第61話 予選大会開始
「良かった。無事、受付して貰えたね」
「ああ。予選大会は三日後が。楽しみだな」
僕たちは部屋に帰ってきていた。アディさんは【予選大会】の準備をすると、一度、彼女が暮らす家に返っていった。
「だね……。それにしても、ロウが魔法の真理について教えるとは思わなかったよ。なんだか、いつも隠したいみたいな感じだったから意外でさ」
「そりゃ、俺だってやたらに教えたくはない。だが、手札看破の力を他人に与えてる存在がいるんだとしたら――そいつを最優先に見つけなきゃなんねぇ」
ロウが自分の考えを押し殺してまで見つけたい相手。
それは一体、何者なのだろうか?
「ひょっとして、その人はロウの知り合い?」
「いや、分からねぇ。ただ、もしかしたら同じフェンリルかも知れないんだ」
フェンリルの中で、そんなことをしてる奴がいるなら許せないとロウ。
あれ、でも……。
「クーシャさんはヘドロみたいな人間って言ってたような?」
「……」
ロウは表情を「あ」と口を開けたまま数秒固まった後に、「とにかく、俺はあいつらと行動をするのは大賛成だ」と無理矢理会話を締めくくった。
「分かったよ。それで話は変わるんだけど、この三日間、新しい魔法を探そうと思うんだけどどうかな?」
元々、僕は魔法を集める為に旅に出ていたのだが、色々合って、殆んど新しい魔法は手に入れていなかった。
「お、おう! それは俺も大賛成だ。けど、三日じゃ遠くまでは行けないぜ? なにか欲しい魔法に当てでもあるのか?」
「うん。【予選大会】に挑むに当たって、もうちょっと万遍なく色んな属性の魔法を用意しておきたいなって」
魔法にはいくつか属性がある。
火・水・草・電気の基本4属性。それ以外にもいくつか種類があるらしいが、そもそも僕は基本の内2つの属性しか持っていない。
【爆発】【三連火弾】の火属性。
【泡弾】の水属性。
魔法の属性によって有利、不利があるので、全属性は持っておいた方が良い気がするんだ。
「そりゃ、構わないが、この辺に住む魔物だと、そんなに強い魔法は手に入らないぞ? 草属性だったら、草原の奥に住むクサカリ。電気属性なら廃墟の奥に住む電球男って所か」
「うん。それで、電気は草に弱いから、最初にクサカリを倒しに行こうと思うよ」
そして、草属性は火に弱いので、僕の持ってる魔法でも簡単に効率よく集められる気がする。
◇
「なんとか、木属性と雷属性の魔法は集まったぞ!」
それから三日後。予定通り、僕は二つの属性の魔法を集め終わった。
【草薙】×2
【雷球】×2
本当は、枚数制限の4枚まで欲しかったのだけど、流石に時間が足りなかった。でも、これで目標だった全属性の魔法は手に入れたことになる。
「基本4属性の魔法を持ってれば、ある程度のことには対応はできるよね?」
「まあ、ないよりはあった方がいいわな。【予選大会】がどんなモノか分からない以上、準備して置いて損はないだろ」
「うん、そうだよね!! じゃあ、アディさんの家に行こうか!」
【予選大会】がこれから始まる。僕は自分の頬を叩いて気合を入れると、アディさんの家を目指した。
「おはよう、ユライくん。魔法は手に入ったか?」
「はい。おかげさまで。アディさんは、ゆっくり休めましたか?」
「ああ、君が一人で魔法を集めに言ってくれたお陰でな」
ブスリ。
アディさんの言葉には棘があるような気がした。
「ひょっとして、魔法集めに一緒に行かなかったことを起こってるんですか?」
アディさんは一緒に行こうとしてくれたのだが、僕がそれを引き留めた。その理由として、直前に怪我でもしたら大変なこと。少しでも身体を休めておいた方がいいと思ったのだが……。
「なんてな。君が優しさで言ってくれていたことは分かっている」
