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なりゆきで追いかけられてますー後編

それは油断したとか、疲労が溜まっていたとかどれもこれも原因に当てはまる、

が屍竜が飛んだ事に驚いたのが一番だろう。


(おまえ、その翼で飛べるのか!?)


腐敗し片翼は折れて被膜も敗れ骨組みも露わな一対の翼がバサリと低空で羽ばたいた。長くは羽ばたけずに落下するように地に降りてきたが距離を詰めるには十分に効果的だった。


「―――っ、!!」

ドン、と足を取られるほどの振動とぶわっと辺り広がる悪臭に顔を顰める。

目と鼻の先に崩れた肉を纏わせている竜の頭が迫っていた、尻尾が辺りを威嚇するように木々や岩を砕いている。


振り上げた右手に炎が揺れ、屍竜へ向ける。

バチっと音が弾け火花が散るような爆炎が起こった、チリっと焼ける火の粉が含む空気にリゼルは吹っ飛ばされたが屍竜は大した事がなさそうだ。ただ怯ませることは出来たようで長い首を振り腐敗した肉が焼き爛れて飛び散らしている。


「……痛っ!く、のぉ」


肌が焼ける匂いと痛み……ひりっと皮膚が引き攣れる。

咄嗟に目を閉じた事とフードを被っていたお陰で致命的な被害は避けれた、外套のフードが焼けて衝撃で脱げたがそれに構っている暇はなかった、――それより自前の火で自滅したことが腹立たしい。最期の魔石は使い切り、瘴気と熱風を真正面から食らって息を吸うたびに喉が焼かれているような錯覚を覚える。

自己回復の魔法を無意識に発動し、がはっと息を吐きながら―――帯刀していた長剣を抜き放つ。


手に馴染んでいない、護身用のように持ち歩いている剣はリゼルと一緒に海を渡ったモノの一つだ。タダでは喰われねぇよという意気込みを込めて構えようとしたが、その覚悟はすぐに霧散することになる。


白い鋼が閃きが、今まさに食らい付こうと大きく顎を開けていた屍竜の頭へ振り下ろされたのだ。


目の端に映ったのは冒険者だろう余分な装備のない、シンプルな出で立ちの男だ。

ガツンっと骨まで響く、いや砕くような音。

斬れなかったのを悟りすぐに弾き飛ばすように剣を翻しザシュと屍竜の首元の肉や骨の一部切り裂いた。

たまらず後退した巨体がよろよろ引き下がる。


「硬ぇな、腐ってるのに」


男の背が庇うようにリゼルの視界に入ってくる。

その背の向こう側で押し返された屍竜へ何処からか矢や魔法が放たれてさらに屍竜との距離が離れた。


片手剣を軽く振り瘴気を煩わしそうに払ってから男が此方を振り返った。

何処までも冷めたような目がこちらを見下ろしている。

年のころは変わらない位に見える、若い。

危機が一先ず去った事に握っていた剣の柄から力が抜けて、剣先が地を削る。


「その剣、アンタには勿体ないな」

「―――…っ、言われなくても知ってる」

「ならいい。後はやっとく下がってろ」


気分を害した気配もなくそれどころか少し笑った男は手をひらっと上げて片手剣を握り直すとそのまま屍竜へと突撃していた。

何だ今の?無礼な物言いについカッとなったが事実だった。礼も言えず困惑まじりに佇むリゼルは突然首根っこを掴まれる、「飛びますよ!」と声と共にリリーンと涼やかな音が耳元で鳴る。


どれほどの距離なのか、開けた場所へと転移したらしいのを遅れて理解した。


「浄化しますのでそのまま」


ローブを着ている、司祭だろうか、数人が杖を振り上げてこちらに聖句を唱えている。ぱあああっと頭上から足元へと円状の魔法陣がスキャンを行うように淡い光が身を包み込んでくる。

重く思考を鈍られていた感覚が晴れて瘴気が浄化される、同時に強い疲労感と痛みが酷くなった。


「さっきの肝が冷えましたよぉ、いやー間に合ってよかったぁすぐ治療しましょう」


斥候の男が布で目隠ししたままこちらを覗き込んでくる。先ほどの鈴の音は転移移動の音だったようだ。


「……ああ、死ぬかと思った。ありがと」

「いえいえ、大丈夫ですよ!臨時収入期待しててくださいね」

「……………、すっごい期待、してるから、な」


ぐったりと地に膝を付く、手にしていた剣が転がった。

煌めく刀身を見て――――……剣も稽古しようと心に決める。


救護テントの職員たちが慌ててこちらに来ると怪我の手当てをされる。

その間に斥候の男が剣を鞘に戻して傍らに置いてくれた。

一先ず生き残れたことを実感してふわふわとしていた所為で職員の説明はあまり聞こえていなかった。

何やら薬を飲まされ、休んでくださいねと念を押される。

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