第62話 別行動
「なんだよ。今度こそ早く行こうぜ?」
「そうなんだけど、どうせなら二手に分かれると言うのはどうかしら?」
「二手……ですか」
「だって、そうした方が入手できる確率多いじゃないの。名案だわ!!」
確かにその方が効率はいいだろうけど、今回のルールはシンプルだからこそ、敵が魔物だけでないのは明白だった。
この【予選大会】は、冒険者同士で水晶を奪い合うことを想定しているに違いない。
だからこそ、4人全員で固まっていた方がいいと思うんだけど……。
「でも、他のパーティーと戦うことになったら、人数は多い方がいいのではないか?」
アディさんも僕と同じく全員纏めて行動する方がいいと考えているようだ。
「てかさ、だったら、最初からここでずっと待ってて、持ってきた奴をぶっ飛ばして奪っちまえば良いんじゃないのか?」
「いや……。多分、それは辞めた方がいいよ、フェンリル。あそこ見て見なよ」
サロメくんが指差したのは、城の窓から僕たちを観察している衛兵たちだった。
「恐らく、この城の前で奪ったら失格。ついでに、ここにずっといても失格になる可能性が多いですわ」
「強ければいいと大臣は言っていたけど、ちゃんと【選抜騎士】に相応しい品性かも問われているって訳ですね……」
僕たちは4人同時にロウを見た。
「おい、お前ら、なんだその目は! 俺に品性がないって言いたいのかよ!」
全員が無言で否定も肯定もしない。
沈黙が流れた。
僕は提案者の弟であるサロメくんに聞く。
「と、とにかく、どうしましょうか? サロメくんはどっちがいいと思う?」
「俺はお姉ちゃんに従うよ」
「だよね……」
困ったな。
別れて行動するのに反対なのは僕とアディさん。
賛成は提案者のクーシャさんにサロメくん。
丁度半々だ。
となると――最後はロウの意見で決まるのか。
「ねぇ、ロウ。どっちの方が良いと思う?」
「分かれるかってことか? そりゃ……二手に分かれた方が、早いんじゃないのか? お前達なら、二人でも負けることは無いだろうからな」
ロウの意見によって、意見が3対2になった。多数派のクーシャさんが腕を組んで得意気に笑う。
「決まりですわね。そうしましたら――サロメ!!」
「分かってるよ、お姉ちゃん」
サロメくんが、ガシっ、とアディさんの腰を掴んだ。そのまま膝を曲げると人間離れした身体能力を使ってアディさんごと南側へ消えていった。
「あ、ちょっと待って……!!」
身体能力を強化していない状態では、追い付けるはずもない。一瞬のうちにサロメくんは森の中だ。
「これで良しですわ!」
「何がいいんですか! 仮に二手に別れるにしても、これまで一緒に戦っていた僕とアディさん。サロメくんとクーシャさんの方が良いに決まってるじゃないですか!」
戦いなれた二人の方が連携も取れるのに――何故、あえて初めての相手同士で挑まなければ行けないのか。
「こうなったら、ロウ、僕達も南側へ行こう!」
移動速度に差はあっても、目的地が一緒ならいつかは追い付ける。ロウと共に歩き出した僕を「待つのですわ!」クーシャさんが後ろから抱き着いた。
ふわ。
ムギュ、ムギュ。
ムニ、ムニ。
……。
なんだろう。
背中に柔らかな感触が……。
「あなたは私と一緒ですわ」
抱き着く力が更に強くなる。僕の身体の形に合わせて変化する柔らかな球体は、まるで一つになろうと踊っているみたいだ。
こんなに人に密着されたことは、あまりないから……なんだか恥ずかしいな。
「あらあら。顔が赤くなってますわ。何か恥ずかしい事でもあったのかしら?」
クーシャさんが耳元で囁く。僕の反応を楽しむみたいに耳に優しく息を吹きかけた。蝋燭の火を消すような優しさで吹きかけられた吐息が僕の耳を撫でる。
「ちょ、ちょっと!」
僕は強く抱き着いてくるクーシャさんを強引に引きはがした。
「いやん」
離れた彼女はわざとらしく、腰をくねくねと動かし「照れちゃうわ」なんて顔を赤らめて見せる。
「いやん。じゃないですよ。一体、何考えてるんですか!」
「何って、折角なら早く互いのことを知った方がいいと思いまして。あなたもそうは思わないかしら」
「そりゃ、僕だってそう思いますけど……」
パーティーのチームワークを高めることは必要だ。でも、だったら二手に分かれずに、まずは4人で行動したほうが良かったのではないか。
……きっと、クーシャさんはそう思ってないんだろう。確かに人数が少ない方が深く知ることができるだろうし。
「ま、ここで言い合ってても仕方ねぇ。俺達は俺達で別の場所を探しに行こうぜ? ユライ」
「そうだね、とにかく【予選大会】を突破することが大事だもんね!」




