大公子の願い
「呪いを解く」
この7年間、大公家が血眼になり探している事だった。
セルシウス大公家の第一子であるディートリヒは青みがかった銀髪と水色を瞳を持ち、次期当主としての期待は生まれた時からその肩に掛かっていた。
母を8歳で亡くしながらも6歳になる妹を気遣い、気丈に振舞ってもいた。
父は早くに母を亡くした子たちに思う事があったのだろう、その頃か子供たちを気に掛けるようになった。ディートリヒにとって母を喪った悲しみは変わらないが…父の事を更に尊敬しそして敬愛していた。
そんな中で父が11歳の時に災害級の魔物と言われる屍竜の討伐へ出たのだ。
数か月後、重傷を負い、遠征に従った騎士を含む数名の犠牲が出たとの知らせに、留守を守っていた者達は激しく動揺していた。
確かに…類を見ない魔物だとは聞いていたが―――。
予定よりも1カ月も遅くに父が帰領したときの喜びは忘れられない。
しかし久しぶりに見えた父は酷くやつれていた。
魔力が常時零れているようで、寒さに慣れているはずの家の者たちすら寒さに震えるほどだ。
今までもべったりと引っ付く事はなかったが更に距離が出来、そのことにディートリヒ自身も知らずに酷くショックを受けていた。
しかしその隣に父が連れ帰った女性がいるとその寒さが収まり父も体調がよいという。
(あの女性が…何故父を温めることが出来るのだろう…?)
様々な視点で検証され「火の加護を受けているのでは?」というものだった。
正直それしかわからないのには落胆した。
フレイヤ夫人が父の側へ侍るようになり。
それに使用人たちが反発しているという、その裏に祖母が居るのは分かっていた。
元から選民意識が強く、父との確執は深い、今は次期当主である私に狙いを定めている。
(面倒だな…)
そう思っていたころにあらわれた女性、そしてその連れ子…。
(リゼルは面白いな、私に初対面であんなことをいう者は今までいなかった)
大公子という敬称を持つディートリヒへ気さくに話しかける者などいない。
1歳年下のリゼル・イル・ロズウェルド、東の大陸の出身で異国人。
あの地方は貴族の力が強いと聞く、王は貴族たちの選挙で選ばれる国だ。
国民性だろうか、とディートリヒは不敬と怒るよりは面白いとリゼルを見るようになっていた。
「たかだが男爵家の養子だったとか、なのに馴れ馴れしく育ちがしれますな」
などと行ってくる馬鹿な奴らがいたが
「ここでは父の客人だ、客人の生まれ育ちを罵るとは…父上へは直接に私が貴殿の考えを伝えておこう」
と慌てさせていたが…とうとう祖母が口を出し
それが本人へと知れると途端にリゼルの態度と口調がかしこまった。
酷く残念には思ったが……。
広い邸宅内と言えど、父に侍る夫人とその連れ子だ、当然よく遭遇する。
しかもリゼルは一人で歩いている事もあり、不思議に思っていると付き従っている側仕えという名の監視をあっさりと撒いているらしい。
護衛騎士がそれを伝えてきた。
「執事長などは頭を抱えているとか」
「…撒けるものなのか?」
「大公子様は真似しないでください」
加えてディートリヒへの態度もお付きがいるとかしこまり、それらを遠くにおいて一人で近づくと口調や態度が崩れるのだ、こうして三人は大人たちの思惑などそっちのけで其れなりの親しい関係性を作り上げていた。
そんな中、幼い恋をリゼルに向けている妹のソフィーリアがお付きの者たちを撒くようになったと聞いて腹を抱えて笑ってしまった。
「侍女長に至っては卒倒しそうになっておられます、姫様をお叱りになっても最近は言い返されているようです」
「今までが異常だ、まるで何も出来ぬ人形のような扱いだったからな…」
そう言って侍女長側の者たちとは一線を引いていた家内の者たちはそれなりに歓迎していたのだ。だが、無情にも引き離される事になった。
まさか6年も離れる事になるなど、この時は全く思いもしなった。
再会したらどのように話しかけようか、そう何度も何度も頭の中で考えてもいた。
「屍竜が出た、PTでお呼びがかかってる。優先的に転移の権利もある、ディーはどうする?」
この時、領地へ戻る旅路に北部の魔物やダンジョンや遺跡を回りたいというソージュたちのPTが同行していた。
ユウリス大公と同時にソージュへ話が来るほど高ランクPTのリーダーをしている。
「何度か一緒に組んでるんだ、連携は出来るだろう。あいつらも異論はねぇってよ」
表情は変わらないどこかぶっきらぼうな口調で無理強いはしないなんて言ってるが。
漆黒の髪に深い青の目はじっとこちらを見てくる。
彼は私の願いを知っている―――、いい機会だ直接見てみようぜ、と
「もちろん同行する」
「――…、助かる。屍竜は初だ――魔力は相当厄介だって話だ」
「私もだ………、初めて見る」
屍竜―――父を死の淵に追いやり、いまだにその苦しみを与え続けている。
同じ個体ではないが、知識としてではなく実際に目で見る事になる。
護衛騎士がその会話を聞いてすぐに支度を始めていた。
ディートリヒは側付きに伝言を残し、護衛騎士を引き連れソージュのPTと共に懐かしい故郷の森へと飛んだのだ。
騎士団とも合流し討伐を終え―――。
その後も暫くソージュのPTと共に行動を共にし領内の幾つか見て回っていた。
流石に一度顔を出せ、との父からの再三の呼び出しに答えるべくPTメンバーである聖女と聖騎士の二人を教会へと送り届けて、帰る前に武器が見たいというソージュに付き合い、久し振りの故郷の街を回った帰りに
バッタリと出くわしたのだ。
実際にはソージュなのだが、アイツは元からこの手の偶然をよく引き当てていた。
不意の出会いであちらも驚いたのだろう、変な事を口走っていた。
内心笑いがこみ上げるが表向きは平静を装っていた。
ソージュにはバレていたが………やはり面白い……。
呪いを解く鍵すら見つけられずに凍えていた心が仄かに暖かくなった再会だった。




