もあるのだろう。
「か!かわ!…月城さん!前も言いましたがあまり女性にそういう言葉を軽々しく言ってはいけませんよ!!」
「そんな安売りはしていないはずだ。少なくとも今までの人生では涼風にしか言ったことが無い」
「!!!!」
俺が褒めた事に対して顔に赤を浮かべて照れていた涼風だったが、俺がそう言うとさらに赤色が加速していった。
実際俺も言った後に少しくさいセリフだなとは思ったのだが、涼風がここまで俺の言葉に反応するとは思っていなかったので意外だった。
その後少しして、涼風は俺から外した視線をゆっくりと俺の方向へと戻してきた。
「…本当に月城さんは言う言葉全部が良くないです…」
「良くないってなんだよ…」
「良くないんです!「あなたにしか言ったことが無い」なんてセリフを言われた女の子がまともな心境でいられると思いますか?」
「えっと…ごめんなさい…?」
「…別に謝罪は要らないです」
今まで女性経験が全くなかった俺には、女心というものはかなり理解に苦しむところがあった。
こんな事なら今までに色々な異性と話して、経験を積んでおけば良かったな、と今更になって後悔している。
俺が後悔しつつ目の前の涼風の方向を見ると、涼風は俺の事をじっと見つめて真剣で、しかしどこか不安そうな顔をしていた。
「月城さん、ひとつだけ約束してください」
「分かった。俺が叶えられる願いならなんでも約束する」
「これから私以外の女性には「可愛い」という言葉を出来るだけ使わないでください」
「…それがお願いか?」
「そうです。まさか出来ないのですか?」
「いや、別に言う時も無いから大丈夫だ。それじゃあ約束だな」
俺が涼風の提案した約束を承諾すると、涼風は嬉しそうでどこか安心したような顔をしていた。
 




