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バッタリにもほどがある

屍竜に追われ間一髪で助けに入った剣士が―――目の前に立っていた。


「よぉ、偶然だな」


漆黒の髪に深い青色の目をしている、腰に剣を差し冒険者用のコートを着ている全身が真っ黒と言っていい装いだ。


「知り合いか、何時の間に?」

「まあな」


連れなのだろう茶色の髪の同じくらいの背丈の青年が一緒にいた。

こちらとも目が一瞬あったが、すぐに視線を下げた。


フードを引き下ろすように端を掴む。

ごくっと唾をのみこみ、声を掛けられたのだ返事をしないわけにはいかない。

知らないふりをするのも気が咎めた、小さい声でぼそぼそと答えた。


「その節はどうもお世話になりまして、…」

「……? 別に世話はしてないが」


こちらの態度を不審に思っている気配が伝わってくる、今は顔を上げられない。

良しここは素通りしよう…!と決めたリゼルは「なら、ちょっと急いでるので」と男の傍らを通り抜けようとしたなら、茶色の髪の連れの男に阻まれた。


「ぐふぉ」

「…変な声がもれてんぞ?」


更なる不信感を募らせた真っ黒な男に突っ込まれた、阻んだ茶髪の男がじっくりと此方を見ている気配が伝わる。


「………ちょっと待ってくれないか。…君は…?」


この時、リゼルは動転していた。

真っ直ぐに水色の目がこちらを見詰めている、感情が見えない辺りは良く似ていた。

髪を染めているのだろう、本来の色では目立ちすぎるから。


「な、…何でしょうか、俺にはさっぱり記憶がないので覚えていないです」

「記憶が…?それは大変だ。―――昔の話をすれば思い出してもらえるかな」

「……ここは昔なじみのよしみで見逃してほしい」

「見逃す、の意味が分からないな。…この場合は私のがそちらの立場だろう、6年も気付いてやれず私はのうのうと学園を満喫していた。謝罪したいと思っているんだ心から」


何だろうか微妙に腹が立つ言い回しをされていた、だが声は真摯に響いてくる。


「性格悪くなったのでは? 謝罪はもう十分に貰っているのでお腹いっぱいです」

「ディーと呼んでいいと言ったろう。…どうせ下らないことをダラダラ考えているな?」

「身の程を弁えているので、俺は。……おぉ、どれの事だろう…」

「………やはりおばあ様にあの処遇は生温いのではと父に進言するべきだろうか。………。」

「ディー、遊んでないでオレに説明しろ」



怪訝な表情を隠さずに、リゼルとそしてユウリス大公の嫡男にて跡取りのディートリヒへ向けて真っ黒男が冷たく言い放った。




「一瞬見間違いかと思ったのに」

「それは私もだ、だがその鍵大公家邸宅の魔法錠を開くためのものだ。持てる者は限られる、デザインが違うが私も持っている」

「……!?」

「古の遺産の一つでもある、渡す許可が出せるのは父上だけだ。…大丈夫さ制限はされているよ」


手首に撒いた革製のバングルには一見飾りに見える青色の細い棒が門の鍵だと渡されたものだった。




二人は帰りの馬車を待っている間この辺りを散策していたという。

予定を終えていたリゼルはそのまま馬車で一緒に邸宅へと帰る事になった。

この時に漆黒の男の名前が「ソージュ」だというのを知った。


(ソージュ、そうじゅ、双樹か?……日本人みたい名は稀にあるけど)


夕暮れ時もあってか酷く懐かしさを彷彿とさせた。


向かい側の席で足を組み座るディートリヒとそしてリゼルとソージュが隣同士で座る。

馬車は外観は地味に装われているが十分に広い。

振動もほとんどなく、快適だ。隣のソージュは半分寝ているのを思わずリゼルは冷ややかに見てしまう。


「リゼル、記憶はそろそろ戻ってきたか?」

「しっかりと戻ってますよ…」


大公子とソージュは同じ年で王立学園の3年生だという。

ソージュは高等部から入学したとか、そこでディートリヒと仲良くなったという。

屍竜が発見された時に大公一行と一緒にこの領内に居たので最も早く駆け付けたのだという。



「リゼルが冒険者なのは知っていたが、そうか屍竜の時にいたのだな、それを父上はご存じなのか?」


ディートリヒの言葉にうっと一瞬呻いた。

流石に隠し切れずに吐いてしまったのだ…。


「さ、…さあ俺からは言えないし必要もないかなと」


終わった事だったからだ、別に他意はないのだが隣のソージュもそして目の前のディートリヒも目線が険しくなった。


「…お前、マジで言ってんのか?」

「そうか。よくわかった。リゼルの気持ちは」

「勝手な憶測はやめろ!? ああ、安易に頷いたばっかりに…こんな事に」


「父上が気づいていないとも思えないが一応確認しておく、何時までも知ってるのに知らないふりはできまい」

「当事者同士なんだ、構わないだろう」

「うう、……まあ、そうだな」


ユウリス大公と会った時に、もうない傷跡を正確に触れた事を思い出した。

暫く馬車が進み邸宅に到着した正門が開き中へと入る。

リゼルがこの邸宅に入ったときは親子の事は伏せられたため裏門から入ったのを思い出す。


「そういえば、大公子様は今までどこに?討伐戦の時に森にいたんですよね」

「あの屍竜の事を調べていたんだ、それと……」


ソージュがちらっと軽く伺う目線をディートリヒ大公に向けたが何も言わずに黙っている。

大公子も何気ない事のように告げた。


「父上の呪いを解く方法を探している」

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