様々な理由ー聖南塔にて
一時ある噂が領内で囁かれた。
「冬の精霊宮に最近招かれた客人がいるらしい、こんな時に……そいつらが災厄を招いているって話本当か?」
「大公様が療養先で連れて帰られたらしいが、…どうやらそいつらの所為でご快復が遅れてるそうだ」
「どこぞの男爵家の愛人だかなんだからしい、子供は…誰の子とも知れないって噂だ」
というものだ、一部事実が紛れている為に妙に信憑性があったが徐々に忘れられていった……はずだった。
しかし邸宅内の使用人達の間では密かに囁かれ続ていた。
その噂を意図的に広めたのではと疑われたのが、
留守を任されていた執事長だ、彼は元侍女長を同情を理由に復職させた。
同じ職では角が立つとして内々に下級侍女の同名の人物を装って雇ったのだ。
その後も、様々な不正を見逃していた。
「身の程を弁えさせるために行ったのです、旦那様」
執事長は大公ユウリスの前に引き出されて、そう朗々と答えたのだった。
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大公家邸宅―――冬の精霊宮内 聖南塔
邸宅内で罪を犯した者を始め大公家内のもめ事を起こした者たちを収監するための塔だ。その塔の一室に当主が座する為の椅子が運び込まれた。
セルシウス大公ユウリスは青みがかる銀髪に水色の瞳を持ち、端正な顔立ちで、年齢は40を超えたがあまり感じさせない。肘置きに両肘を添え置き、両手を組み当主のみが座る椅子に座っていた。
傍らに側近を務める腹心セルジュ・ロハン、更にユウリス専属護衛騎士を務める鎧を纏うフランシス・チェーリアを伴っている。その他、衛兵や騎士なども数名配されていて物々しい。
それを隠し部屋から、リゼルは見ていた。
「こちらの姿はあちらには見えない、声もね」
第一騎士団所属副団長だとこの前教えられ驚かされたアルファルド・レイン=リクスティンが向かい側に座っている。そして傍らにはメリエが変わらずに控え、そっと茶すら用意された。
壁側に沿う形でテーブルと椅子が置かれていた、壁の一部が透けて隣の部屋が覗けるようになっていた。
「隠し部屋からのぞき見か…わくわくするな、で、あちらはどうなってるんだ?それにとても牢屋があるような部屋には見えないな」
「……リゼルは本当いい子だね。絵画が飾られているんだ、このサイズのね。昔は住居用に使われていたそうだが、改装して罪を犯した者やその疑いのある者を収監したりが主な目的で使ってる、ひと昔前は処刑もされたとか」
「何故今の流れで良い子になったんだ…?というか嘘だろ、ああ、あの屋上からとか?」
「よくわかったね?そうだ、屋上に閉じ込めて飛び降りるか、凍死するかを選べる。昔は叫び声が響いていたって話だよ」
「…その選択肢ヤバいだろう…?しかも悪趣味すぎる」
隠し部屋にてリゼルはこの顛末をどう決するのかを見学する事になっていた。
ユウリス大公の体調は――以前ほどではないがまだ芳しくないという。
母との関係性を明確に教えられたことはない、ただ母は「傍にいるのがお勤めなのよ」と言っていた。
(あの二人を見ていても、甘い雰囲気は一切なかったからな………。)
「閣下は7年前の魔物討伐の折に怪我を負われた、しかしその怪我が癒えたにもかかわらず、時折冷気を伴う魔力が体から溢れ凍えそうになるんだ、…悪くすればお倒れになる。そしてあたり一面氷漬けだ。恐らく「呪い」と判じられているが、根本的な治療法が分からないままだ、様々な手を尽くしたが、その中でフレイヤ夫人を見つけた。彼女が側にいると閣下の症状は落ち着いている」
一度凍えて死にそうになった経験があるリゼルは想像して言葉を失った。
寄りによって母さんとは……という思いが通じたのかアルファルドも苦笑いを浮かべている。
「人は熱がなくば生きていけない、それは閣下も同じだ。氷の大公と呼ばれたりされるが……生身の人間であるのは変わりない」
………ここで知り合いの少女の顔が浮かんだ。
そういえば瘴気払いの為とはいえ体内から火を魔法を込めた魔力を飲ませた事を思い出し――――ん?
いや、既にやってるだろうし…と頭をふり。
「今は?母さんと離れてるという事は治ってきたという事でいいのか」
「多少ね、以前よりは「呪い」は弱まっていると言われている、だが快癒されていない。そんな中で魔道具を一つ作る事に成功してね…冬の間はそれで何とか持つだろうと。夫人は領地の寒さは嫌気がさしているとかで同行を拒否されているからね」
「…母さん………ほんとすみません、母がいつも…」
「リゼルの所為ではないよ、本当に――――君も苦労するね」
慰められた。
そんな隠し部屋の様子とは異なり隣では粛々と留守を任されていた使用人達が引き出されいた。




