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狭く閉じられていた世界ー過去編2

「全寮制の学校へ入っていただきます。よろしいでしょうか」


そんな中、執事長と呼ばれる役職の初老の男がやってきて告げてきた。

決定事項をよろしいでしょうか、とは?と鼻で笑ってしまう。



その話がまとまったのち、徐々に取り巻く状況は悪化していった。


食事もおざなりになり、それでも十分だったが本館から少し離れている東陽宮が面倒なのか日に1度という回数になっていた。使用人たちは距離を取っていたし、リゼルから仲良くしようとする意志もなかったのが理由だろう。



成長期で今までの服が着れなくなっても新しく仕立てられるわけもなく、


そこで誰かに執事長に訴えればよかったが、この時にはすでに騎士団が滞在する騎士館へコッソリ通っていた。

以前から、留守を預かっている使用人全体の数が足りず殆ど邸宅の維持のために人員が割かれていて、正直残った子供は邪魔でしかなかったのを分かっていたからだ。


また平民の子供や使用人の子が下働きとして邸宅内にいたのでそこに便乗した。

仕事を手伝えば、賄や収穫品などあと衣服も手に入る。


そして勉学の関しては元から大公の子供たちの為に雇われて滞在していた若い男の教師が一人残っていたのでそのまま学校に入る為の試験勉強をさせられた。金を貰っている以上それなりの仕事はしますとの態度を崩さず、使用人たちが巻き起こしている騒動には首を突っ込まないでいた。

彼が次の仕事で領地を離れるまでのおよそ2年間、彼から学んでいた。



その後、全寮制の学校について一切何も言われなかった。

どうやらその為の手続きを忘れているかワザとしなかったか…


この邸宅内である程度の身の置き場や衣食住を確保していた、ならば

このままでもいいかと、後は―――と考え13歳の冬に外へと出ることにした。


外の状況を軽く見てくるつもりで、

薄手のコートしかなかったが冬と言ってもその日は天気が良く、晴れていた。

少し小高い丘から下った先に、街も見えている。

大丈夫だろうと、誰にも告げずに出て程なくして酷く寒くなってきた、今から戻るという選択肢がこの時は出ずにただ真っすぐに街へと向かって歩いていた。



民家もまだあると油断していたなら、

急激な吹雪となり、瞬く間に白くなった視界に純粋に恐怖した、


何とか大木の下に身を寄せた、ブルブルと震え体が縮こまる。

口元に両手を添えて、ふっと息を吐いた。


吹雪が止む気配はない、それどころか木の枝に溜まった雪が落ちてきてほぼ埋まってしまった。

逃げようにも凍えと、恐怖で身体が動かなくなった。

火の魔法は殆ど効果がなかったが、多少息が出来る場所を確保出来た。

手で重ねて口元に寄せ、しばし呼吸が出来た。

どれくらいの時間そうしていたのか――――、

は、は、は、自分が零す浅い息と吹き荒れる雪の音しかしない

雪がどんどん積み重なっているのか、身体全体に圧を感じる。


―――――このまま、死ぬのだろうか。

雪に押しつぶされるか、凍えて死ぬか……。


怖い…何故、いや…慢心していた…勝手に一人で何でもやれると思っていた。


死が緩やかに近づいていた。



かあさん……



この時、あの母の顔が浮かんだ。

何だかんだいえ、今の母は彼女なのだとこの時実感する。

涙がこぼれた――――惨めな気持ちが、言い知れぬ想いが溢れてくる。

手指も足先も悴み感覚がない、涙すら凍えてしまったようだ。

徐々に力を失い瞼すら開けず、もう、このまま眠ってしまおうと抱えた膝に力が抜けかけ―――、




ずぼっと雪の中にいる腕を取られた、

いとも簡単に雪に埋もれていた体を引きずり出される。


一瞬何が起こったのか分からずにいた、雪から庇うように自分の前に小さな体が立っていた。


「おお、なにやらいるとおもったならば、まだ子供ではないか!」


何か言われているが上手く聞き取れず、…辛うじて霞む目には


雪のような髪が吹雪の中でたなびいていた。

辛うじてその肩に掛かる弓や矢筒をもっているようだった。


真っ白な服を着て、羽織っていた白い毛皮を躊躇なく脱ぎ、包み込みまれる。

途端に体の中の熱が戻ってくるのを感じた。


大きな毛皮に頭からずっぽりと包みこまれて周囲の音すら遮断される、僅かな隙間に顔を寄せてきた赤い双眸がこちらを見つめていた、凍っていた涙が溶けて頬を流れる。


「よしよしいい子だ、もうだいじょうぶゆえそう泣くな」



それが白髪赤目の少女、シアとの出会いだった。


彼女はリゼルよりも小さい体をしていたのに難なく雪の中から助け出すと拾った少年の体を毛皮でくるんだ。

そのまままるで俵を持ちあげるように抱え、


リゼルが目を覚ました時には暖かな部屋だった。

処置が早かったから体は五体満足、壊死する事なく無事だった――――。


この時から、リゼルの世界はあの邸宅からようやく外へと広がっていった。

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