精霊さまと勘違い
「…妹さん…でしたか」
ゲームセンターの騒がしい程の音とは対照的に、涼風はまるで消えてしまうかのようなか細い声を発した。
何故なのか理由は不明だが、まるで俺らの事を監視するかの様に物陰に隠れてこちらを見ていたのである。
「てっきり彼女さんとご一緒なのかと思って後をつけてしまいました…」
「ああ、そういえば言ってなかったな。こいつは俺の妹の『月城 和香』だ」
「初めまして〜!妹の和香で〜す!!」
俺の横から元気よく飛び出したこいつがいま話題に出ていた俺の妹だ。
髪色や目の色なども俺と全く一緒なので、真正面から見ると直ぐに「兄弟だ」と判断できるのだが、涼風は後ろ姿しか見ていなかったので恋人だと勘違いしたのだろう。
「は、初めまして涼風 凛と言います」
「凛さん!顔と見合って名前までかわい〜!!ほんとにお人形さんみたい!!肌白!顔ちっさ!目おっき!!」
「え、えっと」
涼風はグイグイ詰めてくる和香のテンションに少し困惑している様子だ。
普段グイグイくる男子共とは違い、大きくあるのは「下心」では無く「興味」だから涼風も拒絶していないんだろうか。
俺はそんな和香の肩を掴み、涼風から引き剥がした。
「ほらそんなに興奮するな。涼風も怖がってるだろ」
「いえ、全然大丈夫です。少し驚いただけで」
「そっか」
こいつは昔からコミュ力がバカみたいに高く、初対面の人にもまるで友人かの様に接していき、いつもグループでは中心の人物と言う俺とは真逆の人種だ。
顔も良くて頭も良い、それに性格もノリも良しと来たら相当モテるらしい。
「いつもは離れにある俺の実家から学校に通っているんだが、最近はこっちの街中に来ることが多くなったんだ。それで久しぶりに会っていたって訳だな」
「なるほど…変な勘違いをして申し訳ありませんでした」
「そんな謝らなくていいよ〜。私とおにぃは並んで歩いてるとよくカップルって間違えられるからね〜」
「余計なこと言うな」
俺が和香の頭をコツンと叩くと、和香は「いて!」という声を出して頭を押さえてしゃがみ込んだ。
少し涙目になり俺の方を睨むと、すぐさま立ち上がって俺に向けて叫んでくる。
「何すんのさ!!暴力反対!暴力反対!!」
「テンションが上がってくると余計な事を口走るのがお前の悪い癖だ。また叩かれたくなかったらその癖を早く直せ」
「まあまあ、月城さんも落ち着いて」
俺と和香が言い合いをしていると涼風が間に入って俺たちの口論を終わらせようとしている。
「はいはい、こんなところで喧嘩するんじゃないよ。」
「…お前も居たのか七瀬」
「もちろん!こんなに面白いものを逃す手は無いでしょ!!」
涼風と同じ物陰から出てきた七瀬はそう言ってガッツポーズをした。
その瞬間「全ての元凶はこいつだな」と俺の心の中で今までの出来事が結び付き、そう結論を出した。
× × ×
「…んで、なんで涼風はずっと横に座ってるんだ?」
俺はソファに座りながら温かいココアを飲んでいる涼風にそう質問した。
俺と涼風は七瀬と和香と別れた後にいつも通り俺の家に来たのだが、普段は俺がソファに座ると涼風は横の椅子に座るのに今日は俺の隣に座っているのだ。
「…気にしないでください。」
「いや…いつもはこんなに近くないだろ?」
「いいんです!!」
涼風はソファに置いてあったクッションを強く抱きしめ、少し赤く染まっている顔を埋め込んだ。
(可愛いな…)
最近心の中で涼風に対しての感情が明確になってきているような気がする。
しかし、1つだけ言い訳させて欲しい。
普通に考えて、いつもこんな近くに学園一の美少女が居るのだから平然な感情を突き通せる訳もないのだ。
「涼風がこれでいいのなら別に構わないけどさ…他の男にしたら勘違いするから気をつけろよ。じゃあ俺もコーヒー入れてくるな」
「あ…」
俺が自分のコーヒーを入れるためにソファから立ち上がろうとすると、涼風が俺の服の裾を掴んで引き止めるようにした。
涼風は自分の行動を思い返すと、さらに顔を真っ赤にして俺の裾から勢いよく手を引っ込めた。
「す、すいません…つい反射的に掴んでしまって。迷惑でしたよね…」
「…いや、別に大丈夫だ」
こんな行動をされたら勘違いを起こしても仕方が無いのだが、あの涼風に勘違いを起こして今の関係が終わるのが怖いので俺は気持ちを切り替えた。
「もしかしてココアのおかわりが欲しかったのか?」
「え?…あっはい!お願いします!」
俺が涼風のコップが空になっているのに気づいてそう質問すると、涼風は自分の持っているコップの中身を見て俺に差し出してきた。
俺はそのコップを涼風から受け取って、材料が置いてあるキッチンへと向かった。




