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潜んでいたものを引き摺り出せ

「瘴気―――?」


理解しがたい状況に愕然とするも体内から魔力が溢れ同時に炎の気配が強まる。


下手したら部屋を吹き飛ばす、咄嗟に感じた危機感に瓶をとった。

高位神職者である孤児院院長お手製の高品質聖水の封をあけ辺りへと中身を撒く。


魔は滅ぶべし、という彼女の信念の祈りを捧げられた聖水。


『清め、祓え』


ぼわっと炎が聖水が反応している黒い靄を包み――――灰へと変えた。

だが内から溢れ出る熱が、喉の奥が焼けるようで、けほっと煙と小さな灰を吐き出し言い知れぬ恐怖が身を包む。


(だめ、だ――このままではっ)


もう一瓶聖水を手に取り寝台を降りた、ガラスが割れている窓を開ければ途端に冷たい空気が室内へ入り込む。

足元にいつも持ち歩く長剣が転がっていた、それを咄嗟に掴み窓の外へと出る。


「…はあ、は、――隠れるのが、上手すぎるだろっ」


薄着のまま窓からバルコニーへと出て、地上に飛び降りる。


「…っ、いてぇ…―――」


裸足のまま、重い体を足を引きずり歩く――このままでは建物を燃やしてしまいそうだ。

本来なら寒くて震えそうなはずなのに、うちからの魔法が溢れて、生きたまま火をつけられたように熱く歩くたびに、炎が湧き出ていた。


背にした東陽宮に明かりが灯りそして騒がしい、しかしそちらへ気を向ける暇はなかった。

建物がなく燃えにくい場所、林を抜けた先にある水をたたえる遺跡へと向かう。


そこには浅いプールのように水が溢れる遺跡がある。

夏は冷たく、冬でも凍らない―――木々の中にポツリと遺跡はこの邸宅の敷地内で様々ある中の一つだ。

その用途は分からないがリゼルは普段から気に入っている場所だった。

石造りの遺跡は柱が何本か周り建てられ、四方から水が流れる石碑がある。

2段程の巾の広い階段があり、水の中へと入ることが出来る。


足首ほどまでつかる水の中へ入ればじゅわっと水が蒸発し白い水蒸気が上がる。


水面を撫でるように炎が舞った。



「……は、ははっ…いい気になるなよ、くそ竜がっ」


手にした小瓶の封を歯であける、中身を飲み干す――…体内で聖水の浄化の力が溢れてくる。


『祓い清め…、――焼き尽くせ』


ぶわっと炎がリゼルを中心に巻き起こる。

炎の中に混じり潜んでいた黒い淀みが炎に呑まれ焼き払われていく

――瘴気が灰となり周囲に散りそしてきえていくなか、大きな淀みが逃れるように蠢いている。



己を中心に円を描くように火の粉を散らす魔法の炎が渦を巻いている。

その中から 隠れていたものが徐々に形作られていく、一対の翼――長い首…真っ黒

サイズは随分と小さく、そして肉片のひとかけらも持っていない。


まるで黒炎で形づくられたように揺らめく、竜――。



浄化し切れず祓え切れず―――黒い塊が炎に呑まれることを厭いながら一回りほど大きくなっていく。

同時に自分の身体の中の炎も煽られるよう強まっていた。

身体が傾ぐ支えのよう長剣を使うが、踏ん張れない。

浅い水の中に膝をつく、辛うじて倒れるのは耐えた。



「っつ――…熱いし、…くそ、…」


じゅわと熱が高まり、遺跡の水が一層濃い白い蒸気を発している。

生きたまま燃やされているようだ―――。


不意に音もなく外から放たれたのだろう魔力を帯びた一本の矢が竜の形をとる黒炎の塊を捉えた。

バリバリバリと矢を中心に急激な氷が生成されていく。



(これは―――、ユウリス大公……?)



「おい、生きてるか」


炎の魔法が渦巻く中に、真っ黒な男が立っていた。

水に濡れた足元から視線を上げる、――恐らく正気か、と問うているのだろう。



「そ、 じゅ…っ、?――熱ぃ」


「―――…あの時の屍竜か、仕留め損ねていたな」



氷と炎が拮抗しているのか、凍らせながらも竜の形をした黒炎が蠢き対抗している。

グオォオオと声帯すら無いはずなのに竜の咆哮が辺りへ響いている


ふと――少し息が楽に出来ている事に気付いた。


(……?)


「大公特製のお守り付きだ」


炎がソージュの髪先やその体に巻き込もうとするも、怯んでいるように見える。

氷の魔法の保護が掛かっている魔道具でも渡されているのか。


だが、火の粉が舞い間近に炎が踊っている中に佇んでいるのだ、熱くないわけがない、事実、若干息が荒く顔を時折ゆがめている。

自身の魔法の熱で苦しめられているリゼルの為にこの炎の中に立っているのだろう。

魔法と瘴気が入り混じったかのようなあの存在を斬れる剣など―――そうそう存在しない。


其れこそ、神代の神具と呼ばれるモノだ。



「けんを、―――」

「なに…?」


「俺の、――剣を……取れ」


怪訝な顔をしたが、少しの間をおいてソージュは身を屈めてリゼルの手にある剣の柄に触れる。

そしてリゼルが手を放し、ソージュに剣が渡った。



ピッ


《――アーティファクト[名もなき剣] 所持者より緊急譲渡が申告されました


脳内に音声が流れる


《――魔力検知、問題ありません。


《――称号所持者です『 -- 』確認。


《――適合者です。


《――魔力吸収を開始、適合者に相応しい形状へ変化します。


《――簡易形状変化を選択、3.2.1――終了しました。



ソージュの手に渡った何の飾り気もない長剣が形状を瞬く間に変えている。

本人の魔力と周囲の魔素にリゼルの炎も吸収している、――刀身がのび少し湾曲していた。

真っ黒な拵えに、金赤の飾り糸が彩っている。


この世界ではあまり見かけない――……日本刀にとても似ている。


リゼルでは引き出せなかった姿だ。

驚いていたソージュが即座に動いた、剣を手に白い蒸気と炎の中を飛び出す。



その背を見詰め、リゼルは膝をついた、バシャと絶えず蒸発しながらも流れる水の中に手を付く。

このまま自分自身が燃えてしまいそうだ―――。



「しばし眠っていなさい」


リゼルの頭上に誰かが触れた、そうすると内から溢れていた熱が急激に落ち、そして寒いほど冷え込む。

誰なのか確かめるすべなく意識を落とした。

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