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突然の出会いは心臓に悪い

リゼルは咄嗟に抱えて逃げた白髪赤目の知人である少女――――シアの案内で狩人が避難用に使うという隠れ穴へと入り込んだ。


瘴気を祓うため、簡易聖水の素材を持っていたリゼルが瘴気払いの魔法を使う。

魔法の系統は様々で住んでいる場所などに大きく左右される。

瘴気払い、という観念は東の国の手法で、この辺りにはないらしい。



『祓え』


二人に纏わりついていた瘴気は火に焼かれたかのように灰となり消えて行く。



「助かった感謝しているぞ」

「それは俺の方もだよ、で、――なんだったんだアレは」


白髪に赤目、白い肌、長い髪を一つに結上げた少女、この森の中で白い服を身に纏っている。

見目からも漂うこの浮世離れ感……シアはリゼルより1つ年下の16歳だ。

狩人としての腕は良く、リゼルとは顔見知りだった。


本来の浄化ならもっと体に負担が掛からないのだが如何せん簡易版のために体への負荷がかかったのか、シアの顔色は白くなっていた。


「ふむ、ある日のことだ私は鶏肉が食べたくなったのだ」

「…………」

「ゆえに鳥を狩る事にした。鶏も良いが丁度目の前には大きな鳥が飛んでおったのだ、しかもちょっと魔物化していてあの肉はうまいだろう思ってな。ほれ、イーライも好きであろう?肉の中では鶏肉が好きと言うてたではないか、アレを捕って森番小屋で調理してもらおうと狙っておったならば、私の獲物を横取りしようとしたのがいたのだ。それがさっきの黒いモヤモヤだ。爬虫類っぽい初めて見る個体でちょいと腐っていたがアレは食えるのだろうか」


「まて、凄い突っ込みどころがあるから」


体は怠そうだがその精神は損なわれていないようだった。

シアの言葉を反芻していれば気楽な調子で水を求めてくる。


「冷たい水が飲みたいのぉ」

「……どうぞ」

「すまんの、ぐび、――――うううおおおお」


ごろんごろんとシアがのたうち回り、汗を拭き出し、うぐぐぐと唸りったのち程無くして回復する。

簡易聖水で身体の奥から瘴気が払われているはずだ、そうしないと溜まって後々もっと面倒になる。


「………なんという騙し討ち」

「言ったら飲まないだろう、体ん中からも払っとくのが効果的なんだよ」

「水に火の魔法を込めたのに冷たいとは摩訶不思議だな!」

「気になるのそこかよっ」


げほげほと咳払いしてから、両ひざを抱え冷たい岩の壁にシアは身を預けた。

ウトウトとし出した様子に森番小屋で貰った甘味の包みを開けてシアの口元へと持っていく、何の迷いもなくばくりと食らいついてもぐもぐと咀嚼している。


「………礼は何がいい?」

「肉だな」

「いいだろう、肉なら……まか、せろ」


スッと大人しくなったシアは回復のための眠りに入る、途端に空洞の内部が冷ややかに凍える程冷たくなった。

ここに居れば自分が凍える事になる、リゼルは隠し穴を離れる。


「さて、あーなったら回復するまで起きないだろうし、どうするか」


薬草採取のための鞄をここに置いて行く。

シアが目覚めるか、誰かが来れば回収してくれるだろう。

冒険者が緊急事態に遭遇した時、合図をする方法は幾つかある。


懐から持ち歩いているが使い方をレクチャ―されて以来初めての小さな玉を取り出す。

それを掌の上に乗せ掲げる、その玉を温めるようイメージする。

掌の上の空気が温度を上げ火が起こると玉が弾け ひゅ―――っと独特の音を鳴らせて空へと上がった。


花火のように空に赤い煙が漂う、暫く漂い自然と消える仕組みだ。

これでギルド始め森番小屋などが動くだろう。




>>>>>



「………爬虫類か良くてオオトカゲ、いやもっとデカかったよな。少し大回りして行くか…」


瘴気を受けて変容しているならば元の形が崩れている場合もある。

水生生物という可能性もなくはない。

腐っているとはそのまま腐敗しているのだろう。

生きたまま腐敗しているのか死んだから腐敗しているのか。

これは大きな違いがある。


(死んで腐敗しながら動いているなら厄介だな)


大物だったなと思い出して、ふと気づく。

アレだけ近づかれて気づかなかった理由は……。

動物の気配がしない、不自然なほどに静かだ。空に羽ばたく鳥も、遠くでのさえずりも木々のざわつきも。



「魔法が使えるにしても高度すぎるだろうっ」


自身を中心に熱いほどの熱風が周囲を旋回するように一回りさせ、けん制すれば

ぶわっと瘴気が前方を覆っていたその中からグルルルっと唸る声が聞こえて来た。


(待ち伏せしてたか、……何を追って来た?匂いか音か)


咄嗟に横合いに飛び、身を屈めて木々の根を超えて距離を取る。木の根から様子を伺う。



靄が散り、隠れていた姿を徐々に表してくる、今までいた場所に長い首らしきものが寄っていた。

ぼと、ぼとと肉や脂肪が塊で落ちている。

瘴気の濃度が高くそれが靄になり気配と、この臭いを隠している。

漂う死臭―――……瘴気に塗れた周囲の草木が急速に枯れ始めていた。

一対の翼も片方は骨が折れ、被膜も敗れて爛れていた。

鋭い牙と爪を持ち、長い尻尾は一振りすれば大木も安易に折られてしまいそうだ。


竜、ドラゴンと呼ばれる存在。

ただの竜でも厄介だが、アレはもっと厄介なのがわかる。


生きとし生けるものを狙うドラゴンゾンビ。正式には屍竜とも呼称される。

大災害級の討伐対象個体だ。


(何故、こんなところに………。この周辺地域にいると聞いたことがない)


すっと腰のナイフホルダーから投擲ナイフを一本引き抜く。

刀身に魔力を流した、赤く熱を含ませ、難なく地面に突き刺した。

生気は熱に似ている、熱とバチバチと高熱が弾ける音に誘われるはずだ。

リゼルはだっと音を立てるのも気にせずそのまま駆け出す、しばしして後方で突き刺したナイフがあった場所が爆発した。

途端に死んで腐っているのに痛覚があるかのような怒りに満ちた咆哮が響き渡った



瘴気がぶわりと膨れ上がりあたりへと散らばっていく。

隠れるのを止めたか怒りで維持ができないのか、周囲の木々の音が川のせせらぎが耳に戻ってきた。

知らずに詰めていた息が戻る、外套には様々な防御系の効果が宿っている。

高い金を出すことになったがお陰でこの濃い瘴気にさらされてもまだ十分に動けた。


自己回復する事は知識でしっていた。ぐうぐおおと呻くような、腐った声帯ではなく魔力で威嚇しているようだった。

怒りに震えているのだろう、先ほどの大鷲も本来なら生きたまま生気と肉を食らうつもりだったのだろう。だがシアが止めを刺した。



冷や汗が止まらず、身を潜め、荒い息をつく。


「どう考えてもお前…ここに居ちゃいけない子だろう」


どっから来たんだよ、という問いに答えてくれる存在はここには居なかった。

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