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薔薇園炎上ー6年と少し前

「悪女な母は容赦がない」からタイトル変更しました。

若干の内容も書き換えてますが内容はほぼ同じです。

薔薇園が燃えていた。


美しく咲き誇っていた白い薔薇たちがまるで焚火にくべられた薪のように燃え盛っている。

突然の爆炎に周囲の者たちの対応は後手に回っていた、そもそも私的なお茶会で騎士が控える事もなく給仕の侍女数名が側にいただけだったのだ。


まだ幼いこの邸宅の大公女と呼ばれる姫君は成すすべなく、膝を付き震えている。その姫君のお付き侍女の1人が炎に包まれてのたうちまわるのを目もくれず、


激しく燃え盛る炎を背にし、彼女は優艶の笑みを浮かべていた。


血のような赤い長い髪が業火に煽られ靡く。

新緑の鮮やかな目は炎を背にすることで出来た陰でいつもよりずっと昏い色を湛えている。

彼女の指を刺し貫いて血を流させた棘は、その白薔薇ごとすでに灰となっていた。


「リゼル、―――薔薇は好きだけど私は棘が嫌いなの」


自分によく似た面差しを持つ息子を彼女はそれなりに気に入っているようだった。

周囲が思うそれとは…違っていたが。

火の粉が舞い上がる中、母親を真っ直ぐ見上げてくる。

色素のうすい赤髪に茶色の目を持つ息子が数度瞬いてからか細い声で返事をした。

「はい」

その様にフッと笑みを深め母親の顔を向けて、その肩に触れる。

「いい子ね、私の可愛い子…さあ、部屋に戻りなさい」

と優しく告げて、駆け付けた騎士らの方へとその背を押した。



そして――…傍らに尻もちをつく女を見下ろした。

悲鳴すら上げられずに、あ、ああと言葉にならない声を発している事の発端を画策した侍女長へとむけ、「まぁ、大変」


火達磨になっていた大公女付きの侍女であり、侍女長の姪が救助される姿をただ見つめているその背へ


「次は紅い薔薇を植えてはどう?白ばかりは味気ないもの」


まるで侍女長を労わるかのようにフレイヤはその背中側から肩に両手を掛ける。


―――なんて忠義者なのかしら、姫様の代わりに炎に撒かれてしまうなんて…


ごうっと燃え盛る炎の音と侍女のすすり泣く声や周囲の怒声にまぎれて、声は誰にも聞こえはしなかった。






大公ユウリスには、皆に愛される妻が居たが2年前に急死していた。


当時9歳と6歳の子供二人を残しての早すぎる死に皆が悼んでいた…

そこにどこの誰ともしれない女が現れ、正妻に収まった如くの振る舞いで居座る女へと吹き荒れた反抗心はこの地を覆う吹雪よりも荒く冷たく激しかった。


それが大公ユウリスにとっては避けて通れなかった選択であったのだが…


亡き大公夫人への思慕と忠誠を忘れていなかった使用人たちは、ただ客人として招かれている女に対しての不満を主君に零すわけにも行かず、その鬱憤が陰湿な対応としてあらわれた。


苛めにも似た行為は母に似ている10歳ほどの連れ子にも及んでいた。

そうして繰り広げられた陰湿な争いが続けられて半年ほどたった時にそれは起こった。


表向きは職務に邁進し、うちには激しい憎悪を燻ぶらせていた侍女長は何かにつけてフレイヤと対立していた。

そんなある日、亡き大公夫人が愛した薔薇園での小さな茶会が、身内だけで催されることになった。

この日は大公と大公子は暫し留守となっていた、主催は大公女だった。


侍女長は薔薇を棘をそのままにするよう指示し、茶会の席で飾り付けていた。

そうして、とうとうフレイヤの指にぷつりと棘が刺さったのだ、たかが棘、されど棘。

少し痛みを与えるだけのつもりだったのだろう。


「まあ、大変」なんて心にもない侍女長の声は――――

フレイヤの静かな怒りの眼差しと膨れ上がった魔力により掻き消えた。



この時から、フレイヤという女性は使用人たちの憎悪の対象であると同時に恐怖の存在となった。

炎に撒かれた侍女も一命を取り留めていたが酷い有様だったという。

重大な事件ではあるが、侍女長が主導で行われていたと思しきフレイヤへの対応も十分に問題視され、その証拠は悉くフレイヤに握られていた。


その後まもなくフレイヤは子爵夫人を称することを許され名実共に妾の地位を得た。

そして王都へ上るとそのまま領地には戻ってくることはなかった。


たった一人、息子を残したまま。



薔薇園もまたその時以来、手を入れられることもなく、そのままの姿を残している――。

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