精霊さまとネックレス
「か、彼氏!?」
店員さんの一言に涼風は驚いた声を出したと同時に頬が真っ赤に染まった。
俺も店員さんの言葉に驚いたが涼風はそれ以上に驚いている様子だ。
「…彼氏って俺の事ですか?」
「はい、もしかして彼氏様では無いのですか?」
「か、彼は私の恋人ではありません!!」
「そんな全力で否定しなくても…」
「あ、あの!これは違くて!え〜っと!」
涼風が店員さんに全力で否定している所を見て、俺は少し悲しい気持ちになったのだが、涼風はそんな俺の様子を見てどうにかしようと言葉を考えているようだ。
ここまで動揺してあたふたしている涼風を見るのも新鮮なので、内心少しいじりたいという感情も入っている。
「ふ、ははは!そんなに慌てても仕方ないだろ」
「まぁ本当の所、俺と涼風は恋仲等じゃないです」
「そうです!」
俺が助け舟を出すように関係を否定すると、涼風も乗っかるように肯定した。
「それでは私がお付け致しますね」
「じゃあ涼風、俺は少し待ってるよ」
「あ…」
「…お客様少しよろしいですか?」
俺が涼風の試着を待とうと、少し離れた椅子に向かおうとした時。俺は店員さんに引き止められた。
「私、少し接客の方がございまして手を離さなければいけないのでお客様がお付け頂いてもよろしいでしょうか?」
「俺が涼風にネックレスを付けるということですか?」
「はい、そういう事です、すみません。それでは!」
「あ、ちょ!」
店員さんはそれだけ言うと、ネックレスを俺に渡してすごい速度でレジの方に戻って行った。
俺がネックレスを手にどうしようと考えていると、涼風はこちらを見つめてきていた。
俺の胸元付近の高さにある涼風の頬は、まだほんのりピンク色をしている。
「あ、あの…月城さん」
「…なんだ?」
「そ、その…月城さんさえ良ければ付けて頂けないでしょうか…」
「!!!」
涼風はそうお願いしながら少し近づいて、上目遣いをしながらうるうるしている目で見つめている。
精霊さまと呼ばれるくらいの美貌を持っている彼女がこんなに至近距離に来たらドキドキしないのは不可能であり、事実俺も例に漏れず心拍数は上昇している。
しかも体格の差から自然に起きてしまう上目遣いでさらに破壊力が増している。
(こんなの断れる訳無いだろ!!)
「…分かったよ。それじゃあ付けるからあっちの方向を向いててくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺が涼風のお願いを了承して手に持っているネックレスのフックを外すと、涼風は嬉しそうな声で感謝を言いながら俺の視線の方向を向いた。
俺は涼風の真っ白で綺麗な首元に手を回し、ピンク色に輝くネックレスを涼風の首に付けた。
「涼風、付いたぞ」
俺がそう言うと涼風は体を45度回転させて、ガラスのケースの上に置いてあった鏡に写る首元のネックレスを見つめた。
自身の首元で鮮やかに光るピンクの石にまるで見惚れているかのようにじっと見つめている。
「凄くいいネックレスだな。似合ってるぞ」
「ありがとうございます。私もこの石は一目惚れというか、何か呼ばれたような気がして」
「涼風、それ買うのか?」
「…正直模造石なので値段も高くないとは言え、安いとも言えない価格なのでどうしようかなと考えています」
涼風は首元から外して、元のケースに戻したネックレスを見つめながら真剣に考えている。
少し困った顔をしているのは、買えなくも無いような値段だが、学生の身としてはいい値段はしているからだろう。
「…それじゃあさ、涼風。これは俺からの誕生日プレゼントって言うことでどうだ?」
「え、そんな月城さんからはもう誕生日プレゼントは頂いていますし」
「これは事前に知っていたプレゼントじゃなくてサプライズプレゼントだ。ただただ俺が涼風に似合うからプレゼントしたいと思っただけだよ。だからここは甘えて貰ってくれると助かる」
「…そうですか…それではお言葉に甘えさせて頂きます」
「決まりだな」
俺は涼風に了承を取り、店の奥にいる店員さんを呼んだ。
× × ×
「そんなに嬉しいのか」
現在の時刻は17時半。俺達は既に帰路に入っていた。
俺の隣を歩いている涼風は、先程俺が誕生日プレゼントとして買ってあげたトルマリンの模造石のネックレスを眺めながらどこか嬉しい顔をしている。
「はい、とても嬉しいです。素敵なネックレスなのもそうなのですが、誰かからプレゼントを貰ったのが久しぶりなので」
涼風のここまで嬉しそうな顔を見れたのだから、少し多めのお金を使っても特に後悔はしないというものだ。
「そうか」
「今回は私が主役なので甘えさせて頂きましたが、今度の月城さんの誕生日は、逆に私が色々させて頂くので覚悟しておいて下さいね」
涼風は夕焼けが反射する首元のネックレスと同じくらいの眩しいほどの笑顔を俺の向けてきた。




