突然の変化が始まっていた
「執事長始め侍女長たちは昨日の時点で拘束し、現在は一部自室にて拘禁、または牢屋の中だ」
突然の拘束と牢へぶち込まれたとの話に一瞬ついていけず、口に含んだ紅茶をごくりと呑みこんだ。
危ない…吹くか気管に入りかけた、ごほっと咳払いしたらメリエからさっとナプキンを差し出される。
「リクスティン卿、お気を付けください」
とメリエが怒っていた、すまんすまんと悪びれず騎士が答えている…ワザとか、お前…
「――――あまりに急で…何がどうしてそうなったんだ?」
リゼルは眉間にしわを寄せ軽く咳払いしてから問いかける。
本当に意味が分からない。
「少し面倒が起こってね、本来はもう少し後にするかと思ったが――――、知ってるかな西の森へ騎士団が今出てる。その騒ぎに乗じてね、少々強引だったが……」
(知ってます、とは答えられない…。しかも騒ぎに乗じて…って急ぐ理由が他に出来たって事か…?)
「俺も午前中に森での依頼が終わってその時には街にいたから詳しくは知らないが何かがあったらしいとだけは知ってる。………」
「そう? それはよかった、詳しい事は…そうだなもう少し落ち着いたころにしよう」
嘘は言ってない―――ぎりセーフだろう、アレの件に関わった冒険者名はイーライであるし基本秘匿する事になっていると言う話だから大丈夫なはず。しかし……何処まで把握されてるか分からんが全部ぶっちゃけるのは流石にやめておこうとここは知らないふりをした。
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帰宅したのち、邸宅内の様子を見て回るかと準備したがメリエに聞くのが早いか?
と気づいたリゼルは暫くどうするか悩み、そのままダラダラしていた。
すると二人が部屋にやってきた、様子を見に来たらしい。
そこで怪我の事で多少問い詰められたが、回復魔法をかける程でもないのであと数日で治る事を説明をして二人は納得したようだ、自爆したとはとても言えなかった。
そのままお茶を1階でしましょうと誘われて今に至る。
どうやら森に出た屍竜の件で何か計画に狂いが出たようだった。
…密かにリゼルは大公が帰宅するのでは、転移して帰ってきたのではと疑ったが
その辺りは名言されなかったので、こちらがボロを出すわけにも行かず黙っておく。
2~3日は本館はバタバタしているし騎士がうろつくという。
別に自由に歩き回っていいが出来れば暫く邸宅にいてほしいと言われた、
急ぎの仕事はないし…怪我というか疲れもあるので承諾する、その間はメリエを含んだ数人の使用人がここに滞在するという。
「――なんか、大変だな」
何処までも他人事のような言葉が出る、恐らく牢屋へぶち込まれた理由の幾つかに自分が関わっているだろう事は何となくわかっていた、だが口に出せる程の確証もなく、少し距離を取る言葉が出る。
それに少しアルファルドは目を細めたが、何も言わなかった。
(出来ればもっとバラバラに起きてくれ……)
昨日の今日というこの事態に流石にリゼルは深いため息を零す。
熱めに注がれた紅茶を含み、サーブされたケーキをぱくりと食べて。
休憩も終わりアルファルドが本館に戻ると言うので俺も部屋に戻ることにした。
「そういえばメリエ、部屋について話をしたいと言ってなかったかい?」
「はい、そうでした。リゼル様のお使いのお部屋ですが、あちらは子供部屋としてご用意されたものと伺っております、加えて主寝室の続き部屋でもありますし、なので近日中にお部屋を移ってはどうかと思っております、如何でしょうか?」
「……えーーーーーーっと?」
「17歳で母君の寝室の続き部屋を使ってるのは、少し考えものだね」
「はあ!?あの部屋…まだ母さんの部屋か、……」
いや言われてみればそうか…確かにちょっとそれは…………。
向かい側に座るアルファルドは目があえばにこやかな人好きする顔を向けてくる。
部屋はこの宮の別の部屋に移ればいいという事になった。
急ぎではないので決まったら教えてください、とメリエに言われリゼルは素直に頷いた。
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暗き森にて屍竜討伐戦が行われていた頃ーー――――
急に騎士団が召集され、邸宅を慌ただしく出立した。
との話が夕暮れが迫る時刻には、本館の使用人達を騒がしていた。
侍女長グレータは「何事ですか?」と問いただしても誰も答えられず、
現在この領地に残された使用人達の責任者であるはずの執事長の姿も見当たらない。
そんな中で、昨夜遅くに騎士館に入ったと言う第一騎士団所属の騎士、アルファルド・レイン・リクスティンが姿をあらわした。
先祖の中に大公家の血筋が入っていると言われ、忠臣とも知られるリクスティン伯爵家の先代の子息で現当主の同腹の弟として知られる、未だ独身の27歳。
第一騎士団は最も有望である人物が配属されるところでもある。家柄、能力、そして容姿も加味されるとも言われていた。
騎士たちを従えて、本館正面出口に立った彼は侍女長が現れた方角へと視線を投げる。
丁度良かったお呼びしようと思っていた所です、と人好きのする笑みを見せる騎士の洗練された姿に侍女長の傍に従う若い侍女たちが浮足立っている。
「リクスティン卿、騎士団が出立したとは真でしょうか?」
「ええ、駐屯しておりました第二部隊の一部が出たそうですよ。暗き森で少々騒ぎがあったもので、ただ即刻ギルドからは問題ないと通達が来ております。ですがよい機会ですし、一度本番さながらの訓練も良いだろうと第二の団長が話されておりました」
「それならばこちらへ即通達するべきでは、私は留守組を纏めている立場でもあるのです。たとえ騎士団とはいえ、説明があってしかるべきでしょう」
「必要でしたか?」
「当然でしょう、この騒ぎに皆も驚いておりますので」
「私こそ、信じられませんよ。何故貴女がここにいるのか」
「……?何を、私は侍女長としてこの…」
「貴方の現在の役職は下級侍女です、…現侍女長は王都のタウンハウスにてお勤めでいらっしゃいます」
「…何をおっしゃているのですか?私は…ここ数年ずっと務めておりますのに下級などとっ」
「王都へと復職を何度も願われていましたが…却下されていた筈です。ただ執事長が便宜を払い下級侍女としてならば復職を認めるとなったとか。しかし今の貴女から見るに随分と職務から逸脱されておりますね、そして越権行為をさも当然のようにされているとは」
「…名目がどうであれ!私は…十分に侍女長として勤め上げております!!」
「我々が知っている事実とはずいぶん異なりますね、夫人」
アルファルドの傍に佇んでいた騎士がさり気なく侍女長と騙る老婦人の周りを囲い、他の侍女達を遠ざけている。
囲う騎士たちに恐れたのか、震えながら後ずさるもすぐに騎士の一人によって阻まれる。
「………っ、なにを、何なのですか…なんと無礼、な」
「よくぞ主人不在の中でこのような大それた事をなさったものだ。…誤解なきよう、関心しているのではなく呆れているのですよ」
何時しか周囲にいた筈の使用人達は其々が混乱するまま、騎士や今年春に配属された使用人達が中心となってさり気なく誘導されて行った。
「グレータ・ノイラート、貴女を虚偽申告、偽証、および反逆罪により拘束します」
本宅使用人と騎士団は別組織と言っていい。
だがお互いに尊重し、協力し、同じ主に仕えている。
――――だがこの時、騎士団は容赦なく暴れるグレータ夫人を抑え込み、その腕を拘束したのだ。




