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いつもの朝はいつまでも続かない?

秋の季節が終わり、収穫祭も終えてもう暦では冬へと入るころ。


この年リゼルは17歳になっていた。

7年前に母が捕まえた大貴族の領地へ長い船旅と馬車により辿り着いた地は大変寒い地だった。


春や夏はまだいいが、やはり冬は厳しい、とはいえこの領土はセルシウス大公家に寄る恩恵を受けていて、他の領地よりは過ごしやすいと言われている。とはいえ寒いのは寒い。

生まれた国よりも…そして前世の記憶にある国よりもずっと日照時間が少ないこの地方では冬になると途端に朝日が昇る時間が遅くなる。

その為現在の時刻は6時前、まだ真っ暗だった。

ただ夜が更ければ寝ているので8時間がぐっすり寝れていた。



「んー……、ダメだ二度寝したら絶対起きれない…っ」


魔石を使った照明をつけると部屋全体が明るくしさくっと起き上がる。深い青に星々の絵が描かれた子供向けのファンシーなカーテンを開けたが外は薄暗い。


代々の大公の居城とされる【冬の精霊宮】は古の遺跡を元に修繕改築を繰り返していて少々複雑な造りになっている、本館と呼ばれるメインとなる建物の周辺に大小様々な館や塔が建てられていた。

ここは東に位置する【東陽宮】という名が付けられた客人が一時滞在などに使用する居住用のものだ、本館とも近く母と共にこの地に来た時からここで寝泊りしている。


窓からは風よけの大木や、枯れ葉を付けた木々が見えるのみだが空を見通せて、何処か別荘地のような趣は気に入っていた。まあ、何処を見ても別荘地のような光景なのだが……



バシャバシャと冷たい水で顔を洗い、タオルで拭う。

トイレも全て設置されていてしかも水洗だ……魔道具なのだが魔石と呼ばれる持ち運び可能なエネルギーを主につかっている。


寝巻として使っているシャツとズボンから外用のシャツに黒のズボン、靴下を履く。

軽装だが布地は厚く保温効果があり肌寒くなる季節に丁度いい。

当然出るときには外套を羽織る。


12歳ごろまでに仕立てられた服はもう着れなくなっていた。


17歳になり改めて自身の身長をみれば、十分長身だろう。

体躯は全体的に健康的で、日々の生活に伴い否応なく運動量が多い為に引き締まり筋力もある。


少し伸びてきた淡い赤髪を手櫛とオイルで整えた、

目は薄茶で顔立ちは母によく似ているから見目はいい、少々目つきが悪いが。

全体のバランスもいいだろう、―――よしよしと内心満足していた。

こういう時は母に感謝する、そして見た事も聞いた事もない父にも感謝しておく。


装飾品や持ち物はいつも同じだった。

細身の剣、投げナイフ数本、大ぶりのナイフをホルダーやベルトに装備していく、

幾つか魔法石と呼ばれる魔法の補助や独自効果のある道具や腰バッグ。

最期に軽い防寒フード付き外套を着こんで前日に準備しておいた採取用の鞄を肩にかけた。


「よし、これでいいか。」


一つだけ小ぶりの買い置きしておいた林檎をかじり終えて、

街の市場で軽食を買い森に向かう事にする。

行ってきます。と窓際の隅っこのソファの上に追いやられているカボチャのぬいぐるみに挨拶する。何となくこういうルーティンは大切な気がしていた。


両開きの窓を開けば、とたん冷たい風が室内に入り込んで、肌をなでる風は随分と冷たい。


靴を窓際で履き、バルコニーに出れば窓はしっかりと閉じておく。

柵を飛び超え、二階だが一階の天井が高いのでそれなりの高さがあるが、身体強化魔法と衝撃吸収と落下速度の調整の魔法陣を駆使しているため、難なく地に足がついた。


風を孕んだ外套が軽やかに靡き、トンと靴底が石畳を叩く、さてと改めて歩き出そうとして、



「すごいね、窓が出入り口なのかな?」


突然かけられた声にびっくと肩を揺らして振り返った。

まだ薄暗い中で二人立っていた。

一人は騎士だ、騎士団専用のコート着ている、隣の女性は使用人用の防寒コートを着ていた。


敷地内には所々に外灯がまだ灯っている、まだ朝があける気配はなかった。


(この声、聞き覚えがある?)


ゆっくりとした歩調で2人が近づいて、お互いの顔は十分に分かる距離を取って立ち止まった。


「階段を降りるのが面倒なんだ、どうせ誰も見てない。…いつもならだけど」

「随分とお行儀が悪いね、だが…大したものだ」

「………」


気安く話してくる騎士になんとなく腹立たしさが沸いてきた、関心したように自分が飛び降りたバルコニーを見上げている。

ちょっとした遊びを見られたような心境もあり居た堪れない、傍らの女性も少し困り顔で騎士を横目に見ている。


「ずいぶんと久しぶり過ぎて、名も顔も忘れてしまいました。どちら様で?」

「とってもトゲトゲしさを感じるが、君覚えてるよね。それ」

「…………」


気を悪くするどころか楽しそうに笑う。連れの女性は静かに口を閉じ成り行きをみているようだ。

そして騎士が人好きのする笑みを向けてくる、記憶より年を重ねているが変わってないと感じた。


騎士はリゼルの前に一歩踏み出し心臓の上を抑えるように片手を胸にあて、頭を垂れる。


「改めてご挨拶申し上げます、私はセルシウス大公配下第一騎士団所属のアルファルド・レイン=リクスティン。どうぞアルファルドとお呼びください」


一礼から顔を上げ微笑みかけてくる顔はとても懐かしかしい。

嫌味なくらいに丁寧な物言いをしてきた。

当時まだ平民同然の子供のリゼルにも丁寧にそして親しみを込めて対応してくれた若き騎士。


約6年ぶりの再会だった。

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