なりゆきで追いかけられてますー前編
8日に大幅に修正しました。
グオオオオオオと低く唸るような咆哮が後方から空気を揺らすように響いてくる。
先ほどからチクチクチクと針で刺すかのような魔力の流れが辺りを探っている、
聴力や嗅覚よりは魔力探知か熱探知辺りでこちらの位置を把握しているようだった。
咆哮には怨嗟すら感じる、気の所為ではないだろう、そりゃ腹も立つだろうが…
(こっちも怒るべきだよな?)
ぼう、と掌の上に火の揺らめく、周囲の魔素を取り込み、瞬く間に火が膨らんだ
地を後ろ足で蹴り斜め側に距離をとってから放つ。
そうイメージをすればその通りに、火球が獲物へと飛んでいく。
リゼルは火の魔法が最も得意としていた。
あらゆる魔力で起こせる現象の中でも火に関しては低燃費なのだ。
ごうっと火球が音を立て狙った前足の側面が炎を受け鱗や肉が吹き飛び白い骨が露わになる。
ゴオオオと火が燃え盛りデカい図体がよろける。
尻尾が辺りの木を薙ぎ倒し何度目かの咆哮を上げている、威嚇と怒気が乗っていて周囲に動物や鳥たちはすでに周辺に気配すらない。
火で焼かれる表面は腐り落ち、そして再生していく、腐敗と再生を繰り返していて
終わりが見えない、キリがないなと顔を顰める。
どうするかと頭を悩ませていたなら、ふっと黒づくめの男が現れた。
思わず帯刀する長剣に手を掛けると、万歳するように男は両手を上げる。
片手に『ギルド北端支部』の文字が描かれたギルドの紋章を掲げていた。
ふわっと周囲に簡易結界が張られた。先ほどまで感じていたちくちく差すような気配がきえ、俺の行方を見失ったようだ、うろうろと周辺を探っている、その気配との距離が開くのを待つ。
「あまり持ちませんがこれで少しゆっくり話せますね、初めましてギルド北端支部の斥候やってる者です。これ飲みながら聞いてくださいね。シアさんは保護済み、お荷物もこちらで預かりました。ギルドとしては申し訳ないんですがイーライさんにこのまま足止めをお願いします、この辺りには高ランクパーティいないんですよね!」
ギルド製の回復薬の瓶を貰い…有難く封を切る、ごくごくと飲んだ。
栄養剤のような味だが体力と気力が回復してるのがわかる。よく効く分後で反動があるので飲みすぎ注意とラベルに書いてある。それを見て、少し気を抜いて、ギルド職員の話に頷く。
「だよな、魔物殆ど出ないしな、この辺…」
「そうなんですよねーいやー平和ですからね、魔物に関しては。ただ大公家の騎士団が動いてますからあそこは対魔物特化の戦闘力有してますからねー数年前に屍竜と対峙した経験がありますし」
「東のやつか、そういえば屍竜か……狂暴で凶悪だったっていう」
セルシウス大公家は代々当主がこの地の精霊に誓約を誓う事で得ている恩恵がある。
【外敵の侵入阻止】という領内を守る結界が恩恵の一つだ。
ただ大公が7年前の屍竜の討伐戦での怪我が原因で恩恵にも影響が出ていた時期があった。
結界が大きく揺らいで暫くは異常気象が続き領民たちも不安になっていたが最近はそれも徐々に安定してきていると皆が喜んでいる噂をちらほら聞こえていた。
それですと頷く斥候の男は何か遠距離で連絡が取れる魔法具所持なのか、ブツブツと1人で喋っている。
「俺は戦闘面ではあんまり役に立てないので、周辺を警戒しつつフォローします。
あともう少し北へ誘導して頂けると騎士団が展開している場所になります。ご武運を!」
結界が解かれる前に屍竜の位置を把握し、結界が解けると同時に斥候が姿を消す。
リリーンと涼やかな音が鳴った、リゼルは北側に向け動くと、途端に屍竜がこちらを捉えて来たのが分かった。
ごうっとブレスのような息を吐いている、木々やらに阻まれ濃い瘴気塗れの毒素から寸前で逃れた。
(あまりこういう目立つ事に関わってよい事ないのはわかってるが、…この高揚感…癖になるんだよな)
自分の中の…なんとも言えない、欲に逆らえない。静かにため息が零れる。
成り行きで始まった追いかけっこはまだ終わりそうになかった。