「よ、良かったです。【予選大会】を突破できるように頑張りましょう!!」
【予選大会】は城で行われるらしい。城に近づくにつれ武装した冒険者たちが多く集まっていた。数百人はいるだろうか。
この国の冒険者が集まっているのだから当然か。これだけの人数から勝ちあがらなければと思うとプレッシャーだ。
緊張しながら歩いていると、城の入口にクーシャさんとサロメさんがいた。
「おはようございますわ! ご機嫌如何ですか? 私は万全、【予選大会】なんて、余裕でクリアしてみせますわ!」
「俺も。絶対に勝つ」
クーシャさんもサロメくんも気合は充分だ。この国の中心街。王が暮らす城と言うだけあり、その敷地は膨大だ。庭に集められた数百人の冒険者。
改めてみると壮観である。
冒険者たちの頭上。
城の窓から一人の老人が姿を見せた。処刑場で僕と話していた大臣である。
「よくぞ集まってくれた。知っていると思うが、とあるパーティーが騙そうとした。だが、私たちはそれを見抜いた!」
中庭に集まったパーティーから、「勇者バニスさま~!」と茶化す声が響くと一同が笑う。
「静粛に。そこで偉大なる王は、【選抜騎士】を決めるに当たりある条件を出した! それは、クエストの達成度にこだわるべきではないと言うことだ! 純粋に力があればそれでいいと――!」
うおおお!
大臣の言葉に冒険者たちの気合の入った声が木霊する。【占星の騎士団】がクエストの達成率で選ばれ、実際には弱かったことを見込んでのことだろう。
経験よりも実力で【選抜騎士】の座を勝ち取れと。
「まず、最初の課題だ。この街と隣接する地にそれぞれに、このような水晶をばら撒いた。水晶を手にしてこの城に戻って来い。今回はそれだけだ。始め!!」
【予選大会】のルールは至ってシンプルだった。大臣が持っている水晶――手の平サイズのガラス玉を探して持ってくれば良いというモノ。
人数が人数だけに簡単なルールにしたのだろう。
始めという合図に、少しでも早く水晶を見つけようと冒険者たちが駆け出していく。まるで、牛の群れが獅子から逃げるような足音が響く。
しかし、僕達4人の中で走り出す人間はいなかった。動いたのはロウだけだ。
「おい! お前ら、どうして走らねぇ!? 他の奴に取られたら予選突破できないじゃないかよ!」
ロウは、走り出した冒険者たちを前足で刺しながら吠える。
「フェンリル。今は待つ時だ」
ロウの質問に答えたのはサロメくん。彼は冒険者の流れを観察していた。どうやら、彼は僕達と同じ考えらしい。
「あん、なんでだよ! 今回のルールは早い者勝ちだろ?」
「確かに早いもの勝ちではあるが、決して全ての水晶が同じ難易度の場に置かれているという訳じゃないと思うぞ」
「つまり、どういうことだ?」
今度はアディさんがロウに状況を説明する。
「恐らく、水晶は魔物たちが多く集まる地に設置されたと考えるべきだ。つまり、この街を囲う4つの魔物生息地域――」
街の東側――スライムなどが多く住む草原。
街の南側――港街に繋がる二頭鯨
街の北側――オーガやゴブリンが住む岩山。
街の西側――数十年前に滅んだ廃墟。
「なるほど! 強い魔物がいる場には冒険者が少なく、逆に草原なんかは人が多くなるって訳だな!?」
「そういうことだ」
恐らく、殆どの冒険者は槌臼がいる南側を避けるはず。僕たちの予想通り、城を出た人々は多くが東側に進路を定めていた。
「やっぱり。南側が少ないみていですね」
「だな。では、私たちは南に向かうとしよう」
アディさんと僕は【二頭鯨】へ移動しようとする。今日は魔法は一度も使ってない。だから、槌臼とも戦える。
だが、僕たちが走り出すよりも早く、クーシャさんが待ったを掛けた。
「ちょっと待って。私、名案思い付いちゃった」




