侍女長のおもい
グレータはじっと自室である使用人部屋の椅子に座っている。
両手には拘束具が嵌められ自死防止の魔法が込められていた、彼女は解くことが不可能だ。
牢ではなく自室での拘禁となったのはグレータの年齢とその精神状態も考慮されたからだった。下級侍女として表向き迎えられていたが侍女長として勤めていた時と同じ部屋がグレータには与えられていた。
それは尋問、というよりは確認作業のようだった。
「王都だけでなく執事長へ懇願されていたと聞いています」
―――私は亡き大公夫人、アビゲイル様よりくれぐれもお子様たちをよろしくと頼まれたのです。
「その思いに執事長も絆され。業務は亡き大公夫人様に関する施設のみと限定されていたはずです、そうして下級侍女として迎え入れられた」
―――何故、私は……いいえ、分かっております、お子様方がお帰りになった時の為にも私はここに居なくてわならないのです。
「それなのにいつしか侍女長として振るまい、他の侍女達を纏め上げるようになった、……長年の経験がありそして信頼もあった。表向き…最初こそ以前のように人手不足のなかその采配を振るわれていたようですね」
―――当然です、この冬の精霊宮を守る事こそが……勤めなのですから
「しかし1年もしないうちに随分とこの邸宅は荒れたようですね」
―――いいえ、十分に維持されています!
私は仕事を完ぺきにこなしました……大公女様が…帰ってこられたらきっとお喜びになるでしょう!
「封じられている大公女様の自室へ入り、亡くなった母君の肖像化を飾り付け、遺品と白薔薇に…そして着られる事もないドレスを沢山発注され一部はすでに納品されていますが、資金はどちらから出てるのでしょうか?」
―――お母様の面影をお忘れにならない為です。
あの女が…あの女が塗り替えてしまったものを戻しただけのこと。
資金?資金など…
「東陽宮に務めるべき使用人たちを唆し、業務を疎かにされ、そして…子爵夫人のご子息が個人所有されている財産を貴女の独断で処分した……これがどれほど重罪かわかりますか」
ああ、あの忌々しい妖術使い!なんて、薄気味悪い!あの、口に出すのも…っ
呪われた子なのです!夏に雪が降り、嵐が雷が激しい日も常よりずっと多かったのです!水害も起こったのですよ!全て全てあの母子が来てからです。
「その噂は根も葉もないことです、以前にもこういった危機がありました。侍女長として勤めたほどの方がそんな世迷言を信じておられるのですか!」
―――皆が皆が言っていました、皆が………
「――、…暫くはこのままこの部屋でお過ごしください。必要なものがあれば外の者におっしゃっていただければ用意いたしましょう」
それから数日後
グレータは変わらず日課の朝の支度を済ませていた、きっちりと身支度を整えて、それから開かない窓を見たり本を読んだりして落ち着いた様子だった。
そんな日の朝に扉がノックされた。
私室に外から鍵を掛けられて以来、外には出て居ない。
食事の時間以外にも騎士が定期的に様子や具合を聞いてくるのだが、グレータは顔も向けることもなく椅子に座っていた。
ふわりと爽やかな香りがする、それは懐かしい匂い。
ーーー姫さまが好まれていた…
「グレータ、久しぶりですね。…何年もお手紙を書いたのに返事がなくてどうしているのかと気になっていました」
振り返った先に少女が立っていた。
大公家直系特有の青銀の髪は真っ直ぐに伸ばし、スラリとしたワンピースを着て、瞳はブルーグレー。
記憶よりもずっと大人びて声も落ち着いているが…見間違えはしなかった。
「ひ、…姫様でございますか…?大公女…さま、私の…姫様…ソフィーリア…さまで」
ガタっと椅子が倒れる、グレータはフラフラと立ち上がる、騎士が止めようと動くのを少女が手で止める。
「そうよ、グレータ…随分と帰りが遅くなってしまってごめんなさい」
何処までも涼やかな穏やかさを湛えて、彼女は真っ直ぐに見つめていた。
15歳になった大公女ソフィーリアは老婆のようにやせ細った皺だらけの両手を取る。
「…幼かった私は貴女を傷つけてしまった。だからその責任を取りにきました」




