久し振りの街を行く
昼時は過ぎたがフーディの街の食堂や屋台はまだ賑わっていた。
ガヤガヤと騒がしい行きつけの食堂へリゼルは数日ぶりにやって来た。
「あれ、久しぶり! 今日の日替わりは大鯉の蒸し焼きかブラックボアの煮込みよ、どちらも具たっぷりのスープとパン付き。どっちにする?」
壁際のテーブルへと案内される、顔見知りである彼女はこの店の看板娘だ。
忙しい中でも笑顔で接客し、料理もおいしい事からこの辺りでは繁盛店でもある。
「んー…、蒸し焼きで。あと冷たい炭酸水も」
「蒸し焼きと、炭酸水ね。了解」
軽やかに注文を取り、新たな客が入ればさっとそちらへと気を配っていた。
リゼルは腰に掛けていた剣や荷物を椅子に掛け、外套は着たままフードの下から店内を見渡し、耳を澄ます。
大公一家が帰って来た話題で盛り上がっていた。
冬の祭りは今年は盛り上がるだろうとか、今年は少し冷え込むらしいなどの話が店内でかわされていた。
二日前に大公女ソフィーリアが王都の使用人たちと共に騎士団に守られ帰って来たのだ、大公家の家紋付きの馬車で数日前からこっちに向かっていると騒ぎになり、そしてフーディの街に入ると領民たちが出迎えたという…実際は大公女のみが乗っていたのだが大公もこの時に帰ってきたと思わせたようだ。
屍竜討伐後の帰り際に「話題には事欠きませんから、すぐに皆忘れますよ」と言われた事を思い出す。
(森での事は殆ど話題に出てないな…瘴気がまだ完全に浄化されてないから森の一部は立ち入り禁止らしいけど、領民生活には何の支障もないか)
程無くして大きな切り身と野菜が添えられた皿と具たっぷりのスープとパン、そして炭酸水の瓶が置かれる。
幾つか副菜も置かれていて十分に腹を満たしてくれる。
リゼルはこの日の朝に東陽宮付きの執事に正式になったというメリエへ断りを入れてから街へと降りていた、裏門の通用口を自由に出入りできる鍵をその時渡されている。
(こっそり出かけずに自由に出入りしてよし、て意味だよな)
そうして街に出たリゼルは午前中に冒険者ご用達の防具店兼服飾店と武器屋に寄って昼食を取り、この街の冒険者の拠点へと足を向けた。
冒険者ギルド【フーディ出張所】
大通りと言われる通路は主要な公共施設が多く立ち並んでおり、その一つに冒険者ギルドのフーディ出張所がある、出張所と言っても大きな建物を構えている。
中へ入れば待合所として椅子やテーブルが置かれ、依頼の簡単な内容が書かれた紙が壁に貼ってある。
この世界にも、依頼一つ一つにランクが設定され、そして冒険者もランクがつけらている。
Fランクから始まり、F<E<D<C<B<A となりAランクが個人ランクでは最上位となる。
この時間はあらかた依頼は捌けている、冒険者の数も少なく内部は閑散としていた。
冒険者ギルドは職業斡旋所のような役割を担っているが、それに伴い様々な機能を備えていたその一つに「トランク」がある。
外から受付の中は見渡せない。細いカウンターがあり、そこに小窓のような受付がある。
幾つか閉っている事を表す立札が立っていた。
立札がない受付の前へと行き、まずは腰のベルトに掛けていた登録証明書であるメダルをカウンターの上に置く。
登録証は円形の掌に収まるくらいの大きさのメダルだ、それを目立つところに持とうと、隠していようと構わない。
メダルから淡い光が零れ、音もなく透明なウィンドウが開いた。
《――――登録内容を表示します
登録者名:イーライ
ランク:D
登録所:東方支部管轄
現在地:フーディ出張所
ランクアップしています、職員は確認のうえ適切に処理してください。
――――以上》
よく見かける女性が顔を出す、にこりと微笑みかけられる。
「お待たせしました、ランクアップしてますね。こちらのメダルはお預かりします、本日のご用件は?」
「トランクの確認をしたいんだ」
「はい、ではこちらのお部屋にお入りください」
4と数字が書かれた木片を渡される。ありがとう、と言ってから受付を離れる。
慣れているので地下へと階段で降りる、そこには大小さまざまな扉が並んでいる。
扉に4と数字がかかれた部屋へと入る。
小さい部屋だ、木片を指定の位置へ収めると室内に灯りが灯る。
目の前には古びた長方形のトランクがおいてあり、頑丈そうな南京錠が掛けられている。
始めてこれを経験した時は驚いた、貸金庫的なものか?とこの時はまだ7歳だった、この時はギルド職員がついて説明してくれた。
1.トランクに入るものであればなんでも預かれる。
2.登録者一人づつに専用のトランクが割り当てられている。
3.生命体は不可
4.登録者が死亡の場合、相続人を指定していないとトランク内の所有権は全て冒険者ギルドのものとする。
トランクの南京錠は所有者が触れると解除される。
「流石にオーバーテクノロジーだよな…いやオーバーでもないのか……?」
トランクの中は閉じている間は時間が止まると言われている。
魔法鞄と同じ原理だろう。
実際、中に収めているものはほぼ劣化していない、それなりに様々な物が入っていた。
殆どが生まれ育った国で手にしたものだ。
その中から一つの木箱を取り出す。箱を開くとと柔らかな布に包まれた小瓶が3つ、しっかりとした封をされ透明な液体が収まっている。
蓋を閉じその木箱を魔法鞄へと入れた。
そしてトランクを閉じれば終わりだ。
帰りに更新された登録証のメダルを受け取りギルドを出た。
まだ日は高い、夕飯ごろに帰ればいいだろうとこの後の予定を考えた
「もう少し時間があるな、市場にでもよって、それから外套とナイフを受け取って帰るか」
手に持ったままのメダルを少し空に掲げる。
円形の外側には登録者名が刻まれている、そして中央にランクを表す「D」を図案化した意匠が描かれていた、ランクが上がるとこの中央の部分だけが取り換えられるのだ。…しかし一見しては分解できるか分からない。
「よく出来てるよな、これどうなってんだろう」
屍竜の件でランクアップしたのだろう、別にランクを上げたい欲はなかったが。
少し変わった持ち慣れたメダルを指腹で撫でつい口元が綻ぶ。
腰のベルトへと落ちないようにしっかりと付け直した。




