終りは高みの見物になりました―討伐終了
個体名:屍竜ファムリア
発見時にはすでに瘴気をまき散らしていた屍竜へ早々に識別番号として名付けがされていた。
(今から討伐するのに名前とは…)
早めにしておくと後々便利なのだと言われ、はぁとリゼルは気のない返事をした。
>>>>>
応急処置をされ、朦朧としたまま救護テントの一つへと運ばれた。
そこで服を脱がされ、軽く湯あみされ下着姿で見分されて生成りのシャツとズボンに着替える。衣類は洗濯して乾燥して返してくれるらしい、手慣れている……、その頃には深い疲労感や僅かな痛みがあるが意識はハッキリしていた。
深い傷は残っていなかったが、皮膚表面上の火傷や爛れ、細やかな擦り傷などを包帯やガーゼを当てられ、頬や首元、利き腕の右手にと大げさな仕上がりだったが一番酷い怪我は今のところ君だよと言われた。
ギルド設営の拠点で、様々な用途のテントが置かれていると説明される。
一晩様子を見るので帰れないこと、知らせたい相手はいる?と聞かれ否と首を振る、
この時うっかり今朝の事を忘れていたのを後々思い出すのだが。
拠点外に出ないこと、食事は提供しているテントに行けば24時間利用できる事等が説明された。
ちなみにファムリアという名前の事もここで知ることになった。
後は拠点内なら自由に過ごしていい、無理せず具合が悪くなったら誰かに言う事を厳命される。手慣れてるし、全てが所謂マニュアルがあるんだろうか?
(こういうの初めてだけど、ギルド的にこんなの慣れているんだろうな)
そう納得し、ベッドのサイドテーブルに立て掛けられていた長剣だけ手にして、
借りた外套を着こむとテントの外へと出る。
思ったより多くの人が行き来していた。
もう日が暮れ始めている暖かく感じていた空気は冷たい。
篝火や魔法の光で明るい、障壁魔法も四方へ張られ、拠点を守る冒険者達の姿もチラホラある。
遠くから屍竜ファムリアの咆哮と魔法の波動、そして人の声が聞こえてくる。
その方角を目指し少し離れた場所へ移動して、
木々の隙間から見える位置を探す。身軽に太い枝の一つへと登った。
いたたっと鎮静薬が切れ始めていたが、大木の上から開けた視界の先に黒い靄が立ち込めているのが見える。
「なるほど、ここから視えるし三方は岩壁――」
木々の中でぽっかりと開いている地へファムリアと名付けられた屍竜は追い込まれていた。
騎士団がこちらを背に屍竜ファムリアと対峙する位置に陣を敷いている、その中に白地に青の大公の紋章が描かれている旗が掲げられている、そして一つ特殊な旗がある白い花の文様と青い精霊を表す図案。
総指揮者があそこに居るという印だったはずだ。
「……、大公が居るのか、または代理かな。魔物が領内に出れば…そうなるか…?」
大公当主代理としてディートリヒ大公子が来ているのかもしれない。
大公に似ているしとても落ち着いていて聡明な少年だったはずだ、あの時は12歳、もう18歳のはず、長い不在に慣れていてあまり実感が湧かない。
ふと今朝の久しぶりに見た騎士の顔を思い出す。
アルファルド卿――――大公直属の第一騎士団所属、あの中にいる可能性が高いが個人を識別するのは難しく早々諦める。
(そういえば、夕飯ごろには……帰れないか。うーん…)
改めて連絡をお願いするのも気が引け、それほど親しい間柄でもないと判断する。
この騒ぎは伝わっているだろうし忙しいだろう。
風上の方角から冷たい空気が流れてくる。
どうやら大公家騎士団の方角から流れて来ていた、魔法か?と目を凝らしていれば
囲まれほぼ身動き出来ないでいた屍竜ファムリアの翼が大きく膨らんだ。
バサッと翼が開くと更に大きく見える、ぐるっと竜の頭が持ち上がる。
こちらを向き見た、そして大きく口を開けゴオオオオオォォと咆哮している。
ビリっとした殺意のような強い魔力の気配を感じて一瞬びくっと身体が震える。
周囲にも伝わっていたようで、きゃ、いや、ひぃと言った声が所々から上がっている。この距離と障壁魔法を超え、チリチリとしたあの魔力を感じリゼルは思わず手にした剣を握り締める。
(しつこい…っ、竜の性質的にもやはり一度決めた獲物への執着心が強いのか?)
ぶるっと震えるが、竜体が僅か浮いたところを槍や剣を持つ騎士たちが追撃し、矢も放たれている。
そして―――竜の気が地上に向いている隙に翼が切り飛ばされた。
遠くて確証出来ないが、……多分さっきの冒険者の男のようだ。
魔力を使って飛んでいるのだろうが、その要は翼にあったのだろう、あえなく墜落する巨体から騎士達や剣士が即座に離れている、地上で藻掻いているが……徐々にその動きは鈍っているようだった。
白い靄が瘴気の中に漂っている。
瞬く間に腐敗したその体が氷に覆われていった。瘴気すら凍りついていく。
靄が立ち込めていたいる中からキュゥゥゥーーー、か細い竜の鳴き声が聞こえて来た気がした。
身動き取れず瘴気すら抑えられ、再生力も追いつかなくなったのだろう、
容赦なく振り下ろされた剣によって首が斬り落とされる。
どっと地面に転がり落ち、―――瘴気が溢れる前に凍り付く。
徐々に歓喜が広がりギルド拠点の中はにわかに騒がしくなっていた。
…言葉にならない程凄いな、とリゼルは木の枝の上でぼんやりと終わった方角を見ていた。
「お疲れ様です、イーライさん救護テントの担当者が探してましたよ?身体休めないと、若くてもゆっくり養生しないと!」
「い、今死にかけた…っ」
目隠しの男がまた突然現れた、思わず落ちかけた体を支えられている。
本気で落下死しかけて声が震える。
「もー荷物持ってきたんですよ!ついでに採取依頼受けてたんでしょそれ俺が提出するんで出してもらったらご飯食べて休んでください」
「忘れてた」
「だと思いました、イーライさんには今回とってもお世話になったんでこれはサービスしときます」
そう言われ、どーもと空笑いで返す。
終わったのだとじわじわと実感していけば、先ほどまで感じなかった疲労感と眠気が強くなる。
リリーンとまた涼やかな音が鳴った。




