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学園の精霊さまは恋を知る。  作者: 上舘 湊
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精霊さまと忘れ物

「ちょちょちょ!涼風!!落ち着け!」


俺は寝ぼけてくっついてくる涼風を引き剥がそうと、怪我をさせない最大限の力で涼風の体を押した。


涼風は俺の後ろの方で両腕をガッチリと絡みつけて、俺の体にぎゅっと張り付いている為一向に取れる気配が無い。


流石にこの状況はまずいと思い必死に涼風を離そうとしていると、俺の腹にうずくまっていた涼風の綺麗な顔が俺の方を向いてじっと見上げている。


「ねてもおきてもつきしろさんがいる〜」


涼風は眠たそうな顔で俺を見つめた後に、にへらと満面の笑みを浮かべた。


涼風のこの反応は、自分の大好きなものを見つけた時の顔と同じ反応である。


(…落ち着け俺、平常心平常心。そうだ、円周率を唱えろ。3.1415926535…)


俺はものすごく甘えて来る涼風に邪険な気持ちを抱かない為に、心を落ち着かせるべきだと判断した。


この甘えて来る涼風の破壊力は凄まじく、今までの寝顔や大喜びしている時の顔とは比べ物にならない程だ。


おそらく、この場に七瀬やその他の男子生徒などが居るのだとすれば人がどんどんと倒れていくのだろうと容易に想像はつく。


というかこの至近距離に居る俺にはとてつもない程のダメージが入っている為一刻も早く離さなければいけないのだ。


「…ほら、涼風。早く起きて」


「んん…まだこうやってくっついて居たいです…」


「はぁ〜…どうしようか…あれを使うか」


俺はソファの隣に置いてあったクーラーボックスの中から氷袋をひとつ取り出して、涼風の首元にピトっと当てた。


「ひぁ!!」


すると俺の想像通り、涼風は急な冷たさに驚いて飛び跳ねて起き、ソファの上で首元を押さえながら座り込んでいる。


「おはよう涼風」


「…おはようございます…えっと…今までのは夢ですか?」


「…いや、全部現実だ」


「…!!」


俺が涼風の架空の事実確認を否定すると、涼風は顔を真っ赤にしてクッションに顔を隠した。


今の反応を見るに、先程までの行動は全て覚えていてそれは夢だと思ったからした行動であるということだ。


という事は先程までの行動が全て涼風の本心の行動だとすると、必然的に俺の事を好きだという捉え方が出来るだろう。


(…まぁ無いだろうな)


俺の中でその仮説は「ただただ俺が涼風にとって安心出来る存在だったから親に対する様に甘えた。なのでそこに恋愛的感情は無い」という結論で即座に掻き消された。


「…ものすごく甘えてしまってとても恥ずかしいです…」


「そんなに恥ずかしがる事は無いだろ。可愛かったしな」


「か、可愛…!…月城さんは当然のようにそういう事を言う!」


「事実を言ったまでだ、本心を隠すのはあまり得意では無いからな。そういえばもう20時だが帰らなくても良いのか?」


俺が涼風にそう言いながら指さすと、涼風は指先の方向にある部屋の壁掛け時計を見た。


時刻の針はしっかり20時の方向を指しており、涼風の普段の帰宅時間である。


「そうですね…いい時間ですし、それではそろそろ帰ります」


涼風はソファから体を起こして一度伸びをし、そのまま玄関の方向へと向かっていったので、俺もその後を追うように玄関に向かった。


「それではお邪魔しました。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


涼風は玄関の扉前でニコッと微笑みそう言うと、体をクルット回転させ自分の家に戻って行った。


俺はその涼風の後ろ姿を見送って扉を閉め、リビングへと向かうと涼風の物と思われる紙袋が椅子の上に置いてあった。


× × ×


ピンポーン


俺の家と全く同じ音のチャイム音が鳴り響く。


俺と涼風の家が全く同じマンションの一室なのだから、備え付けのインターホンのチャイム音が同じなのは当たり前なのだが。


「は〜い」


目の前の少し大きめな扉が開き、そこからはかなりラフな格好の涼風の姿があった。


「月城さん?どうしたのですか?」


「ああ、涼風が俺の家に忘れ物をしてたから届けに来たんだ。ほら、この紙袋涼風のやつだろ?」


そう言って俺は右手に持っていた茶色の紙袋を涼風の目の前に差し出した。


「あ、忘れてました!すいません、わざわざ届けて頂いてありがとうございます」


涼風は俺の手から紙袋を受け取ると、深々と頭を下げた。


この礼儀正しさはさすがは「精霊さま」とでも言うべきか、学園でみんなの頭に思い浮かべる「精霊さま」の礼儀正しいというイメージをそのまま現したような感じだ。


「言っても歩いて1分も掛からないからそんなに申し訳なくしなくてもいいぞ」


(それに涼風のここまでラフな格好を見たのも初めてで、かなりレアな姿を見れたという事で俺にとってはプラスなのかもしれないしな)


俺は心の中でそう思いながら涼風の家を後にするのだった。

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