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隠れているもの

『 捨てた子をまた拾ってきたそうだ 』


物心つく頃にはそんな言葉は日常の中に何時も潜んでいた。


「噂で子が居るらしいと聞いて見に行ったらしいぞ、母親は忘れてたんじゃないかって話だ」

「母親に拒絶されて随分泣いていたらしい、かわいそうにね」

「同情した男爵がそれで引き取ったって話だ、運がいい、あそこは金が有り余ってるからな」

「父親の事もまったく話さないなんて、よっぽど酷い男だったんだろう」


ひそひそと囁く声は大人たちが隠そうとしても隠せるものではなかった。


――可愛そうな子、母親に見向きもされないなんて

――養父が随分可愛がっているらしい、母親に似てその手の運もいいのかもな

――どうせ、また手に余って捨てるんじゃないのか



悪意と、同情そして真実と憶測が入り混じっていた。



(傷ついてないとは言わないが……)


6年、やはり彼女の興味は一切息子にないのだろうと実証された気持ちでもいた。



『 また捨てられるぞ? 』


そういった男が去ったあと、メリエが酷く心配気に此方を見ていた。

自分は随分と動揺していたらしい。

メリエが手にしていた箱を差し出してくる。


「おめでとうございます、…次の春には私どももお祝いさせてください」

「…ありがとう」


受け取った箱は美しくラッピングされていた。

パレイア子爵家の封もされ、工房の印章もある。

さすがに開けられている形跡はない。


受け取った箱とカードを手にして。



何て虚しい贈りものなのだろうか―――――――。



(どうせなら、捨ててくれた方がいいのに…)


何故こうやって時折揺さぶってくるのだろう。







身体が重い、そして…熱い。

真っ暗闇の中は心もとなさを感じた。


何かが蠢いている、恐怖、嫌悪、羨望、嫉妬、……憎悪――そして思慕



―――忘れてはなりません。


孤児院の院長の声だ。

自分が産まれた産院と乳児院が併設されているあの国で一番大きな施設、

2歳で養父に引き取られた後もなにくれとなく顔を出していた。

成長してからも何かと世話になっていた人だった。


―――あなたは強くあろうとするでしょう、しかし強さとは傷つかない事ではありません。

―――自身の弱さに直面した時こそ慎重に事を進めるのです。

―――魔、とはそういう隙を狙うもの。

―――違和感を見逃してはなりません。



―――慎重に、己のうちを探りなさい。



―――そして見つけたならば容赦する必要はないでしょう



『 滅ぼしておしまいなさい、魔とは人を滅ぼそうとする存在そのもの、ならば我らもまた、そうあるべきでしょう 』


過激派で知られる院長の言葉を久しぶりに思い出していた。


これは夢だ。――深淵の闇が広がる。

真っ暗な闇の中から小さな、うなり声が聞こえた。



バチっと目が覚めた。

夜明けまでまだ暫く時間がある時刻、寝台の上で眠っていたリゼルは息苦しさを覚えた。

汗が滲んで、酷く熱い。


仄かな間接照明のみが照らす室内――――。


(熱くて……体が重い?)


カタンと音をたて枕元に木箱が転がっていた。

それは昨日、ギルドのトランクから引き出した『 聖水 』

魔は滅ぶべし、という信念の祈りを捧げられた聖水。



「―――………、隠れるのが、上手い」


声が震える、その片鱗が僅かに漏れている。

部屋全体に何故か自分の魔力によって熱が渦巻いている、そしてその中に薄く瘴気の気配が漂っていた。


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